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#20 【転倒サバイバル】③楽しい峠でやらかさないために

↑の続き

峠道の話をしよう


僕は峠道が好きだ。好きだけど、好きなものってだいたい危険を伴う。これは人間の性(さが)みたいなもので、好きなものほどリスクが高い。美味いものほどカロリーが高いように。これを読んでいるオートバイに乗らない人の中には、「峠道? あんなのカーブ曲がるだけでダルいじゃん」なんて思う人もいるかもしれないけど、それは少し違う。ライダーにとっては峠道はただの道じゃない。あれはちょっとした劇場みたいなものだ。カーブごとに風景が変わり、気温が下がったり上がったりして、路面のコンディションも気まぐれだ。役者は僕たちライダーで、演出家は自然という厄介な奴だ。そして何より、カーテンコールで拍手してくれる観客はいない。代わりにあるのは、自分が無事に帰ったという事実だけだ。

あと、オートバイ乗っていてカーブを楽しまない人を僕は知らない。楽しみ方は色々あれど、こと運転の楽しさに話を絞るとカーブを曲がることは、オートバイの運転の楽しさのコアもコアな部分を占めている。
そのカーブが集まるのが峠道なので、オートバイに乗るのが好きという人間が行かない理由が見当たらない。

遠心力を受け止める。視界は傾き、弧を描いていく。こんな乗り物はヒコーキかバイクくらい。
どれだけ傾けたかなどは関係ない。


だから今回は、峠道でどうやったら無事に帰れるかを、僕なりに話してみたいと思う。説教じゃない。僕は説教が嫌いだ。速く走るためのテクニック論でもない。そんなものは他にいくらでもある。僕が書きたいのは、「楽しかったー!」と無事に還るために考えてる事だ。もちろん押し付けるつもりは無いけど、最低限、無事にみんな帰ろうね、とは言いたい。

最近の峠道を走っていて思うのは、経験の浅いライダーが増えていること。新しいライダーたちは、驚くほど高性能なオートバイを手にしているが、その性能を安全に引き出す術をまだ身につけていないように見えることがある。見ていると心配になる場面もしばしばだ。しかし、彼らを非難するつもりはない。むしろ、僕自身が過去に何度も転倒し、そのたびに「なぜこんなことになったのか」と頭を抱えた経験があるからだ。
ただただ彼らに不必要に危ない目に遭って欲しく無いのだ。

「見えないもの」を見る


峠道のカーブは大抵、先が見えない。これをブラインドカーブというけど、僕に言わせれば、人生も大抵ブラインドだ。何があるか分からない。角を曲がったら突然、見知らぬ課題が目の前に転がってくる。で、峠道も同じだ。カーブの先には何があるか分からない。対向車がこちらにはみ出してきているかもしれないし、鹿とか猿が集会を開いているかもしれないし、岩がゴロンと落ちているかもしれない。道を川のように湧き水が流れているかもしれない。舗装がいきなり陥没してるかもしれない。正直言って、僕はどれも見たことがある。
じゃあどうするのか。早めに気づいて準備するしか無い。

それを予測するために、カーブの外側からアプローチして視界を広げる。もちろん、外側すぎると苔や落ち葉や砂利に足元を掬われることがあるから、ちょうど良い塩梅を見つけるのが大事だ。その「ちょうど良い塩梅」を見つけるには、何度も走るしかない。人生もそうだろう。たぶん。とは言え目安は、カーブの外側にある車の轍になるだろう。

外目からクリアしていく
全てはできるだけ先が見たいってだけ
とにかく余裕をもって。

あと、カーブミラーを活用することも重要だ。僕はカーブミラーを信じている。カーブミラーがあると言う事は、つまりそういうこと。シンプルに危ないよ。ということだ。まぁ、それはともかく、カーブミラーで対向車を確認する癖をつけることが大事だ。
山奥の酷道だと無くても危ないことは珍しく無いが。

リアブレーキは魔法の杖


リアブレーキは、控えめに言ってもオートバイの魔法の杖みたいなものだ。曲がっている最中に少しリアブレーキを引きずるように踏むと、バイクが内側に寄ってくれる。これがなかなか頼りになる。カーブの出口で「あ、これやばいかも」と思った時にリアブレーキがあると、何とかなることが多い。


外目から進入してリアブレーキを引きずりながらカーブの出口の視界が開けるのを待って徐々に内側に付ける。
対向車が来たら少し強めて内側に避ける。
いつでもそれに備えておくと焦らず処理できるようになる。
乱暴に踏まない限りズルっとは行かない。


フロントブレーキ? もちろん使うべき時は多々ある。カーブに入る前にスピードを抑えるのはフロントブレーキの役割だ。でもカーブの最中にフロントを握りしめると、大抵バイクはふてくされて、外側に飛び出そうとする。人生で言えば、突然手綱を引っ張られて怒る馬みたいなものだ。だから、急がつく動きはしない方がいい。そっとリアブレーキをスッと踏む。それだけで大抵のトラブルは何とかなる。これは峠道で僕が学んだ最大の知恵だ。
右カーブで対向車がはみ出てくるなどで、外側に逃げたい時は、そっとフロントブレーキに触れると、バイクが「そうなの?」と起き上がってくるので試す時は、そっとの「そ」くらいの繊細なタッチでお願いしたい。

終わりなきタイヤの端っこ問題


峠道を走るライダーの中には、タイヤの端っこまで使うことに妙に執着する人たちがいる。彼らは道の駅で他人のタイヤを見て、「お、端まで使ってるじゃん」とか「まだまだだな」とか言う。まぁ、そういう人たちは大抵、人生の何かしらでも同じようなことをしている気がする。友達同士でネタでやってるならまあ微笑ましいが。
人の成果を見てあれこれ評価するのは簡単だ。でも、自分がどう楽しんでいるかを大事にする方が、僕は好きだ。

白く光る端っこは伸びシロの証
気にするよりも、楽しみが残されている事を喜びたい

僕自身、昔はタイヤの端がどうこう気にしていたことがある。若気の至りだ。でも、30年以上オートバイに乗ってきて、4回ほど転倒して、そんなことはどうでも良いと悟った。タイヤの端なんて気にしている暇があったら、自分がどれだけ楽しかったかを気にした方がいい。タイヤの端っこがどうこう言う人がいたら、僕なら「そうだね」って流しておく。それが一番だ。

どうしてもおせっかいおじさんが煩わしかったら、静かなところで一服すればいい。僕もおじさんだけど。

高速道路は静かな戦場


高速道路は峠道と違って平坦だし、窮屈なカーブもそれほどは無い。けれど、スピードレンジが高い分、何かあった時のダメージはもちろん大きい。即命のやり取りをせざるを得なくなるかもしれない。

高速道路に限らないが、そこには二種類の車がいる。仕事の車とプライベートの車だ。仕事の車は、運転が割と一定していることが多い。でもプライベートの車、特にサンデードライバーは、動きが予測できないことがある。中には逆走してくる車なんていうシャレにならない存在もいるらしい。僕はまだ遭遇したことがないけれど、ニュースを見るたびに身震いする。

ご自慢のスポーツカーでピッタリ背後につけて煽ってくるような輩もいるだろう。そんなクルマにはとっとと先に行ってもらうに限る。
もしあなたが少しイケナイ子で、スピードを上げて走りたいなら、そういうクルマの後ろを車間をたっぷり開けて走るといい。たぶんあなたより先にお巡りさんを見つけてくれるだろう。

高速道路で大事なのは、車間距離をしっかり取ることだ。オートバイは小さいから、車の死角に入りやすい。だから、なるべく孤立するように走るのが良い。孤独な走りだけど、その方が安全だ。僕は孤独には慣れている。むしろ、その孤独の中に居心地の良さを見つけているくらいだ。

パーキングでのお土産探しも一興

また動きが少なくなる分、体が硬くなりがちなので、街中編で述べたエクササイズで体の血流を良くしておく事もしておきたい。それがいざという時自分を救う。

終わりに


峠道も高速道路も、どちらもライダーにとっては特別な場所だ。だけど、その特別さは「帰れる」という前提があって初めて成り立つ。僕たちは演者であり観客であり、同時に舞台装置でもある。無理をして転倒したり、事故にあったりすれば、その舞台は一瞬で幕を下ろしてしまう。

だから僕は、今日も心のどこかに3割の余裕を残しながら走る。シンクロ率が悪そうだなと思えば5割6割の余裕を残す。この余裕は、ライダーとして成長するためにも不可欠だ。なぜなら、余裕を持って走れば走るほど、新しい技術や感覚を身につける余地が生まれるからだ。そして、その余裕が積み重なることで、より遠くへ、より長く、深くオートバイと付き合っていけるようになる。
そして帰った後に、ひとっ風呂浴びて、居間やベッドにゴロンとなり、スマホで撮った写真を見返しながら、「ああ、今日も無事だったな」と思いつつウトウトするのが、何よりのご褒美だと思う。

それではご安全に!

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