【復活!ラクゴレンジャー ~桂 三金 追善落語会~】
11月9日の土曜日。
桂三金師匠が48歳の若さで旅立たれたとの知らせが舞い込む。
胸を打つ音が一瞬止まったような感覚に陥る。
『だって、6日の昼席でおもいっきり笑ったばかりなのに』
ど う し て という4文字ばかりが脳内をめぐり、現実を受け入れられない。
三金師は、偶然にもなにかとご縁のある噺家さんの1人である。
大柄なのはもちろんのこと、
性格もおおらかで朗らかで、
細かな気遣いが素晴らしい方だ。
いつも周りを楽しませることを考え、またご自身も楽しみ、まさに幸せを体現されたような方であると自分は感じている。
今回、【復活!ラクゴレンジャー】が神戸新開地・喜楽館での開催となり、ウキウキと前売り券を購入していた。(仕事あるけど)
Twitter上では、三金師に関するツイートがたくさん流れている。
噺家さんたちも、ファンの皆さんも、ご関係者の皆さんも、誰も気持ちが追いつかない。
三金師に関係する、全ての人の時が止まっていた。
ラクゴレンジャーが三金師の追善落語会として開催されることとなり、社長へ早退を相談すると快く送り出してくれた(2時間ほどかかる)。ありがたい。
喜楽館の入り口では黒紋付袴姿の米紫師匠と吉弥師匠がお出迎えをされている。
予約の問い合わせが三金師匠であったため、“お客様を把握できていないかもしれない”ことのトラブルに対する心配もあったのであろうと思う。
ふと、開場前に年配の男性が吉弥師に
「写真撮ってもろてもよろしいですか?」
と声をかける。
『何もこんなときに…。』と自分は見苦しく感じたが、吉弥師は応じておられた。
ここまではものすごい歩数を譲って『まぁ、吉弥さんもOK言わはったし…自分がなにか思う立場ではない…』と見守っていたが、こともあろうか
オジサンは「もっと笑って~」とエゲツないリクエストを投げかけてきたのだ。
いやいやいや。
いやいやいやいや。
いやいやいや。
こんなときに、なぜかツッコミが短歌調になってしまう自分の心も腹立たしいのだが、この発言にはそれ以上の憤りを感じた。
色々ご意見もお有りかと思いますが、きっとミーハー心からの発言であったであろうこの言葉は、一傍観者からしても許せるものではなかった。
現に吉弥師の「もう、よろしいですか…」と憔悴気味の一言がそれを物語っている。
男性は満足そうに入場していったが、こんなときぐらい、そっとしといてあげてほしい。
落語会に来るお客人の中には、無論こういった《無粋な者》がわりと紛れ込んでいる。
先日寄せていただいた
【米紫25 ~桂米紫 噺家生活25周年記念落語会~】においても、会場前の溜まり場が狭いのは分かるがお祝いの胡蝶蘭におもいっきりもたれかかり、
花が落ちそうになっているのに気付かないお客さんがいた。前に並んでいた親子が「ひゃあ~!怖い~!花落ちる~!」と小さい声で悲鳴を上げているのを聴いた。きっと送り主であろう。
・後ろに花がある場合は一歩前に出ておく
・25年一緒に歩んできた竹馬の友を失った
噺家さんとの写真は噺家さんの気持ちを
察してまた次回にする。
など、少しでも気遣いがあったなら、平穏な日になるのに。といつも思うし、切に願う。
また、《明日は我が身》だとも強く思い直す。
“される側” が “する側” に回るのは世の常だからだ。
噺は脱線してしまったが、自分の徒然日記なので、別に構わない。ここはノート。発言には気を使うが、長々とした部分を見るか見ないかは個人に委ねられる。
入場する際、吉弥師匠にご挨拶し、米師師匠と一言二言交わす。
もう、お二人に会ってしまって既に泣きそう。
足早に席へ向かう。
開演前10分前に緞帳が上がる。
ゴレンジャー色の座布団が並べてあり、中央に黄色。三金師の色である。
めくり台は葬儀額の設えで《桂 三金》と書かれ上に喪章を頂いている。
吉弥師匠が登場し「米紫くんが、折角やから皆さんに写真撮ってもろたらええんちゃうか。と。皆さん、撮ってやってください。。。」 客席はシン...と静まり返り、BGMのお囃子が虚しく響く。
ついに涙がこぼれかかったころ、
再び吉弥師が
「なんか、三金の上に
"喜ぶ"て書いてますけど…(苦笑)」
客席がドっと沸く。
そう。繁昌亭や動楽亭と同じく、舞台中央の上には【喜】の文字が。
三金さんの師匠、四代目文枝師匠の寄せたものだ。師匠が書いた【喜】の下で……これも切なさに拍車をかけた。
二番太鼓が鳴る。
人生で、こんな切ない二番太鼓を聴いたことがない。
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桂 米紫、桂 文鹿、桂 かい枝、桂 吉弥……【ご挨拶】
黒紋付で師匠方が高座へ。文鹿師がレッド、吉弥師がブルー、三金師がイエロー、米紫師がグリーンと決まっているのだが、かい枝師のピンクがない。
厳密に言うと、ピンクではなく薄いグレー(笑)聴けば、ピンクが無かったそうな。かわいそうなかい枝さん(涙)
吉弥師が「(座布団の)色的に言うと、次はおまえちゃうか(笑)」とかい枝師を指す。「そんなこと言わんといてぇや!(笑)」と言いながら、他の同期も笑う。
花の平成6年組は、本当に仲が良い。友の死を、こうして慈しみながら笑いに変えている。お互いがお互いを好きなのだ。いろんなところを飛び越えて、心に直接伝わってくる。
ほんとは仲が悪い人もいるとか水を差してくる人もだろうが、そんなことは今は関係ない。というか別に仲が悪くてもいい。にんげんだもの。
そんなことよりも、ただ悲しみに暮れることなく、皆で笑って見送ってやろうというゴレンジャーの絆が素晴らしい。
聴けば、笑金さんも今日は師匠のお通夜へは行かずこの落語会へ予定通り出演し、そして、開口一番ではなくトリをとるという。なんとも泣かせる、男前な漢(オトコ)ではないか。
高倉健さんも、親の葬儀には参列せず映画の撮影に没頭したという話を思い出し、シンクロする。
三金師匠の代演として、林家菊丸師が滋賀からこちらへ向かっている途中だそう。なんとか中入り明けのトークショーには間に合ってほしい。
今にも三金師匠が遅れて飛び出してきそうな。そんな、幕開け。
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桂 吉弥……【親子酒】
吉弥師ならではのアレンジが盛りだくさんに加えられた、とても親近感のある一席。
マクラでは、米朝師との懐かしい想い出話も。久しぶりに米朝師のエピソードが聴けて嬉しかった。
酔っぱらいの"クセ"がリアルに描写されていていて、『あぁ、わかるわかる(笑) 酔っ払ったらそうなるよね(笑)』と共感しきりであった。
悲しみモードの客席をじわじわとあたためていく。息子とうどん屋のやりとりの部分、息子の冗談をうどん屋が受け流す場面では、陽気さとテンションが三金師と重なった。
「おまえはおもろないなぁ~わしがこない言うたらノれよ~」というセリフ、三金師の面影がフラッシュバックする。
お出迎えのときもお見送りのときも、独り言のように面白いことをつぶやき、周りの人にツッコまれていた。むしろツッコミ待ちのようにつぶやいていたのではないだろうか。
吉弥師が意図していたかは定かではないが、個人的には“無意識に友を描いていた”ような気がした。
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桂 かい枝……【首の仕替え】
久しぶりにかい枝師匠をご拝聴。いつも明るく、ニコニコしたお顔がなんとも言えずかわいい。
なんかこう、いがぐりっぽい髪型も可愛く感じてしまい、ついつい頬が緩んでしまう(すみません)
【首の仕替え】は恥ずかしながら初めて聴く噺であったのでつい【胴切り】的なことをイメージしていたのだが、いい意味で裏切られた。
【犬の目】でしくじった赤壁周庵先生が、なんとパワーアップして帰ってくる。
今回の首の演出は、もちろん同期の首。吉弥師いじりは皆さん『なんか気ぃ遣いますわぁ~』と遠慮しつつ容赦なくイジっていくのが鉄板ネタなようです(笑)
もちろん三金師も登場するのだが、その首は大事に、かい枝師の隣へ置かれた。
他の噺家さんの演出も見たい、噺にも魅力のある一席。
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桂 文鹿……【宗悦殺し】
相変わらずの“ボクサー歩き”であるが、今日は気迫が違う。振り切っている。
「すんません。ほんまやったら演目変えよかなおもたんですけど…予定通りやらしていただきます。今からなんもおもろない、エゲツない噺します。」
羽織を脱ぐと、照明がスゥ・・・っと落ちてゆく。バックがほんのりピンクに染まり、不気味さを演出している。
…ほんとうに笑えない。ただただ、恐い。でも、すごい。引き込まれていく。誰も笑わない。笑えない。昼席みたいに寝るものもいない。
皆が文鹿師に集中していた。刀で斬られたときの声は、まさに断末魔の叫びの如く迫真の演技であった。
もう、文鹿師自身が噺の中へ入っていた。このまま戻ってくるのかということの方が心配だったが、思わす握りしめた拳の中に、じんわり汗が溜まっている。
サゲの一言を終え、後ろへ“ぴょんっ"とガニ股で座布団を降りる。羽織を抱え去っていく師の後ろ姿には、大量の汗が滲んでいた。
恐い。怖い。観たい、もっと観ていたい。観ずにはいられない。そんな気持ちを抑えられない、一席。
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~中入り~
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桂 米紫、桂 文鹿、桂 かい枝、桂 吉弥、林家 菊丸……【追悼座談会】
定式幕が開きカラフルな着物に舞台は華やかであった。菊丸師も間に合い、登場。
それぞれのカラーの着物を着ているのだが、かい枝師匠はなぜかグレー(笑)
本当はレンジャショーを演る予定だったのだが、急遽メモリアル座談会へ変更。皆、黒紋付は持ってきているが座談会は明るい着物でと決めたようだ。
ただ、かい枝師匠だけは勘違いしていたらしく、なるべく派手でない着物を持参。
「昨日LINE(ライン)で言うたやないか--!!!」と吉弥師(笑)
「やっぱり次逝くの、お前やで(笑)」と言われながら「そうかもしれん(笑)」と和気藹々と始まった。
床几をハの字に並べて下手(しもて・舞台左側)が《文鹿・吉弥》センターが《三金》、上手(かみて・舞台右側)が《菊丸・かい枝・米紫》で腰掛けているのだが。
菊丸さん........めちゃくちゃ太ってはる。どないしたんってくらいの中年太り。
本当に心配になってきた。昔はシュッとしてなんか、ええとこのボンボン的な雰囲気やったのに。驚愕である。
「俺、三金みたいになってきたわ」と言っているが結構皆「いやほんまシャレならんで」と。
ほんとに皆、長生きしてくれよ~~~~っ!(涙)
と心の中で檄を飛ばすのだが本当に皆さん気をつけていただきたい。
ところで冒頭のラクゴレンジャーのチケットの話だが、実はお客様から電話やメールや電話がある度に喜楽館へ連絡し、
お客様情報を逐一伝えていたという。そのため、チケットトラブルが起こらず、無事に開演したというのだ。
三金師の行動に驚愕するとともに、師ががいかに真面目な性格であったかが受け取れた。ほんとに最期まですごいお方である。
いろんな会に出たり、お世話をしたり、自分が出られない会も段取りはきっちりして他の人へ渡したり.......。
「ほんま、すごいプロデューサーやったで。」
「いや、あいつ出演者やがな!(笑)」
といったやりとりが身体に心地良い。耳に気持ちいい。素敵な話ばかりだ。
涙が自然と溢れ出た。我慢しなくていい。泣いて良いのだ。だって悲しいのだから。寂しいのだから。
愛を持って、三金師を偲んでいる。だからこの涙は、流しても良い。
かい枝師が「それにしても文鹿さん、さっきすごかったな。楽屋も騒然やったで(笑)」
「いやぁ…今日は振り切らなあかんおもて…。」と顔を染めながらうつむき、頭をかきながら文鹿師が話す。
そうですよね。三金師が観に来てはるかもしれませんもんね。
米紫師匠も潤んだ声で楽しそうに、愛しそうに三金師の想い出話をする。
こんなに愛に溢れる会が、あっただろうか。
吉弥師が「正直僕、実感ないんですよね…今も『ゴメンな遅れて~』って来る気がしてるねん」…と。全く同じ気持ちである。
本当に、戻ってきてほしい。
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桂 米紫……【お花半七】
米紫師匠が演じる女性はとても可愛く、強かで、いじらしい。この噺は師匠が最も可愛く輝く噺である。
半七が少しオネエさんっぽいのは、きっと少年から青年への間くらいをイメージしてるからであろうか?
とてもかわいらしく、なんか、りゅうちぇる的な要素を感じてしまった(笑)
お花ちゃんが半七を追いかけるシーンでは、お花ちゃんが大胆に追いかけているのでぜひご覧頂きたい(笑)
『欽ちゃん走りのイメージかな?』と想像していたのだが、悠々と越えられてしまい、気持ちが良かった。
一つ気になるポイントがあるとすれば、お花ちゃんが冒頭の会話で「半ちゃん、えぇなぁ。堺にオッサンがいて。」
「あてもオッサンとこ、一緒に連れて行って。」と、“オッサン”“オッサン”連呼するのだが、果たして上品なお花ちゃんが
“オッサン”と言うのだろうか…。“おっちゃん”は子供っぽい or 当時、そんな大阪弁は通用しない のどちらかなのだろうか。
胸キュンかつ艶笑譚な一席。
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林家 菊丸……【読書の時間】
ラクゴレンジャー 準レギュラー(自称)の菊丸師匠。
これまでも幾多のメンバー欠席代演を補ってきた師が満を持して登場である。
「【赤とんぼ】は急には難しかったので、よくさせていただいてる噺にします…」と。
三金師の【読書の時間】を聴くことも多く、個人的には失礼ながらも師の思い出を重ねながら拝聴した。
菊丸師匠、ありがとうございます。
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桂 笑金……【つる】
三金師の形見、笑金さん。
急な別れにも涙一つ見せず、
『師匠から初めて稽古をつけていただいたネタです』と本会のトリを務める。
この時間には三金師の通夜が行われているのだが、「行ったら師匠に叱られると思いますので」と美容院へ行き、身なりを整え出演続投。
プロ根性に敬服する。
三金師に教えられた部分、自らで噛み砕いた部分がネタを通して痛いほど伝わり、彼の世界に引き込まれていく。
『三金さん、あなたの教え、
ちゃんと後世に残りましたね。』
サゲに近づくにつれ、視界がぼやけていく。
頬を伝う水を拭うこともせず、ただただ彼の落語に魅入っていた。
拍手喝采の中、緞帳が降りていく。
座布団を外し、真っ直ぐ一点を見つめながら
「これからも、
師匠共々よろしくお願いいたします!!!」
師弟愛を究極を目の当たりにした気がする。
師匠も抜け出して観に来てくれてはりますよ。
噺家の皆さま方。
本当に、本当に、
長生きなさってくださいね。
三金師匠、健やかなる時間を
本当にありがとうございました。
いつまでもいつまでも皆の心の中で。
P.S. R.I.P.桂 三金 安らかに。
合掌
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