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カナブンはどう生きるか

17時までのバイトを終え、既に辺りが薄暗いのと急激に落ちた気温によって冬が始まっていることを冬が始まっているんだなぁと感じながら
高校2年生の頃に一緒に自転車通学をしていた友人が購入したことをきっかけに欲しくなって購入してもらったやや高めの自転車にまたをこすりつけながら帰宅する。
パパ、ママ、ありがとう。いい自転車です。
帰り道にいつもは見かけない丈の短いスカートをはいた女子高生だと思われる集団がまるで足なんて出してないような歩幅で歩いていたとボソッと囁いてみた。
すると突然!と思ったとき右目のちょっと右側あたり、骸骨でいうと右目が入っていたところのちょっと右側あたりに何かがぶつかった。当たった時の感覚からするとおそらく虫であると思われた。これが夏の出来事であればセミだと思うこともできたのだろうか。間違いなくカナブンだろう。
しばらく動揺を隠しながら自転車をこぎ続け、赤信号でルールに縛られた自分に気づきながら数分前にぶつかったカナブンについて思いを巡らせた。
まずは名前を付けてあげるべきだと横断歩道の向かいに立つ老人に言われた気がしたが無視をした。虫だけに、カナブンブン。
あれが本当にカナブンであるなら、空を飛ぶことには慣れているはず。
だとしたらなぜぶつかったのだろうか。
ぶつかった所が曲がり角で、飛び出てくるまで気づかずによけきれなかったのだとしたら素直に納得できていたかもしれない。
カナブンからしたら、自転車に乗っている人にぶつかることは翌日学校に行けなくなるほど恥ずかしい事件であることは間違いない。
カナブンではない僕が中学生の頃、初めて美容院で髪を切ってもらった翌日学校に行くときの表情がわからなくなった時のように。思ってるよりも周りから反応がなく表情がわからなくなった時のように。
「おい、聞いたか?あいつ自転車に乗った人間にぶつかったんだってよ。」「それまじカナ?ほんまや、眼鏡にヒビ入ってもうてるやんブン。」
「ちょっと!あんまり広めないであげてよ!かわいそうでしょ!」
「俺じゃねえよ。あいつが広めてんだよ。」
「うわ~、あいつに伝わったら学校中に広まるな。終わりやん。」
バンッ!
教室中が静まり返る。いつもは教室の隅で静かに読書をしている荒川さんが叫んだ。
「あなたたちダサいカナブンね!ダサブンよ!ダサブン!ダサブンなのよ!私だって人間にぶつかったことくらいあるわ!それがどうしたの?ばかにしたいならすれば?できないの?ほんとにダサブンね。」
後の妻である。
めでたいことがあるもんです。


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