【小説/全15話完結済】アイツとボクとチョコレート【1話】
※こちらの小説は【創作大賞】の下記イラストお題に沿って制作したものです。
あらすじ(ほぼネタバレなし)
何だかんだとありつつも、落ち着いた高校生活を送っていた鈴野りん。だがそんなある日、「りん」の生活は一変する――突如として目の前に現れた、養護教諭の「ミツハ」によって。長く美しい金髪をなびかせた彼女は、生徒である「りん」に向かって臆面なくささやく。『貴方は私の恩人なのです』、と。ミツハの、そしてりんの抱える秘密がひとつずつ紐解かれるにつれ、2人の距離は近づいていく。しかしその裏では、まるで水風船がふくらむかのように、破綻へのカウントダウンが進みつつあった……。
1話 月曜日のルーティン
真夏の体育館裏。
館内からは早朝をものともしない健康優良部活生徒による、腹の底からの掛け声が漏れ聞こえてくる。
そんな彼らとは対照的に、ボクの腕には細くしなやかな指先が絡みついていた。まるでフェンスに伝うツル性の植物のようにも感じられるソレを見下ろしながら、ボクはつとめて冷たく言い放つ。
「ねえ、こんなとこ他の生徒に見られたら、どうするつもり?」
すると潤んだ海色の眼が訴えてくる。いつものように。
「……お願いです。わかってるなら早く」
「『待て』もできないなんて、仕方のない奴」
ボクは『ツタ』を払いのけて、指先を彷徨わせる。ひとつひとつ確かめるように。そして最後に行きつ戻りつし、ぴたりと止めて、そこに触れた。
「あ」
艶めいた琥珀色の粒をつまみ上げると、海色の下には朝焼けのような朱が 淡くにじんだ。やがて訪れる官能への期待の色だ。
うっすらと開かれた柔らかそうな唇に、ボクは『ソレ』を押し当てる。
「これで今日もいい子にできるよね?」
「……っ、ん」
(もう聞いてないな)
彼女は喉を鳴らさんばかりに口中のものをむさぼり、存分に味わってから甘い息を吐く。――かぐわしいチョコレートの香りが、ボクたち二人を包み込んだ。
**
「あーん」
「あーん、じゃないよ。欲しいなら自分で食べたら?」
2粒目を要求する彼女に、ボンボンショコラがぎっしりを詰まった箱を無造作に差し出す。
「だって、私の爪だとこの繊細な細工を傷つけてしまうかもしれませんし」
「そんなのわかりきってるんだから、短く整えておきなよ。
爪切り持ってないの?」
「使ってみたんですけど、爪切りのほうが壊れちゃったんですよね……」
どんだけ堅い爪なんだと呆れながら、改めてずらりと並ぶチョコレートを見下ろす。
「まるで宝石箱みたいですよね~」
まるで小さな子供のように目を輝かせる。
――ボクにはアンタの眼のほうが、よっぽど綺麗だと思うけど。
「あの……どうかしましたか?」
「別に何も。それより、そろそろ移動したほうがいいんじゃない?
アンタの『職場』に」
「……っと、そうですね。早い生徒さんだと、そろそろ来る頃ですし。
じゃあ、お先に行ってきます!」
彼女は勢いよくお辞儀をすると、長い金髪を揺らしながら走り去っていく。ボクはそれを見送って、芝生の上に置いていた通学用リュックを持ち上げた。最後に制服のリボンが歪んでないか確認して、ゆっくりと校舎へ歩き始める。
これがボク、鈴野りんの月曜日のルーティン。どうしてこんなことになったかは――正直ボクにも、うまく説明できるかわからない。
2話~15話(完結):リンク
以上です。