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電子書籍では味わえない美しい本: 二つの展示
以前入院していた時は、Kindleにお世話になった。消灯後ライトをつけなくても、眼鏡をかけなくても、栞を使わなくても枕元に積み上げなくても、いつでもどこでも何冊でも読めて、電子書籍って便利だなーと思った。
でも、普段はやっぱり紙の本がいい。
練馬区立美術館で『本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション』。
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去年スパイラルであった展覧会で、吉野石膏美術振興財団がアーティスト支援をしているというのを知ったのだが、コレクションもすごかった。
吉野石膏って、「タイガーハイクリーンボード〜♫」のCMの会社ですよね?
あのCMとこのコレクションが結びつかない…。失礼しました。とにかくすばらしい展示だった。
展覧会の入口は、エラニー・プレスで製作された、シャルル・ペローの『眠れる森の美女・赤ずきん: ふたつの寓話』の一場面。
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メインは中世の希少なキリスト教写本、その後印刷技術の発展で生まれたインキュナブラの祈祷書やアーツアンドクラフツ時代のプライベート・ブレスの本など。
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15世紀の時祷書
零葉という冊子本体からはずされたペラのページだけれど、800年も前の物とは思えないくらい鮮やか。装飾、レイアウトもすてき。
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修道僧たちの挿画が楽しい
当時は羊や山羊、牛の皮を使った羊皮紙が使われていたけれど、紙のように使用できるようにするにはかなり面倒な加工が必要だったらしい。
実際に三種の羊皮紙を触れるコーナーもあったが、ゴワゴワ感もなく紙そのもの。
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机の傾斜60度
かなりの傾斜だけれど、ペン先へのインクのつき具合や写字生の姿勢に適した角度だったらしい。これじゃ居眠りもできない。
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さらに時代が進み、19世紀イギリスでウィリアム・モリスが興したケルムスコット・プレスや、カミーユ・ピサロの息子のリュシアン・ピサロ設立のエラニー・プレスで製作された、挿画もフォントも凝りに凝った美しい本も沢山展示されている。
撮影不可で写真に撮れなかったが、アーサー・ランサムの妹のセシリーが作った私家版絵本がとてもかわいかった。文章の文字間にバラの模様が挟まったりしていて、まるで絵文字!
他には、1951年に『暮らしの手帖』社から出ていたぬりえも。それに原画と下絵を提供していたのが梅原龍三郎や安井曽太郎、小磯良平など、錚々たる画家たち23人。
畏れ多くて塗れない〜。
本以外にも海外、日本の名画がたっぷり展示。
吉野石膏美術振興財団、すごいコレクションを所蔵しておられるのねーと、改めて感嘆しました。
もう一つ、本の展覧会。こちらは本家印刷会社TOPPANの印刷博物館 P&Pギャラリーで定期的に開催されている、『世界のブックデザイン2021-22』。
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昨年ドイツで開催された「世界で最も美しい本2022コンクール」をはじめ、日本や各国のコンクール受賞図書が160点も展示され、それら全てを実際に(使い捨て手袋をはめて)手に取って見ることができる。
撮影不可なので写真は全てフライヤーにあるものだが、一番ステキ!かっこいい!と思ったのはドイツのこの写真画集。
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オーギュスト・ロダンとハンス・アルプの彫刻が交互に様々なレイアウトで現れる。アルプは大好きな彫刻家でロダンとは作風が異なるけれど、並べて掲載されていても違和感がない、というかむしろそれがおもしろい。
ページ数のノンブルもところどころ色が変わったり、位置もページのど真ん中、作品の間に挟まっていたり。
こちらは日本の点字付き触る絵本。
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視覚障害を持つ子どものための絵本なので、出てくる魚はみな青一色。でも、触れてみてその仕掛けに驚く。サメは触るとザラザラ鮫肌、ムツゴロウはヌメヌメしている!
これは視覚障害じゃなくても楽しい。
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『100年ドラえもん』愛蔵版のセットも、「世界で最も美しい本」の受賞図書だった。
大きなタイムふろしきに包まれたところから、ワクワクさせられる(風呂敷もほどいたり、包んで結び直したりできる)。
他にも本の天地や小口、函に遊びがあったり、背の寒冷紗がむきだしだったり、蛇腹状や開くのが怖いくらい繊細な製本だったりと、電子書籍では絶対に味わえない個性的な本をたくさん楽しめた。
練馬区立美術館で見た、中世の逆ピラミッド文字組も現代の本に使われていた。
タイポグラフィやグラフィックだけでなく、手触りも含めて製本まるごと紙の本の存在感を堪能。
印刷博物館 P&Pギャラリーでは、「世界のブックデザイン」展の他にも日本のロングセラー商品展や、懐かしのキンダーブック展など、いい展示を無料で開放してくれている。ありがたや。
TOPPANがある辺り、神田川反対側の新小川町とか東五軒町とかは、出版や印刷、取次会社や工場などが多い。司書をしていた頃は、選書会や講習会などでよく来ていたエリア。
「本を作るまち」って感じがして好きだ。