クリスマスの小さなおはなし - 曲芸師、ドラマー・ボーイ、マリアの小鳥
12月になると、図書館や児童書・絵本書店にはクリスマス関連のコーナーができる。
私も学校司書をしていた時は特設コーナーを作ったり、読書の時間に関連本を読んだりしていた。読み聞かせおばさんをしている区立図書館の親子おはなし会でも、今年はどの本にしようかと選ぶのが楽しみ。
ある年の12月、6年生の教室で読んだのはバーバラ・クーニーの「ちいさな曲芸師 バーナビー」。
中世の装飾写本のようなクラシックな挿絵がとてもすてきな絵本。初版は1961年。
この物語はフランスに古くから伝わるお話の再話で、本の裏表紙には出典となった13世紀の写本「聖母マリアの曲芸師」"Le jongleur de Notre-Dame"の写真が掲載されている。
アナトール・フランスも19世紀末から20世紀の初めにこれを下敷きにした短編小説を書き、後に広く知られるようになったそう。
堀口大學訳では「聖母の曲芸師」、水野亮訳では「聖母の軽業師」というタイトル。
図書館で借りたアナトール・フランスの「聖母の曲芸師」。堀口大學の訳に、横田稔の版画。
こちらは堀口大學の格調高い訳もあって、前掲の「ちいさな曲芸師バーナビー」とはちょっと趣きが異なる。名前はフランス語読みのバルナベで、少年ではなく成人。
「バルナベが身を寄せた僧院では、聖母マリアへの信心の熱を競い合っている趣きが在った。全員が、てんでが神から賜った各自それぞれの技能の限りをつくして、聖母マリアさまに奉仕していた。」と、もっとストレートに表現していて、無学無知なバルナベの絶望と対照的に修道士たちの才能や教養の深さが詳細に描かれている。
また、バルナベ以外にももう一人「アヴェ・マリア」しか知らない、無知ゆえに皆から軽んじられていた修行僧の話も出てくる。
けれども、話の筋はバーナビーのとほぼ同じ。
図書館書庫のこんな古い全集にも小林正訳で「マリアさまとかるわざ師」として収められていた。
私が生まれた年に発行されている。
堀口大學訳よりも、子どもにもわかりやすい少し平易な言葉だけれど内容は同じ。
巻末の作者紹介で、訳者の小林はアナトール・フランスがセーヌ川ほとりの本屋の息子として生まれた生粋のパリジャンで、幼少期から古い物語をたくさん読み、この「マリアさまのかるわざ師」もそうした中でうまれたと書いている。
ついでに、エミール・ゾラと共に、スパイ嫌疑をかけられたドレフュス救済に尽力したことまでちゃんと紹介している。正しいことに味方する気持ちを生涯貫き、それは彼の作品にも表れている、と。
少年少女の本だけれど、訳者はきちんと若い読者に向き合ってくれている。
何も持たない少年がマリア様と幼な子イエスに自分ができる精一杯の贈り物を捧げるといえば、もう一つ思い出すお話がある。
こちらは本ではなく歌、「リトル・ドラマー・ボーイ」。
The Little Drummer Boyはハリー・シメオン合唱団をはじめ色んな人たちが歌っているけれど、声変わり前のマイケル・ジャクソンが伸びやかに歌うカバーが好きだ。
この曲が入っているクリスマス・アルバムを出した時、ジャクソン5は既に超売れっ子兄弟グループだったけど、マイケルはまだ5人兄弟の中の歌がうまい末っ子の扱い。
世界を席巻するスーパースターになる前のマイケル少年が歌っていると思うと、貧しくなんてなかったはずなのに、なぜかリトル・ドラマー・ボーイの姿が重なりちょっとしんみりもする。
もう一つ、こちらは女の子のお話だけれど、昔CMで使われたMoonlight Shadowを歌っていたアゼリン・デビソンのThe Giftも内容が似ている。
歌詞にペソとあるので、メキシコか南米のどこかの国?
クリスマス、賑やかで華やかな歌もいいけれど、しっとりしたのもいいな。