こだわるにもほどがある - 武井武雄の本の宝石
目黒区立美術館で「生誕130年武井武雄 -幻想の世界へようこそ- 展」 。
童画だけでなく、版画、刊本作品、デザイン、郷土玩具蒐集・研究など様々な分野で才能を発揮した武井武雄。
10年前に日本橋高島屋での展覧会を見て、また行きたいなと思っていた。その時は生誕120年記念だったので、次はまた10年後?
武井の故郷長野県岡谷市には、イルフ童画館という武井武雄専門の美術館がある。
(「イルフ」は「古い」の逆さ読みで、新しいという意味の武井の造語。「童画」という用語も武井の発案。)
そこに行けばいつでも見られるのだけれど、訪れたことはない。
今回の展覧会では、そのイルフ童画館の館長による武井武雄の生涯と作品についてのレクチャーもあった。
童画家としては「コドモノクニ」が有名だけれど、私が初めて武井武雄の絵に出会ったのは幼稚園に入る前。国際情報社から出ていた「ことり」という幼児ブックを親が取ってくれていた。
初山滋、いわさきちひろ、北田卓史など豪華な画家が揃っていたが、中でも武井武雄の絵が大好きだった。幼稚園に入ってからは月刊「キンダーブック」。
武井の絵はちまちま細かく色々なものが描かれていて見飽きないのだ。
こういうのって子どもは大好き。母は初山滋やいわさきちひろの淡く上品な叙情的な絵が好みだったようだが、私はこっちの方がワクワクした。
イルフ童画館館長のレクチャーでは、武井に関わった人々の話しも色々聞けた。
水木しげるや手塚治虫にも多大な影響を与えたそう。
個人的にはさくらももこも影響を受けたんじゃないかなと思うのだが、そこは不明。
ファンタジックな絵、ちょっと怖いけれど可愛らしい人物や動物、クレーやカンディンスキーみたいな抽象画についほのぼのしてしまうけれど、芸術/創作活動に関する話しを聞いて、改めて武井のこだわりっぷり、完璧主義に恐れ入った。
刊本作品という、中身も装丁もとことんこだわって全て自分の思いのままに作った私家版の豆本シリーズの裏話が凄まじい。
上段左上はアップリケ、中は表紙小口木版本文凸版印刷(本の題名は武井が生まれ変わりと言っていた、真善美を追求する「ラムラム王」)、右は古書の羊皮紙っぽさを出すためにベランというゴムを混ぜた紙を使用。下段左はパピルス、中は螺鈿細工、右は寄木細工を施した本。
アップリケは妻の協力を得て、パピルスは栽培から紙にするまで4年以上費やし、寄木細工は持病の胃潰瘍で入院していた職人が病院から抜け出してまで納期に間に合わせたという。ひぇ〜。胃潰瘍、絶対悪化したでしょう!
他にもゴブラン織、西陣織、磁器、ステンドグラス、レーザーカット、フロッタージュとか139種類それぞれ違う手法で制作された。ってこれ本ですよ?
中には出来栄えについて「重ね着をさせられた田舎の子どもみたい」と辛辣にダメ出しすることも。
凝りに凝ったこだわりの工芸品の域の刊行作品は、本の宝石と呼ばれて愛好家の垂涎の的だった。
私家版なので限定300部。実費で頒布。
「親類」と呼ばれる会員が入手できたが、期日までに支払わないと会員資格剥奪、シリアルナンバー入りで転売不可。親類の空席待ちの人たちは「我慢会」と名付けられた会員で、さらにその下には「超我慢会」も。
自分の物になっても、白手袋しないとこわくて本を開けなさそうだな。
肝心の本としての内容も、全部見たわけではないけれど深い味わいがある。
展示されていた刊行作品の中では、『祈祷の書』がとてもよかった。
「榛の会」という版画の年賀状を出し合う同好会は、もらった年賀状、来年も欲しいかどうかを会員で決め合い、落選したら会員資格なくなるというあんまりな会。
武井武雄、どこまでも厳しい。
本展覧会はこれからも様々なイベントが企画されている。
本やカルタのワークショップ、武井武雄の刺繍図案、美術カフェ(刊行本実際に手に取れるそう!)、トイピアノと朗読で楽しむ武井武雄の世界ミニコンサート、それから「アウト・オブ・民藝」の軸原ヨウスケと中村裕太による武井武雄のネットワークについてのトークも。せなけいこが武井に師事していたとは知りませんでした!
この展覧会のフライヤーにもなっている「星曜日」、武井はとても美しい詩も作っている。才能が溢れ出てしょうがない人だったのだなあ。
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