見出し画像

私の因島ロマンスポルノ

※注意!
めちゃくちゃ長文です。
14,000字くらいあります。



本当に因島でライブが開催されるの?
そんなことができるの?

2024年3月31日、「PG wasn't built in a day」の千秋楽で発表された「因島・横浜ロマンスポルノ」、因島でのライブ開催という衝撃的な情報に、ファンたちは驚きを隠せなかった。

自分が知る限り、因島でライブを実施できる会場は因島市民会館しかなかったのだが、そこも1月に老朽化によって使用中止の案内が出ていた。

加えて、因島に足を運んだ人なら分かるが、因島は比較的大きな島ではあるけれど、アクセスの手段は限られている。尾道駅から出ているバスを使うにしても、輸送人員には限界があるし、もし来場者が自家用車で来ようものなら、本四連絡道路の混雑は計り知れない。

一体どうやって……そう思ったのは、私だけではなかったはずである。

特設サイトが公開され、詳細を確認してみる。

当日の因島では交通規制を行い、因島への来場は指定のアクセスバス(福山・広島・今治発着)に限定する。
会場は因島運動公園。市民が使う、ごくごく普通の運動公園にステージを設営する。
7月〜8月にかけて、「島ごとぽるの展」を実施し、因島全体でポルノグラフィティの展覧会やコラボ企画を行う。

これは本気だ。
本気で、因島でライブをやろうとしている。
ここまで練りに練られた計画。
どれだけの時間をかけて、これを実現しようと考えたのだろうか。

どんなことがあっても駆けつけたい。
ポルノグラフィティの晴れ舞台を見届けなくては。
そんな思いを胸に、チケットを申し込み、そしてDay2のチケットを手に入れた。

あとは当日を待つだけ。
せっかくだから、その前に島ごとぽるの展にも行って………。ライブ当日が来るのを心待ちにしていた。



迎えた8月下旬。
連日のように報道される台風10号のニュース。
進むのが遅い。予想されていたコースからどんどん西へ、西へと向っていき、大回りになっている。
初めは東海地方に向かうはずだったのに、いつの間にか九州に上陸し、その後四国を通って、今度は日本海側へ戻るというルートへと予想が変わっていく。
そして、その進行速度の遅れから、ライブ当日である8月30日頃に因島付近を通過する可能性まで出てきた。

ポルノグラフィティのファンには、忘れられない記憶がある。
6年前に開催された「しまなみロマンスポルノ」。尾道で開催されたこの公演は、2日目が大雨による警報発令によって中止となった。予定されていた、因島高校の生徒ともに「愛が呼ぶほうへ」を歌うというステージも、実現することができなかったのだ。
当時、NHKの「Songs」で特集された「しまなみロマンスポルノ」の舞台裏では、昭仁が涙を流しながら、「本当に申し訳ない」と因島高校の生徒たちに謝る姿が映されていた。

このまま台風が直撃すれば、また同じことがおきてしまうのでは……全てのポルノファンがそう思い、きっとポルノの2人も同じことを思っていたに違いない。

台風の進路は読めない。
1日どころか、数時間ごとに予想が変わる。
各国の予想もバラバラで、何を信じたらいいのか分からない……。



台風接近からの1週間、私はずっと落ち着かなかった。
いや、落ち着かないという表現では表しきれない。神にすがる思いでひたすら祈りを捧げ、何が変わるか分からないがてるてる坊主を作り、毎日泣きながら、そして不安で嘔吐きながら日々を過ごしていた。
食事が喉を通らないとはこのこと。何を食べても味がしないし、食欲もドンドン落ちていく。だから、仕事の昼休憩にはご飯を食べず、近所の公園のブランコで、ただジッと空を眺めていた。

そこには自分がライブに行きたいという気持ちよりも、「どうにかして、因島でポルノにライブをやらせてあげたい」という気持ちが強かった。
そう簡単に、何度も計画できるプロジェクトじゃない。それが分かっているから、このチャンスを逃したら、もう二度とないかもしれないのだ。だからこそ、なんとかポルノグラフィティに、文字通りの''晴れ舞台''を作ってやれないか。


公演日が近づき、ついに公式SNSでアナウンスが発せられる。


九州・四国・西日本で開催されるイベントの中止が次々と発表される中、「協議を続けている」というアナウンス。この時点で中止にしたとしても、決しておかしくない状況だったが、まだ中止だと明言しなかった。
このアナウンスを見て、私は「ポルノチームは何としても公演をやろうとしている」という意思表示だと受け取った。
もちろん、危険だと判断すればやむを得ず中止にはする。ただ、ほんの少しでもやれる可能性があるのであれば、その可能性を捨てるわけにはいかないと、そんな思いを受け取ったつもりである。
因島でライブをやる。これは採算とかではない。半端な覚悟では、こんなことはできないのだから。

それから毎日、情報が更新されていく。
8月29日。1つの対応が発表される。


8月31日の公演初日が中止になるというアナウンス。覚悟はしていた。でも、いざ発表されると落胆は隠せない。
私の持っていたチケットは2日目だけど、「しまなみロマンスポルノ」のことを思えば、2日間しっかりと開催されるのを望まずにはいられなかった。仮に自分がライブに参加できたとして、どこか心にひっかかってしまうだろうし、やるせない気持ちも覚えてしまうだろうと思った。

しかし、「もう少しだけ判断に時間がほしい」という、その言葉がどこまでも誠実で、嘘のない気持ちであるのは明らかだった。

多くのポルノファンが「どうか2日目だけでも開催を」「もうポルノが泣いているのを見たくない」「いくらでも待つ」と呟いていた。
それは行く人も行かない人も、行けなかった人も、行けなくなってしまった人も。それぞれの立場は違うけど、みんな「ポルノに因島でライブをやってほしい」という気持ちで結ばれていた。どんなライブの前にも、こんな瞬間は経験したことがない。思い返せば、とても不思議な時間だった。

そんな中、意味がないことだと分かっていても、毎日・毎分・毎秒、いろんな天気予報とにらめっこをする私。都合の良い情報だけを拾い集め、「きっと大丈夫だ」と自分に言い聞かせる。そうやって自分の心を落ち着かせながら、藁にもすがる思いで小学生ぶりにてるてる坊主を作って吊るしてみたりもした。

8月30日。2日目の公演についての開催可否が発表される。
交通手段などを考えれば、これ以上実施の判断を伸ばすわけにはいかない。多くの天気予報が、9月1日の因島は晴れるとしていたけど、これは普通のライブではない。ファンの福山・広島・今治までの交通手段が確保でき、ステージを始めとした会場の設営ができ、スタッフも現地に入っていなければならない。正直、ハードルはかなり高い。仮に中止だったとしても、誰も責めることはできない。

正午の公式発表。

その決断は、9月1日は公演を決行するということ。
その時の自分の感情は、嬉しいというよりは安堵に近かった。1日でもポルノが因島のステージに立つことができるのだと思うと、自分のことよりもポルノチームが救われる気がしたからである。
その上で、決行するのであれば、自分はなんとしても因島に行かなければならない。台風による各地の被害を見れば、9月1日に行けなくなってしまった人だっているに違いない。幸いにも、自分は福山までの交通手段が1つでも生きていれば、どれだけ移動に時間をかけても耐えられる体力がある。
因島でライブができたとして、その客席がガラガラでは申し訳ない。なんとしても因島に辿り着き、ポルノの故郷凱旋に花を添えねばならない。そんな思いを胸に、福山までの道のりを探すのだった。

当初、福山までは電車での移動を想定していた。8月31日発のサンライズ瀬戸・出雲で岡山まで行き、そこから普通列車を乗り継いで福山まで行くという、いつもの手段。だが、連日の大雨で東海道線が不通となり、サンライズはおろか、東海道新幹線も運転を見合わせていた。ちなみに夜行バスも止まっていた。
9月1日の朝出発では確実に間に合わない。そうなると、8月31日のうちに福山に辿り着き、前泊するほかない。そうなると、考えられる手段は大きく分けて2つに絞られる。

①北陸新幹線による敦賀周りルート
②飛行機による岡山空港or広島空港ルート

①は鉄道による迂回ルートで、一番最初に検討した案である。
北陸新幹線はこの時点で通常運転で、なんとか大阪までたどり着くことができれば、山陽新幹線で福山まで移動することができる。北陸新幹線は東海道新幹線の代替として臨時便も運行されていたし、山陽新幹線は台風の影響で本数がかなり絞られていたけど、動きさえすれば時間をかけてもその日のうちに着くことができる。自由席で運行だったので、最悪立ちっぱなしでもいいという覚悟だった。
ただひとつ懸念点があるとすれば、天気予報では9月1日に差し掛かるあたりで大阪付近に大きく雨雲がかかるということ。おそらく敦賀までは問題なくたどり着けるが、敦賀から大阪に向かうための湖西線は雨風にあまり強くない。もし湖西線が止まってしまうと、大阪までの移動手段が絶たれ、孤立する可能性がある。それだけは絶対に避けなければならない。

そこで検討したのが②の飛行機案。
飛ぶことさえできれば、経由地の天候に左右されることなく、一気に岡山か広島まで辿り着くことができる。既に岡山・広島の天気は好転しており、羽田空港から離陸できれば一気に福山まで近づくことができるのが強みである。逆に離陸できなければ一歩も動けないというリスクもあるが……。

同行者と協議を行った結果、②の飛行機ルートを選択した。
これだけ天気予報が二転三転する以上、少しでも天候による影響を減らしたほうが良いという判断になった。羽田ー広島便は通常通り運行予定という発表もされていたので、それを信じることにした。
そして急いで飛行機のチケットを取ることにしたが、同じように広島に行くために飛行機に切り替えた人も多く、チケットは残り少なかった。なるべく早く出発したほうが、万が一の時の対応もしやすいので本当は昼過ぎの便で出発したかったけれど、取れたのは夕方発の便だった。
一応、早めに空港に着いた同行者にキャンセル待ちをしてもらいつつ、夕方までは待機ということになった。もしキャンセル待ちを取れたらいつでも乗れるようにというのと、一人で過ごすにはあまりにも心細かったので、私も昼頃には空港に着いて時間を潰すことにした。
空港に着くと、見慣れたポルノのライブグッズを身につけている人も多く見かけた。どうやら同志はたくさんいるようで、みんな同じようにソワソワしているように見えた。

ライブは決行するという発表があったけど、台風予報があまりにもコロコロ変わるので、本当にライブができるのか、そして自分が現地入りできるのかという不安が常につきまとった。空港にある島の絵を見れば、それが全て因島に見えるくらいには不安だった。
かくして、飛行機に乗り込むことができたのだが、ここでアクシデント。ゲリラ豪雨の影響などもあり、各方面の飛行機が遅れてしまい滑走路は離陸・着陸の順番待ちになった。飛行機に乗ってから10分…20分……と時間が経っていく。
今年の初めに羽田空港で事故もあったので、そのあたりはより慎重にならざるを得ないし、安全第一なのは間違いない。とはいえ、不安な気持ちが増幅していくのは言うまでもない。もし飛ばなかったら……そんなふうに考えてしまうのも自然なことだった。
離陸予定から45分ほど過ぎた頃だったと思う。まもなく離陸するというアナウンスが行われ、羽田空港を飛び立つことができた。大気が不安定ということもあり、離陸してからしばらくはものすごく揺れた。小学生ぶりくらいに酔い止めを飲んだりしてなんとか耐えたが、もはやアトラクションだろこれというくらい揺れた。

厚い雲を抜けると機体も安定して、揺れもおさまった。
が、東京から広島というのは飛行機だとあっという間で、割とすぐに着陸態勢に入る。そうすると、またぐわんぐわんと揺れ、ちょっと悲鳴をあげそうになった。

なんとか揺れに耐えきり、広島空港に到着。40分くらい遅れての到着だった。飛行機から降りると、目に飛び込んできたのはポルノファンの群れ。どこからこんなに出てきた……?
本当はバスで三原か福山まで行くつもりだったが、飛行機が遅延した影響で乗り換え予定のバスには乗れず。次の便は相当待たないといけなかったので、とりあえずコンビニで豆大福を購入して落ち着く。福山発のバス利用者のポルノファンも多く、自分と同じように急遽飛行機で来たファンもいた。そこで「バスないですねー」みたいな話をしつつ、早めに福山について安心したいという気持ちもあり、山陽本線の本郷駅までタクシーを使うことにした。ポルノファンからの誘いで、相乗りで行きませんか?という話になり、みんなでお金を出し合った。

広島空港とはかなり山奥にあるので、周りはとにかく暗く、ここでもやや不安になっていた。ただ、一緒にタクシーに乗ってくれるポルノファンがいたので、ちょっと心強かった(笑)。


21時過ぎに到着した本郷駅。


山陽本線は何度か使ったこともあるので、駅が見えてくると物凄い安心感があった。ここまでくれば、もう福山はすぐそこだ……と。
実際には本郷から福山まで、糸崎での乗り継ぎを含めて1時間弱かかるのだが……。ここまでの道のりが過酷だったこともあり、もはや1時間は誤差でしかなかった。
やってきた電車に乗った時、体中の力が一気に抜けて、少し解放されたような気持ちになった。こんなにも福山が遠く感じたのは初めてだったが、ようやく目の前にそれを捉えられる範囲まで来たのだ。

糸崎で降り、山陽本線を乗り継ぐ。普段の因島へのアクセス拠点である尾道を過ぎ、東尾道、松永、備後赤坂……そして福山に到着。長かった。本当に長かった……。


2週間前に来たばかりの福山駅。
こんなに遠く感じるとは……


ここまで来れば、もう自分にできることは本当にない。あとは無事にライブが開催されることを祈り、寝るだけ。寝坊だけはしないように……。


9月1日、朝。
差し込んでくる光に、いつもよりも早く目が覚める。
こんなにも快晴が嬉しいことはなかった。

ほら、見上げれば空があって
泣きたくなるほどの青さ

起きて朝食を食べに行くと、朝食会場にはポルノファンしかいなかった。
みんなそれぞれ、苦労してここまで来たんだろうと思うと、この時点でグッときてしまった。近くに座ったポルノファンと、「ここまで来るの、大変でしたね」なんて話もした。

朝食を食べ終え、バスの集合場所に向かう。
既に案内は始まっており、スタッフの誘導に従って歩みを進める。
指示通りに歩き、スムーズな列形成。チケットをスタッフに見せて前に進む。ポルノファンの統率力というか、いわゆる民度の高さというべきか……混乱を招くこともなく、スイスイとバスに乗り込んでいく。
6年前の「しまなみロマンスポルノ」の経験も活きているのかもしれないし、何より「ポルノの地元で迷惑はかけられない!」というポルノファン一同の思いをひしひしと感じた。


バスへの導線はとてもスムーズだった。


バスに乗り込む時、スタッフのみなさんが笑顔で「いってらっしゃい!」「楽しんできてくださいね!」と送ってくれた。なんというか、こんなにも清々しく挨拶されることないなってくらい気持ちいい笑顔だった。

そしてバス内ではポルノの曲がガンガンかかっている。
私が乗車したバスでは「解放区」から始まり、アルバム「ポルノグラフィティ」がかかっていた。
そして当たり前なのだが、バスに乗っているのは全員ポルノファン。今日のライブのことで頭がいっぱいなポルノファンたちである。セットリストの予想、やってほしい曲の願望、どんな演出があるんだろうか……車内はそんな話で溢れていて、もはや楽園のような気分だった。

高速道路を駆け抜け、ついにしまなみ海道に突入する。
因島大橋を渡る時はいつも心が躍る。向島と因島の間では瀬戸内海が広がる。海に反射する光がどこか優しくて、何度来ても心が洗われるのだ。
聖地だからと足を運んではいるけれど、そうでなくてもきっと好きになっていたと思う。しまなみの景色は、ポルノグラフィティのメンバーが育った場所であるというのに十分すぎる説得力を持っている。


因島大橋を通過


因島に入ると、見覚えのある景色にまた安心感を覚える。
つい2週間前に来たからというのもあるだろう。でも、それ以上に、心に刻まれた何かがある。

バスは因島運動公園がある丘を登っていく。
道が狭いのでバスの入れ替えはとても大変そうだった。学生時代、こういうバスの管理をしていた身としては、これだけでスタッフの苦労を想像してゾッとした。

そして……バスが停車し、ステージがチラッと見える。
すごい。本当にステージがある。立派な立派なステージ。運動場にステージが設営されていることもあって、少しフェスに近い雰囲気を感じた。いや、フェスというよりは、今日はお祭りという表現が正しいように思えた。

ついに因島の地に降り立つ。
すると、またスタッフが「いらっしゃい!」「ようこそ因島へ!」「今日は楽しんでってくださいね〜!」と声をかけてくれる。
もしかしたら地元の人も協力してくれていたのだろうか……。心の奥底から「因島を楽しんで!」という言ってもらって、どんどんモチベーションも高まっていく。

受付でライブ参加者用のリストバンドをつけてもらい足を進めると、まずは野球場に設営されたフードエリアが見える。


人いすぎでは?


普段はのんびりとした雰囲気がただよう因島だが、この日はなんだか浮き足立っているような雰囲気だった。それはポルノファンはもちろん、因島の人たちも。
島ごとぽるの展も含め、みんなでここまで作り上げてきたんだなと感じる。
ファンも楽しみ、因島のみなさんも迎えてくれる。こんな幸せなことはないと思う。

ちなみに、フードエリアのはっさくいなりは瞬殺だったようで、残念ながら食べられなかった。繁盛してなにより。


青空が眩しい。


物販エリアに行き、会場限定グッズや買いそびれていたカラーシャツなどを購入していると、思いっきりリハーサルの音が聴こえてきた。そりゃ、ステージが真横なんだから、音漏れもするわけで……。しかも昭仁さんの声が爆音なので、物販エリアでもめちゃくちゃ聴き取れるというね。
ネタバレしないようにと思ってイヤホンを取り出したところで、「愛が呼ぶほうへ」が聴こえてきた。

そりゃ、やるよな。因島でやらないわけないよな。

そう思っていたので、ネタバレのダメージにはならなかった。
耳にイヤホンをつけ、チラッと横を見ると、この音漏れだけで涙を流しているファンが数名。気持ちはわかる。でも本番はまだよ?(笑)

お腹が空いてきたので、フードエリアで色々食べ物を購入し、日陰に座って食べる。めちゃくちゃ暑いので休憩エリアにも行ったりしながら、体力を温存した。

開演時間が近づいてきたので、坂道を登ってステージへと向かう。
本当にありがたかったのが、ステージ脇にテントがあって、休憩とドリンク購入ができたこと。
とにかく暑かったので、ドリンクをいつでも購入できるというのは、精神的にも安心感があったし、手持ちできるドリンクの数は限られていたから、現地調達できるというのはかなり心強かった。
そこそこ暑さには慣れている方の人間だけれど、本番前に倒れたらシャレにならないので、ギリギリまでテントで休んでいました。


ステージへの入口。


開演までに流れている音楽はポルノの2人が学生時代に聴いていたであろう選曲。BARBEE BOYSの「目を閉じておいてよ」とか、Xの「Voiceless screaming」とか。多分ミツイシヤで借りて聴いてたんだろうなぁ。

ライオンはっさくんの客いじり中もテントで休んでいたけど、いつものライブとは違った穏やかな雰囲気を感じていた。
まだ昼間だからというのはあるけど、因島だからこその独特な雰囲気。浮足立った気持ちと、優しく包み込まれるような気持ちが交差していた。

それにしても………客席はほとんどが埋まっていた。なんとしてもポルノの晴れ舞台を成功させたい。そんな思いで、台風に振り回されてもここに辿り着いたに違いない。こんな状況で、因島にたくさんのファンが集まってきたのは、ポルノファンの意地すら感じた。本当に良いファンだなと、いつも思う。
もちろん、来られなくなってしまった人もいるはず。だからこそ、来られる限りは、ポルノのためになんとしても、という気持ちなのだ。

間もなく開演というところで、自分の席に戻る。
BGMが大きくなり、花火が打ち上がる。
いよいよ、ライブが始まる。

1曲目に「おいでよサンタモニカ」なんて、誰が予想できただろうか。こうやって、良い意味で裏をかくのが上手いのがポルノだ。このライブの開幕、「Welcome 因島」という掛け声は、ファンを因島に迎え入れてくれているように思えた。体中に力を入れて構えていたのだけど、スタートがこれだったのが良かった。体から余計な力を抜くことができて、楽しむモードに入ることができた。
そして、次はいきなり「愛が呼ぶほうへ」。因島でライブをやるというなら、この曲は外せない。2005年の因島ライブ、2018年のしまなみロマンスポルノ、そしてこの因島ロマンスポルノ。「愛が呼ぶほうへ」は私達を繋ぐ曲でもある。
聴き入ったと思えば、「メジャー」「アポロ」と続く。自分のメジャーでどこまでも距離を測り続けたら、いつか月まで届くんだろうか。そんなことを考えながら聴いていた。

MC。今日のステージが骨組みだけなのは、設営が間に合わなかったからだという。でも、なんとか間に合わせてくれたおかげで、今日こうして演奏できるのだ、と。
たしかに、骨組みがむき出しのステージは荒々しく、もっと装飾があるはずである。しかし、因島という特別な場所で、こうして未完成のステージの上で演奏する。私にはそれがロックに見えた。こんな逆境をものともせず、それがまるで演出のようにすら思わせてくる。これをロックといわず、何と言うのか。
ついに、ポルノが伝説に名を刻むところまで来たんじゃないか。そう思わずにはいられなかった。

そんな私の思いを見透かしたように「今日はロックして帰るぞ!」という掛け声とともに、次の曲は「OLD VILLAGER」。重たいリフが響き渡り、呼応するように火柱が上がる。流石に熱そうだった。
続いて「シスター」。因島にはいくつか港があって、そこからたくさんの船が出ている。そんな風景とリンクするように思えて、たまに吹く風が優しく感じられた。

MCを挟み、次は「FLAG」「前夜」。いずれも、因島を出るときの思いを詰め込んだ曲だという。若い頃の思いを曲にパッキングして、50歳を迎えてもその言葉が正直に聞こえるのは、当時の気持ちがずっと色褪せずに残っているからなのかもしれない。
そのうえで、「FLAG」の最後で「僕はそう思うけど、君はどうする?」と問いかけられてしまうと、どこか自分も奮い立つのである。

ここから1曲だけYouTubeでの生配信。
31日の中止、この日に来ることができなかった人、チケットを取れなかった人に向けての配信。後日談では、この生配信は急遽で決めたという。調整とか大変だったろうに……。
「暑いので少し座って、盛り上がるところで察して立ち上がって」と言われ着席。めちゃくちゃ暑かったので、この着席はとてもありがたかった。

そして始まったのは「Aokage」。
「男女の恋というよりは、因島の雰囲気を詰め込みたかった」と語られた通り、因島に足を運べば分かる不思議な空気感が詰まった曲である。
私が青影トンネルを訪れたときは、土生港から自転車で坂を上り、中庄方面にペダルを漕いでいった。これはたまたまだったけど、結果的に昭仁さんが経験した景色を見たのだった。
トンネルを抜けて、本当に一瞬だけ海が見える。その風景があまりにも「Aokage」そのもので、感動という言葉では言い表せない、どこかもっと心の奥底が震えるような感覚を味わった。だからこそ、今回の「Aokage」はより一層聴き入った。

これは余談だけども、CD音源ではファルセットで歌っていたところを、最近は地声で歌い切っている。今回のライブでもそうだった。
なんというか、この表現の違いだけで、見える景色が少し変わるような気がしている。

「あの急な坂を登りきったら青影トンネルだ」

このフレーズがCD音源よりも力強く聴こえて、ペダルを漕ぐ足に思い切り力を入れたような……もともと青春を感じる曲だけど、それがよりリアルタイムに、まるで現在進行形のように思わせてくる。
このライブのあと、何回YouTubeのアーカイブを見返したか分からない。

そして、配信を終えてライブも再開。「むかいあわせ」「ギフト」と続く。
「むかいあわせ」はライブでは初披露となる曲。リリースされた当時、この曲が入ったCDを何度も聴いていたから、全然初めてという気がしなかった。歌いはじめの「おかえり」の一言が、なんだか因島でライブをしている彼らを迎えるような一言に聴こえた。
「ギフト」はTikTok配信でのアコースティックアレンジで演奏。「この因島、瀬戸内の風にぴったり合うんじゃないか」という言葉通り、爽やかで風が吹き抜けるようなアレンジが心地よかった。

そして、次は「THE DAY」。
THE FIRST TAKEに近い始まり方でスタート。
ポルノファンは「ここだ!」と言わんばかりに立ち上がったのだが、昭仁さんに「早いw」と言われたので再度着席(笑)。
2番でバンドサウンドが加わったところでまた立ち上がるというスクワットになった。ラスサビに向けて演奏が激しくなっていったのが印象に残っている。

一度昭仁さんがステージから捌けて、晴一さんがソロでギターを弾き始める。ここで演奏されたのは「螺旋」。
個人的にはポルノのインスト曲で「didgedilli」に並んで好きな曲である。艷やかで、どこか異国情緒を感じさせるポルノらしいメロディ。哀愁たっぷりなフレーズに惹き付けられる。

再び昭仁さんがステージに戻り、軽快なSEとともに「Jazz up」が始まる。ポルノファンにはお馴染みの因島ソングの1曲。
「土生港から海沿い道を 初恋を乗せてペダル踏んでた」
もしかしたら、「Aokage」でお付き合いしていた恋人と、海沿いの道を自転車で駆け抜けていたのかもしれない。そう考えたことがあるのは、私だけではないはず。
会場のボルテージが一気に跳ね上がり、続けて因島ソングの「狼」。ラテン調の曲なのだが、折古の浜の風景が想像できるのは、やはりこの曲も因島の風をまとっているからか。

ここでMC。
次の曲は新曲の「ヴィヴァーチェ」。
軽快なイントロから、複雑なメロディのAメロ、Bメロで溜めて、サビで一気に解放される。曲と歌詞のフィットが素晴らしい。
「君の立ち位置を少しずらしてみたら、目の前は広くなるでしょう」
この歌詞が、ライブが終わってからもずっと残り続けていた。

ここからライブは終盤に。
まずは「ヒトリノ夜」。直前に「多様性というけれど、むしろ窮屈になっていないか」と話していたところに、「100万人のために歌われたラヴソングなんかに 僕はカンタンに思いを重ねたりはしない」という歌い出しをぶつけてくる。ポルノのそういうところが好きだ。

さらに「ネオメロドラマティック」。
ここは因島だが、「地下鉄」が出てくる都会的な曲を連続でぶつけてくる。因島を出て、大きくなって帰ってきたと、胸を張って叩きつけているように思えた。
ここで昭仁さんは上着を脱ぎ捨て、ノースリーブで歌い始める。そして普段はあまりしないようなヘドバンをしながらの歌唱。でもなんとなくデジャヴを感じたのは、「BITTER SWEET MUSIC BIZ」の映像で見たようなギラギラとした昭仁さんの姿そのものだったからだと思う。
暑さで限界がきているに違いないのだが、だからこそ奥底にあるロックが溢れてくる。これを感じた瞬間、急に鳥肌がブワッと襲ってきた。

一度、水でも飲もうか……とペットボトルを手に取ったところで、容赦なく鳴り響くお馴染みの「JOPG FM」のSE。ここにきて「ミュージック・アワー」だ。
「やっば………」という声が自然と漏れた。だが、開演前に体力を温存していたのはこの瞬間のため。全力の変な踊りで立ち向かった。

続けて「アゲハ蝶」。
この曲はどの会場でも心が一つになる。だが、因島となれば、それはさらに強い。
間奏の「ラララ」。野外の会場だからこそ、風に乗って声が伸びていくが、ここは因島。遮るものがなく、本当に空にまで届くんじゃないかと思うくらい、気持ちよく声が伸びていった。

そして本編のラストはライブタイトルでもある「解放区」。

「みんな今日はここに来るのが大変じゃったろう。暑くて大変じゃったろう。でも、みんながいるから、わしらは演奏できる。ここがわしらの解放区」

台風で不安だったこと、道中が大変だったこと、もうライブはできないんじゃないかと思っていたこと……直前まで私はすっかり忘れていた。それは夢中というべきか、因島でのライブが本当に夢のようで、幸せで、ここまでの辛かったことなんて考える暇もなかったからである。
このMCで色んなことを思い出した。不安のあまり毎日泣いていたことも、神に祈る気持ちでてるてる坊主を作ったことも、公園のブランコで揺られていたことも。それを乗り越えてこんなに素敵なステージをみんなで作り上げることができたという、このかけがえのない一瞬が、全てを解放してくれた。

「たとえわずかな一歩でも進むことだと
 光の国では言うだろう
 それさえできない夜はここにおいで」

ここが私の解放区。きっといつまでも、解放区であり続ける。

私にとってポルノグラフィティとは………

いつか答え合わせしよう。
少しはあってるかな。



本編が終わり、メンバーたちがステージから捌けていく。
やり切ったなぁ。凄かったなぁ。
そんなことを考えていたけど、どうやらまだ祭りは続くらしい。

鳴り止まないポルノコール。
そうだ。まだやり残したことがある。
ポルノが因島に来たのなら………

ステージにミュージシャンが戻り、さらに……
昭仁さんの呼び込みとともに、はっさくん、そして因島高校の生徒たちがステージに!
この瞬間をずっと待っていた。あの日、「しまなみロマンスポルノ」で果たせなかったこと。因島高校のみんなが、ポルノとともにステージに立つこと。
それはポルノだけでなく、あの日無念を味わった全てのポルノファンの願いでもあった。
きっとやってくれるという期待はあった。だからこそ、例え1日でも、因島でライブをやってほしかったのだ。

因島高校のみんなが、ポルノと一緒に笑顔で「はっさくんのテーマ」を歌っている。ポルノの2人は、ちょっと先輩っぽく振る舞っている。その光景が微笑ましくて、この時間のために今日のライブはあったんじゃないかとさえ思った。

「なぜか優しい気持ちになるよ」

なんでだろうか。でも、本当に、ここにいると優しい気持ちになる。だからきっと、昭仁さんと晴一さんが育ったんだなって。

因島高校のみんなと、はっさくんが退場すると晴一さんのMC。
「いつも因島に帰ってくると昔のしょぼい自分に出会うけど、今日のライブのおかげで、今度帰ってきたときはライブのことを思い出す。今日で思い出を塗り替えられた」
本当に今日はライブができて良かったと、改めて思う。

昭仁さんが戻ってきて、アンコール2曲目は「ジレンマ」。ソロ回しでtasukuさんと皆川さんが「ハネウマライダー」を演奏したのに反応して、勝手に腕がタオルを回していた。
こんな馬鹿騒ぎをしたにもかかわらず、この日はさらにもう一曲「Ohhhh!!!! HANABI」。
なんでだろうか、こんなにもこの曲を待ちわびていたことはない。馬鹿騒ぎに馬鹿騒ぎを重ねて、ただ感動するライブでは終わらせない。その感動すらも吹き飛ばして、体力を全部使い切る。ポルノのライブはこうでなくては。

今度こそ、終演。
あっという間の3時間半。
気づけば、少しずつ日が落ちようとしていた。

規制退場も、いつもの公演とは違って、完全に分けられる。それぞれ、乗ってきたアクセスバスのグループごとの退場になる。
自分の番が来るまで座って待っていたけど、全然帰りたいと思えなくて、ずっと余韻に浸っていた。やっぱり夢だったのかなぁなんて、またそんなことを思う。

そんな待ち時間を、ラジオDJの大窪シゲキさんがトークで繋ぐ。因島のサウンドウォークでもDJとして出演されていた方だ。
この繋ぎがまた凄い。自然なトークでずっと喋り続けている。おかげさまで待ち時間までずっと楽しかった。

そして、ポルノファンはしっかりと待っていて、ルールとマナーをきっちりと守っていた。多分、こうやってファンがスタッフの信頼を積み上げてきたのも、今回のライブに繋がったんだと思う。
因島でライブをやるには、ファンの協力が必要不可欠。またこんなライブをやってもらうためにも、「ポルノファンなら大丈夫」と思ってもらえるようにしなければ。

いよいよ自分たちのグループが呼ばれて席を立つ。ちなみに、ファンの方々がスムーズな退場に協力してくれたおかげで、想定よりもだいぶ早く退場が進んでいたらしい。


バスに乗る前に撮ったそらいろ


バスに乗る頃には放心状態。
やり切った。本当にやり切った。
今日、ライブができて本当に良かった。

帰りのバスは音楽も流れず、余韻に浸る時間をくれた。因島大橋を渡ったときの夕陽が沈んでいく瀬戸内海は一生忘れないと思う。

福山に戻ってきて、ホテルに荷物を置き、予約していたお店に向かう。
道中、ポルノファンしかいない。右を見ても、左を見ても、みんな同じくTシャツを着ている。そして、お店に入ると、先に福山に戻ってきていたグループだろうか、既にポルノファンが食事を楽しんでいた。というか、マジでお店にポルノファンしかいなかった。

ポルノのライブはもちろんだけど……やはり福山まで来たのだから、盛大に打ち上げ!
予算なんてケチケチしたものは設定せず、そりゃもうやりたい放題。飲ませてくれよ、こんな日くらい。
相当飲んだので、値段は覚えてませんが、しっかりと地域にお金を落としていったと胸を張って言えるくらいではあります。
………このライブでの福山の経済効果、ヤバそう。

さて、こうして「因島ロマンスポルノ」を終えて、ライブまで最後の1週間はとても辛い日々でした。後にも先にも、こんな思いをすることはないでしょう。
それは誰かのためであり、自分のためでもあるからだし、それはとても幸せなことだと思う。

「因島でやるライブは今のところ最初で最後」

そんなことを晴一さんは言ってたし、簡単に実現できるものでもないというのは、身を持って感じているけど……いつか、今度は2日間やれるといいな。

そんな日が来ること祈って。

ありがとう。
愛してるよ、ポルノグラフィティ。




いいなと思ったら応援しよう!