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時が癒せる力はバンドエイド程度のもの- 寝なかった二つの映画
この夏は映画館で寝てしまうということが続いていた。つまらないからというより、暑さによる疲れとか老化のせいもあったかも…だけど、この2本の映画は寝てる場合ではなかった。
一本目、『アステロイド・シティ』。
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1955年のアメリカ、紀元前に隕石落下によってできた巨大クレーターが観光の目玉の砂漠の町アステロイド・シティに集った人々の群像劇…を、役者たちが舞台で演じる過程をテレビ番組で見せる、というのを私たち観客が見るという二重?いや三重?の入れ子状態の構成。
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砂漠で繰り広げられているアステロイド・シティでの物語に没頭していると、ふいに劇場になったりテレビのスタジオになったりするが、そんなに複雑ではないのですぐに慣れる。
喪失感や悲しみを登場人物が抱えていて(というのを演じているのだが)それらがいつものウェス・アンダーソン式淡々とした口調やあまり動きのない仕草で表されていく。
核実験が行われていたり、宇宙人がやってきたりその後の隠蔽があったりなぜかしょっちゅうカーチェイスが通過したりと外界は落ち着いていないけれど、皆そんなことより自身の内面に向き合う方に重きを置いているように見える。どこか他人事でフワフワした感じ。
ウェス・アンダーソンは40年代から50年代アメリカの映画や演劇に影響を受けたそう。
この映画でも、ところどころにそのオマージュがある。実際にアメリカで起きた事件なども。
と言ってもその頃の演劇界に知識の無い私が気付けたのは、そのほんの一部。
詳しい人が見たらもっと「あぁ、これ!」っていうシーンや台詞がたくさんあるのだろう。
「この劇、意味がわからない!」とジェイソン・シュワルツマンも劇中で言っていたが、時々置いてきぼりになっていた身としては同感。
「眠らなければ目覚められない」”You can’t wake up if you don’t fall asleep”という台詞を全員が唱和するところは、なんだか小劇場の芝居っぽかった。
でも、ウェス・アンダーソン的世界観が好きというだけでも楽しめたから文句は言わない。
スペインの広大な砂地に組んだセット、こだわりぬかれたプロップス、衣装、音楽、映像、そしておなじみの俳優陣はもう伝統芸能だ。
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映画の衣装や小道具などの展示があるというのでPARCOのGallery Xに行ってみた。
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スカーレット・ヨハンソン演じるミッジのワンピースはサボテン柄(手描き!)だった。
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オーギー(ジェイソン・シュワルツマン)のカメラはこれかー。
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ウッドロウ、いつも胸ポケットに入れているノートにメモメモしていたが、こんなの書いていたのね。
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女性のワンピース、どれも細い共布ベルトに四角いバックルがとっても50's。
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ウッドロウが獲得したヒッケンルーパー奨学金の小切手。
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この宇宙人は最高によかった。ちょっと『犬ヶ島』テイスト。ジェフ・ゴールドブラムがストップモーションアニメの元(?)になっているそうだが、贅沢な無駄遣いだな〜。
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このストップモーションアニメもかわいかった
物語の重要アイテム、タッパーウエアも展示してないかなと思ったが、残念ながら無かった。実家で昔使っていたのと色も全く同じで懐かしかったのだが。
「時は癒やしにはらならない。バンドエイドぐらいのもの」という台詞がよかった。
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寝なかったもう一つは、先日noteに書いた『福田村事件』。森達也監督の、ドキュメンタリーじゃない映画。
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森達也監督、毎日小学生新聞のインタビューで「エンタメ映画です」って言っていたが、すごく重苦しい題材だけれど確かにエンタメ。時間を忘れて見た。
関東大震災直後、混乱に乗じて朝鮮人が日本人を襲撃するという流言飛語を信じた群衆心理によって起きた、おぞましい事件。
集団心理や同調圧力と一括りにはできないような、それまで個人が抱え、抑えてきた鬱屈や苦しみ、悲しみなどの負の感情があることをきっかけに爆発的に噴き出すことの恐ろしさ。
自分より劣っているとみなした者を虐げる醜さ。
属しているグループのためにという大義名分で正義を振りかざす愚かさ。
今、私は映画を観て「なんて酷いことを」と思うけれど、あの時自分もあの村の人間としてあそこにいたら…。
「あなたがたの中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」というヨハネによる福音書のイエスの言葉を思い出していた。
ところで、水道橋博士の演技はとてもよかった。
確かにこういう人はこのような言動に出るのだろうという説得力。
感情移入なんて到底できないヤな人物だったけれど。
というわけで、夏の終わりに(いつ終わるの?)ぼんやり頭を覚醒させてくれた映画2本。