かこさとしの戦争と絵本『スーツケース』
Bunkamuraザ・ミュージアムでかこさとし展。
若い頃からセツルメント活動に身を投じ、2018年に92歳で亡くなるまで世の中を、一人ひとりの人生をより良いものにしようと沢山の作品を生んだ人。
『からすのパンやさん』や『だるまちゃんとてんぐちゃん』などおなじみのシリーズはとても楽しいけれど、原点は社会派。
工場風景や溶接工を描いた油彩がとてもよかった。
写真不可で撮れなかったが、巨大な「宇宙進化地球生命変遷放散総合図譜」(名前もすごい)が迫力満点。なんというか、かこさとしの生命力そのものだった。
そんな中自身の体験に基づいた、戦争がテーマの『秋』は異色の絵本。
1953年に制作された紙芝居が元になっているという。その原画と編集上の注意書きを娘さんが2020年に改めて見つけ、昨年出版された。
物語は、かこさとしが季節で一番好きだという秋の美しい描写から始まる。
しかし昭和19年、18歳のかこ青年にとってそんなすてきな秋を「いやな秋だった」と思わせる一連の悲しい出来事があった。
かこさとし展に行くちょっと前に、この雑誌を読んでいた。
この中に『秋』も紹介されていた。その他にはレイモンド・ブリッグズの『風が吹くとき』やトミー・ウンゲラーの『オットー 戦火をくぐったテディベア』なども。
以前、小川未明の『野ばら』について書いた。
『野ばら』はあからさまに反戦を訴える内容ではないけれども、どうしようもなく悲しい結末。
戦争がテーマなら、それは避けられないのだけれど。
でも、小さい子どもに手渡すならやはり少しでも希望や光を感じられる物語をとも思う。
ウクライナ侵攻の終わりが全く見えない今は特に。
次のおはなし会で予定している本は、
今年の1月に出版された絵本『スーツケース』。
動物たちが暮らしているところへ、ある日見慣れない生き物が、スーツケースを引きずってたどり着く。
突然現れたこの生き物は、スーツケースの中にはカップと自分の家が入っていると説明し
そう言うと疲れ果てて寝てしまう。夢の中で逃げ回ったり隠れたり海を泳いで渡ったりしながら。
夢の中でもスーツケースに詰めてきたもののことを思いながら。
この中に家なんか入っているはずがない、こいつはうそつきだ!と動物たちはスーツケースをむりやりこじ開けようとして…。
少なくとも、結末には希望が待っている。
作者の献辞には何人かの名前を挙げた後に
「そして、とおくであらたなせいかつをはじめているすべてのひとにささぐ」と続く。
この絵本に戦争や難民という言葉は一言も出てこない。
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