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めくるめく組体操に救われた - ひげ太夫

2月後半の我が家、悪いことが立て続けに起きている。
帰省すれば母が緊急搬送され、自宅に戻れば夫、義母、娘が次々に発熱。
夫のインフルエンザは1週間以上長引いて、唯一元気だった私はランニング中に足首を疲労骨折。
お天気も暖かくなったと思ったら冷たい雨と北風で冬に逆戻り。
仮住まい中の古い借家は結露でカビ臭い。
リフォーム工事もトラブル発生で滞っている。
いいことなんて一つもないよ!

そんな澱んだ空気を一気に吹き飛ばしてくれたのは、劇団「ひげ太夫」。
コロナ禍を経て4年ぶりの公演「メコン流れ星」。

「干物一つで平和を守る!」
本当だった。

今回で44公演という老舗劇団だけれど、私がひげ太夫の事を知ったのは8年前。
芝居好きの夫が持ち帰ってくる色々な劇団のチラシの束の中に、ひげ太夫があった。
普段、私はそれらは見もしないのに、その時たまたま手にした1枚に目が釘付けに。奇妙なタイトルに奇妙ないでたち。「なんだこれは⁉︎」となぜか心惹かれるものがあった。

これ見たい!とチケット取って劇場へ。
目の前に出現したのはとんでもなくヘンテコで濃厚な熱い世界だった。
演者(ひげ太夫では「出し物師」と呼ばれている)は全員女性で、劇団名に因んでか男役は皆ターバンにヒゲメイク…と書くと宝塚をイメージされるだろうけれど、あちらとは全く別物。

最大の特徴は組体操。


舞台に大道具は何もなく、小道具は小さな木箱が一つ二つ。場面や背景、小道具は全て各々の身体と組体操で表現する。のだけれど、

あら不思議。
そびえる山脈、滝、ジャングル、大海原、濁流渦巻く川、遺跡、尖塔のあるお城、賑わう街、晩餐会場など大スペクタクルが次々に出現。
爆音響くバイクや潜水艦からピアノ、七輪、ビールサーバーまで、見える見えるのイリュージョン。
物語は、毎回アジアのどこかのちょっと昔の架空の国の勧善懲悪物なのだが、QRコード読み取りや回転するストリートビューなど今時の世相も反映。

演者は皆配役を複数掛け持ちしていて、その時の場面の登場人物でない時は大道具や小道具、組体操の土台もやるので出ずっぱり。その間歌ったり踊ったり大乱闘もあるので、息つく暇がない。
見る側も、目まぐるしい展開や前後する時系列についていくのに忙しい。
走り回った後にてっぺんでY字バランスのチアリーダーばりの四段組ピラミッドも間に挟んだりしてハラハラする。

ストーリーは荒唐無稽なんだけれど、すごくおもしろい。主役の座長、吉村やよひ氏のオリジナル台本で、この方は劇中歌の作詞作曲や舞台美術も手がけて八面六臂。
最後には稽古中のNG場面再現のおまけつき。
前説からフィナーレまで中だるみすることなく、客席はずっと笑いに包まれていた。
観客にとことん楽しんで帰ってもらおうというエネルギーがすごい。

ちょっと見たくなってきませんか?

この劇団、時々組体操ワークショップもやっている。

私も数年前に組体操教室に参加して、人間ピラミッドのてっぺんに立たせてもらった。
やってみてわかったが、上に立つのはもちろんだけれど土台として支える方も、ほんとに大変&重要。あと信頼関係も。
上に乗れるのは下を信じてこそ。
それを知ってから舞台を見ると、組体操の下の支え担当にも注目するようになった。
丹田に力入れて体幹しっかり固めて支えてるのがカッコいい〜。

痛い足を引きずって冷たい雨の中見に行った甲斐はあった。座長と名コンビを組んでいるベテランの成田みわこ氏が体調不良でお休みだったのは残念だったが、代役も代役と思う隙もなく良かったし。

全然浮上できる気がしないくらい沈んでいた気持ちが一気にぱあぁぁっとなった。
ひげ太夫、ありがとう。
パワーもらった!
あと、おいしい干物食べたくなった。



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