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工夫を凝らした愛撫と考えうる限りの交わりを受けて、彼らは暗殺者になった

13世紀の初め、ヴェネツィアの冒険家マルコ・ポーロは東南アジアに向かう旅の途中でペルシャの旅人が語る「アサシン教団」の奇妙な物語に出会った。かれはこの話を『東方見聞録』という本の中で紹介した。それは、次のような話であった。

モンゴル軍と戦うアサシン軍団の兵士

「山の長老」と呼ばれる人物が支配する辺境の地があった。そこの一族は冷酷なことで有名で、アラブ世界で彼らを恐れない者はいなかった。

長老は、山の中に素晴しい「天国の楽園」という名の庭園をもっていた。そこには乳と蜜が湧き出る泉があり、色とりどりに咲き乱れる花の中で美しい乙女たちが戯れていた。

その庭園に入るためには、とても強い薬を飲まされ、意識を失った状態でなければ入ることは許されなかった。帰るときも同じように薬を飲まされ、意識を失った状態になった。

長老は、戦争が始まると、一族から屈強な若者を何人か選んだ。そして彼らに薬を飲ませて、この庭園に連れてきた。彼らが三日三晩死んだように眠ったあと目覚めると、乙女たちは若者に、彼らが口にしたことがないような素晴しい食べ物や繊細なワインを望むだけ与えた。そして若者は、乙女たちから工夫を凝らした愛撫と、考えうる限りの交わりを受けるのである。

このようにして何日かを過ごすと、再び強い薬を飲まされて意識を失って帰された。

帰った若者たちは、再び「天国の楽園」に戻りたいと強く願った。長老は、若者に死ねば再び「天国の楽園」に戻れることを説き、敵の王の暗殺を命じた。

こうして「天国の楽園」を経験した若者は、現世の生活を軽蔑し、みんな死を恐れないフィダイ(fida'i)と呼ばれる勇敢な戦士に変貌し、あらゆる危険に身をさらし、敵の王と一緒に死ぬことを望み、楽園に永遠に戻ろうと狂おしいほどに必死に戦ったのである。

彼らは、「ハシシ(大麻)を食べる人」という意味で、キリスト教十字軍の兵士から「アサシン」(assassin=暗殺教団)と呼ばれ恐れられた。

これが、英語の「暗殺」(assassination)という言葉の由来である。(了)


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