ズールー族のシャーマンは戦士たちに魔法の薬草を与えた
19世紀から20世紀初頭にかけて世界中で行なわれた植民地戦争では、多くの現地部族は技術的にも組織的にも圧倒的に優れた帝国軍を相手に戦わなければならなかった。そのため彼らは、多種多様な刺激的かつ幻覚的な精神作用物質を噛み、吸い、飲み、食べることによって、自らの精神を鍛え上げた。
たとえば、1879年のイギリス軍とズールー王国との戦い(ズールー戦争)がそうであった。
1879年のイサンドルワナ(Isandlwana)の戦いで、ズールー族はイギリス軍に対して兵器では圧倒的に劣ってはいたものの、奇跡的な勝利を得た。ズールー族の戦士は鉄の槍と牛革の盾で、イギリス軍のライフル銃と野砲に立ち向かい、最前線にいた1300人以上の兵士を殺害したのだった。圧倒的に劣った土着の敵に対して、イギリス軍は最悪の敗北を喫した。この敗北は、イギリス軍事史上最も屈辱的な敗北の一つであり、本国の政府と国民に深い衝撃を与えたのだった。
その後、奢りのあったことを反省したイギリス軍は真摯に戦いに向き合い、積極的で攻撃的な作戦を執り、2回目の攻撃によってズールー族の平和への希望を完全に粉砕した。王国は滅亡し、その後、領土はナタール植民地を経て、今では南アフリカ連邦の一部となっている。
イサンドルワナの戦いにおけるズールー族の奇跡的な大勝利の原因は、ズールー族の戦争準備のための儀式であった。それは、彼らが神々と接触し、勇気を鼓舞され、無限の耐久性を得るための酩酊であった。
部族のシャーマンは、戦いの前には戦士に勇気を与えるための、魔法の薬草を与える儀式を行なった。たとえば、ダガ(dagga)と南アフリカの一部で呼ばれる大麻には鎮静作用があり、戦闘前にはこの煙を吸い、スープにしたものを飲んで、早る気持ちと不安を抑えていた。
インテレジ(interezi)という植物は、悪霊を追い払うための清めの儀式でよく使われる伝統的な植物で、戦いの直前には戦士たちの士気を高めた。インテレジで作った酒を飲めば、彼らは敵の銃撃に対して強くなった。
南アフリカで一般的だった「アマニタ・マスカリア」(amanita muscaria=ベニテングタケ)も常用された。これには、強力な鎮痛剤と幻覚を誘発する効能があった。ブーファン・ディスティチャ(boophane disticha)という植物の球根も、不安を緩和する効能があった。
このようにして、ズールー人は神々から与えられたさまざまな魔法の薬草に守られて、イギリス軍の銃弾をものともせずに立ち向かったのであった。負傷しても攻撃を止めなかったのは強力な麻酔作用のおかげで痛みを感じない身体になっていたからである。イギリス兵からすれば、ズールー族の戦士はまるでライフルの銃弾に免疫があるようだった。
イサンドルワナの戦いでイギリス軍が歴史的大敗を喫したのは、敵兵の身体に照準を合わせる標準的な射撃法を守っていたからである。だから2度目の攻撃に際しては、イギリス兵は敵兵の頭部を狙うヘッドショットに集中したのだろう。(了)
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