散文集#15 呪い

 右の手のひらを開いてみる。
「ますかけ線」というのがあるらしい。かの有名な将軍、徳川家康にもあったという、成功する人に多い手相だそうだ。
 手のひらを横一文字にひかれた線は、静かにその存在を主張している。
 刹那、その横線を引き裂くようにナイフが突き立てられる。銀の刃は赤い布をまといながら静かに佇んでいる。

・・・・・・目を伏せ、息を吐きだす。
 これは呪いだ。自分でかけてしまった、呪いだ。
 喉がひりついた気がして唾を飲み込む。
 成功など、自分にはできない。
 いいや、そう思っていること自体が呪いなんだろう。
 かぶりを振りながら目を閉じる。

 背後でもう一人の自分が銃口を向けて立っている。
 誰かが、首筋に刃を突き付けている。
 静かな殺意を向けながら、彼らはいつも俺を見ている。

・・・・・・緩やかに目を開き、周りに誰もいないことを確認する。
 この呪いは、きっと解けない。
一生かかっても、この呪縛から解放されることはないのだ。
否、そう考えていることすら含めて呪いなのかもしれない。

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