見出し画像

心臓に悪いあの音は、四度堆積和音

GOOD DESIGN MARUNOUCHIで「世の中を良くする不快のデザイン」展。

ここはユニバーサルデザインとか、暮らしに役立つデザインの商品やコンセプトをよく展示しているけれど、今回は世の中を良くするために敢えて"不快"を効果的に使ったデザインを紹介し、心理学の視点から不快とデザインの関係を解説している。
(以下、引用は展示解説より)

「不快」は「快」より伝達スピードが速い、ということでNHK緊急地震速報のあの不穏なチャイムは、

・揺れへの備えを喚起するトリガーとなる音
・危険を知らせ、すぐに行動したくなるような音
・従来の警告音や、家電、ゲームなどの電子音とは似ていない音
・老若男女、聴覚障害のある人にも聞き取りやすい音

をコンセプトに作られたそう。
長調短調の調性に縛られない独特な緊張感の四度堆積和音。
人間の聴覚は、上昇音に注意が喚起されるらしい。
あの和音は本当に心臓に悪い。パニックを起こさずに冷静に行動できるようにって言われても、どうしても平静ではいられない。

踏切のシグナル音も、世の中に存在する最も汚い音程(!)と言われる短9度音程で作られているそう。
緊急地震速報チャイムほどは不快に感じないけど、まあ不協和音ではある。
遮断機のトラ柄の黄色と黒も、注意と危険区域を視覚的に表し、バーの高さにも意味があるとか。

他には玉ねぎとか卵が腐ったような、都市ガスにつけられた臭いや

子どもの誤飲を防ぐためにおもちゃなどに苦い味をつけたり

娘が小さい頃レゴブロックしゃぶってた。
見つけると慌てて取り上げたが


トイレトレーニング促進。
濡れてもサラサラ〜を追求してきた紙オムツ業界に、敢えて10倍濡れた感じを持ち込み、「濡れるとやっぱりキモチワルイ」と体感させてオムツ卒業を促したり

スキナーのオペラント条件づけ!
懐かしい用語が出てきた。
学生時代に教育心理学で習ったやつ


スムーズに読めない、読みにくいフォントが記憶力を高めたり

ところどころ欠けたフォント
San Forgetica

「脳の記憶を掘り起こす作業が大変になるほど、学習の力や記憶の検索力、保存力が高まる」という「望ましい困難」と呼ばれる認知心理学が応用されています。

ってことらしいのだが、ほんとかな〜?


他には、

「簡単に手に入れたものよりも、何らかの対価や苦労をして手に入れたものを好む」という心理的バイアス、コントラフリーローディング効果。

その例として、パッケージに入った粉に水を足して焼くだけだった時よりも、ユーザーにひと手間かけさせることにより売り上げが伸びたと挙げられていたのは

ベティ・クロッカーのケーキミックス。
卵一個加えて混ぜて焼くだけ、の
けっこう濃いフレーバーのケーキ

正直言って、これは「えー、そうかな〜?」と眉唾感。
ケーキミックスに卵を加えるという手間、IKEA家具を自分で組み立てたという達成感、配信そのままではなく自分で選んで編集したプレイリスト。ちょっとした作業が本来以上の価値を与えるっていうけれど、なんだか大げさ。
でも、行列の待ち時間が長いほどワクワクするという人もいるから、そういうこともあるのだろう。

変な味で量が少なくて高いエナジードリンクの方が、美味しくて量が多くて安いのよりも、消費者は効き目がありそうに感じるって言われると、なんか腹立つ。

「良いものは簡単に手に入るわけがない。苦労して手に入れたぶん、より効果や価値があるに違いない」と思い込み、「大きな報酬を手に入れるためには、相応の不快を受け入れないといけない」と錯覚する。

って、これはマーケティングの罠でしょう。
もはや世の中を良くなんかしてないし。
愚かな消費者の皆さん、気をつけてね!って言ってくれているの?

ユーザーをSNSに夢中にさせる設計というのには、ちょっとドキリとした。

身に覚えがある
確かに自分は引っかかってるな〜

情報の海に溺れないように、シンプルな機能で情報密度をコントロールできるスマートフォンも紹介されていたけれど、SNSに振り回されたくなければ機能に頼らず自制するだけのことでしょう(それなりの意志は必要だけど)。

この展示、警告音や注意を喚起する色、オムツの仕組みあたりまでは「ふんふん、なるほど」だったが、だんだん「ちょっと違うんじゃない?」「だまされませんよ」となり、最後に「あぁっ、デザインにまんまと誘導されてました」という流れにいつのまにか私は乗っかって見ていたかも。
企画チームが電通というのもなんかシャクにさわったが、こういう風に日々気づかないうちに消費者として、利用者として、結局うま〜くどこかに誘導されているのだなあ。
ヤだな。

ちょっと怖くなり、ざわついた気持ちで会場を後にした。

いいなと思ったら応援しよう!