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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊

 犬ヶ島からずっと待っていたウェス・アンダーソンの新作。タイトル長いけど敬意を表してきちんと邦題を。以下、映画の写真はすべてパンフレットから。

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 これまでのウェス・アンダーソン映画で一番好きかも。ウェス・アンダーソンの世界盛り沢山でアニメもあってお得感、ああ、映画見たー!という満足感たっぷり。ビル・マーレイの編集長の雑誌愛、記者たちに対する愛情が映画全体を貫いていて、途中のエピソードに入り込んでしまうとふっと忘れてしまうけれどこれは唯一無二の、あるすばらしい雑誌のお話だったのだな。
 人物はベニチオ・デル・トロ演じるローゼンターラーが「がるるるる〜」と唸るところ、シモーヌの冷徹なんだかかわいいんだかわからないところ、ジュリエットがすぐパフを開くところとマニフェストをむにゃむにゃ読むところ、消灯後一斉にお祈りする劇中の若い兵士たち、終始クールな、でも最後にジュリエットに寛容なところを見せるルシンダ、何にもしない記者が編集部でずっと本を片手にシャクシャクポリポリ食べているところ、バレエシューズを履いた誘拐犯(運転手ジョーがエドワード・ノートンとは気がつかなかった!)、ジジを救出するために車にずっとしがみついてる大男がよかったな〜。それにしても有名俳優を惜しみなく無駄遣いもしている。シアーシャ・ローナン出番はたったあれだけですか?
 画面は相変わらずどれもこれもいいのだが、冒頭の編集部にカフェから飲み物を届けに行くところ、印刷機、川辺で溺死体を引き寄せるおじいさん、ストップ・モーションでローゼンターラーの作品の前で乱闘する人たち、ベレンセンとクランペットがリバティからアンニュイに向かうゴリアテ航空の飛行機、編集部の中(サゼラックが自転車を直しているところ、焦げたトーストが何枚も載ったお皿の向こうでルシンダがタイプを打っている部屋、ローバック・ライトの足だけ見えているカウチ、編集中の記事のメモを貼ってあるボード)、有名建築家によるドア・ストッパーハウス、刑務所のリネン室?に敷き詰められたPRISON ASYLUMって名前が入っているシーツ、本が積まれたルシンダのベッドルーム、ミッチ・ミッチの兵役中の話の演劇、海賊電波塔(ちょっとロッキー・ホラー・ショーの電波塔っぽい?)、ゼフィレッリの家のバスルーム、ネスカフィエが調理するキッチン、警察署内の射撃練習室、アバカスが逮捕される夜の風景、夕飯を届けに行くと言われた悪党たちがヒソヒソ話す場面、やたらと長い机がよかった。

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カンザスのトウモロコシ畑にある、ローゼンターラーのフレスコ画を収めたクランペット・コレクションの建物。夢の中でいいから行ってみたい。

 食べ物では、刑務所の賄賂に使われるグラッセ、ミッチ・ミッチの家のガレット・デ・ロワ、ネスカフィエが作る料理(しかしタバコのムースとは?)や食前酒、編集長の誕生日ケーキ、どれもおいしそうだった。何もしない記者がずっと食べていたいい音のする物は何だったんだろう?
 あと、地名で気になったのは「警察署長の食事室」のエピソードでローバック・ライトが言っていた「切り爪半島」という場所。犬ヶ島ではキューティクルに至る中指島というのが出てきたな。舞台になっている街アンニュイ=シュール=ブラゼはヌイイ=シュール=セーヌのもじりだそう。朝日の映画評で秦早穂子氏が言及していたけれど、ヌイイといったらもちろん!愛するベルモンドの出身地。実際はアングレーズにセットを組んでロケを行ったということだけれど、非フランス人がフランスに抱く憧れや愛が滲み出ていた。フランス人が見たら違うんだけどな〜と思うところもあるかもしれないけれど、ダージリン急行もグランド・ブダペストホテルも犬ヶ島だってウェス・アンダーソンの目と心を通して描かれたインドや東欧や日本で、それはそれでとてもキッチュでへんてこで、でも素敵な世界だった。

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  雑誌「ニューヨーカー」にインスピレーションを得て作られた映画だそうだけれど、最後に次々と流れたフレンチ・ディスパッチ誌の表紙を見ていたら、廃刊だなんて残念だわ〜としみじみしてしまった。架空の雑誌なのに…。表紙のイラストのポスターあったらほしいな。作中のアニメーションはタンタンっぽかった。ベルモンドの「大頭脳」の中で、唐突に列車強盗のシーンがサージェント・ペパーズみたいなアニメーションに切り替わっておかしかったのを思い出した。フレンチ・ディスパッチ誌の表紙イラストもアニメーションもハビ・アスナレスというイラストレーターによるものだそう。音楽もどれもよかったな。
が、一緒に行った夫はずっと寝ていた。もったいない、がるるるる〜。
 次回作は『父さんギツネバンザイ』に続いてまたロアルド・ダールの、『奇才ヘンリー・シュガーの物語』をもとにしたお話らしい。楽しみだなー!

この記事のタイトルの写真はWally Kovalの"Accidentally Wes Anderson"
邦題『ウェス・アンダーソンの風景』DU BOOKS disk union
たまたま見つけたウェス・アンダーソンっぽい世界中の色々な場所の写真集。
ウェス・アンダーソン本人も、確かに自分が撮りそうって公認している。

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