小学生がお年玉で洋楽ロックを買う
小学生の頃といえばクラスの子たちはジャニーズに夢中だった。
音楽の話は盛り上がらない。
なんせ私は洋楽ロックに夢中だったから。
それは兄の影響だった。
高校生の兄の友達が家に集まり、よく音楽の話をしていた。
広い家ではなかったので私もその場にいて、特に会話に参加することもなく自分より少し大人の集まりになんとなくその場にいるというだけだった。
そこにはバンドを始めたばかりの熱気みたいなものが充満していた。
そこではじめて出会ったのが『BON JOVI』だった。
「Livin' on a Prayer」が流れたその時に、血が沸き上がるような感覚。
はじめて聴くのに、なぜか「これだ!!」とワクワク感が止まらなかった。
それからの私は少し大人の集まりに積極的に参加していくようになった。
小学生のクラスに洋楽を聴いている子なんているわけもなく、高校生のお兄さんたちに仲間入りさせてもらったような気分でロックやバンドの話をするのが楽しくてしかたなかった。
その頃は携帯もネット環境もなくテレビでも洋楽ロックの情報はほとんど入ってこなかった。だからこそ、どんなささいな情報も貴重だったのかもしれない。
そして、いよいよ新しいCDが出る。
近所で一番大きいCDショップへ向かった。
CD買うのも予約するのもはじめて。お金をすぐ払うのか?後で払うのか?
とりあえず、大事に残しておいたお年玉をポチ袋のままポケットに入れた。
小学生がたった一人で何しに来たんだと思われていただろうがレジにいる
おじさんにCDを予約したいと伝えると電話帳のような分厚い商品一覧を開いて探してくれた。無事、予約完了。
発売日、はじめてCDを手に入れた私は嬉しくて
家に帰って早速兄に自慢した。「CDデッキ貸して!」
その時だけは独り占めするように、誰にも聴かせないように隠れて聴いた。
そのままいつのまにか居眠りをしていた私。
目を覚ますとCDが消えていた。
母に聞いても知らないよと言われ、そこで思い出した。
兄も聴きたがっていたよなぁと。兄の姿は消えていた。
数時間後、帰宅した兄に尋ねるとあっさり答えた。「あ、友達に貸したよ」
私がはじめて買ったCDを・・・お年玉で買ったCDを・・・
断りもなく他人に貸していた。
そこからはもう
兄の友達はロックを語る仲間ではなく、敵になった。
一度聴いただけのCDが戻ってくることはなかった。
その後、同じCDを手に入れるチャンスは何度もあったけれど
私にとってのはじめては、あの一枚だけ。
4thアルバム 「NEW JERSEY」