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天国は誰でも行けますよ

とてもいい芝居を見た。
二人芝居、約20分の小品。
役者二人はキャリア40年以上で演劇界では知名度もあるけれど、今回の公演は急遽決まったとかで定員10名ほど、場所は公園の中の小さな公民館の一室。

天使がある男の元を訪れる。彼は大事な人を亡くしたらしい。天使は前にも彼のところに来たことがあるようで、今回も彼の近況やメッセージを聞いてそれを天国に持ち帰ろうとしているようだ。また、彼にも天国の人からのメッセージを伝える。
男は天国の様子をあれこれ尋ねるのだが、天使は教えてくれることもあるし、どうでもいいこと、例えば天国に醤油はあるのかという問いには「それは絶対に教えられない」と頑なに答えを拒否する。

かなり核心に迫る質問「僕も天国に行けますか?」にはさらっと即答。
「天国は誰でも行けますよ」
ただし、そこを良い所だと思えるかどうかはその人次第。暑い中、一瞬吹き抜ける風に気持ちいいなあと幸せを感じられる人にとっては、天国はとても良い所。
人の不幸を喜ぶような人(だったかな?すみません、よく覚えていないけどそんな感じの人)には、天国はつまらない場所。

てなことをラフに語るのだが、この天使、色々器用で天国からのメッセージを歌にしてのんびりウクレレで弾き語ったり、きれいなフランス語で詩の朗読をしたりする(和訳もしてくれる)。
歌は、歌詞もメロディーもとてもよかった。
割るのを怖れて戸棚の奥に仕舞ってあるコップ、それ、取り出して水を入れて飲んでごらん、という歌。
なぜか心に響いた。

頭に輪っかがついているので確かに天使なんだけど、色落ちしてほとんど白くなっているジーンズはあちこち刺子で継ぎが当ててあり、手縫いのバッグに手編みのソックス。
このファッションがとてもかわいくて、最後の方になると、天使って実際こんな感じなんだろうなと思えてきた。
人間界の男も、亡くした悲しみを抱えながらも受け入れて静かに日々を生きている。なんてことない日常なのだが、彼の生き方が透けて見えてその佇まいが愛おしく感じた。

天使と会ったことは、なんとなく薄ぼんやりとした感覚は残っても、その後は記憶からなくなってしまうそう。
ほんとにそういうことありそうと思わせるような、ふわふわとした幻を見ているような心地よい芝居だった。


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