#14 ソロツーリングのためのバイク選び(前編・素性について)
ソロツーリングエッセイ #6
装備も大事だけど。正解はひとそれぞれ。
バイクを選ぶという行為には、絶対的な正解が存在しない。これを言い換えるなら、旅のパートナーを選ぶようなものだ。顔が好みならいいのか、性格が合えばいいのか。それとも、その両方が必要なのか。選ぶ側の基準は揺らぎ続ける。誰もが納得する「最適解」を見つけたつもりでも、しばらく経つと、「これは本当に自分に合っているのか」と思い悩むことがある。
ソロツーリング用のバイク選びは特にこの悩みを強くする。なぜなら、ソロで走るという行為自体が極めて個人的なものであり、その中で求められる条件も人によって千差万別だからだ。必要とする装備も、何でもあればいいかも知れないが、自分にとって使わないものにはあまりお金を使いたくない。
一つ言えるのは、誰もがそれぞれの「答え」を探す過程で、時には遠回りをしながら、そのバイクを見つけていくということだ。
不安の正体を見極める
ソロツーリングで何よりも避けたいのは、必要以上の不安だ。行き過ぎた不安は日常からの解放に向けた希望と期待のふくらみを削ぎ落とす最大の敵であり、旅を台無しにする原因となる。不安を抱えたままエンジンをかけても、その先にあるのは疑念の連続だ。「これでいいのだろうか」「どこかでトラブルが起きるのではないか」。そんな思考が頭の中を巡り続ける。
バイクを選ぶ際には、次の3つの不安を取り除けるかどうかが鍵となる。
1. 自分の技量で扱いきれるか/自制が効くのか。
バイクは時に暴れる生き物だ。特に大排気量モデルや重い車体は、一瞬の油断が致命的なトラブルを招くことがある。自分がそのバイクの力をコントロールできるのか。これを自問せずにバイクを選ぶのは、嵐の中に小舟で漕ぎ出すようなものだ。
何も扱い切れる、というのは性能を使い切る、という意味ではない。想定できる様々な状況に対してオートバイをコントロール下に置けるかどうかという点が重要になる。
遠く離れた旅先で転倒してしまうと取り返しのつかない事になる可能性が高い大排気量車を選ぶ際には慎重さ、乗り手の自制心が強く求められる。
2. 求める快適性があるか
長距離ソロツーリングでは、シートの硬さや足元のポジション、風の当たり具合といった些細な要素が旅の質を大きく左右する。初めは気にならない微妙な不快感も、時間が経つにつれて体と心を蝕んでいく。快適性が不足しているバイクは、旅の景色を楽しむ余裕を奪い去る。またいくつかの点については、アフターパーツなどで改善を施す事もできるが、そのあたりの拡張性も気にしたい。
3. 壊れる不安はないか
機械は時に裏切る。信頼していたはずのバイクが途中で動かなくなる瞬間ほど、孤独を感じることはない。壊れる可能性がゼロのバイクなど存在しないが、少なくとも自分がその不安を許容できるかどうかを考えることはできる。今はレッカーサービスなども充実してきたので万一の命綱はあるが、できれば世話にはならずに済ませたいものだ。
スペックシートには表れない「懐の深さ」
バイクにはそれぞれ「心地よいペース」というものがある。それは、人間が持つ生活リズムのようなものだ。そのペースを見極めることができれば、旅は一気に快適なものとなる。アクセルを開けるたびに、スロットルの反応やエンジンの音が心地よく響き、ハンドルを切るたびに、目線を向けるたびに車体が自然に体の動きについてくる。この感覚こそが「調和」だ。
アグレッシブに走る時にはそれが「没頭」になり、チルく走る時には「瞑想」のような心の安らぎをもたらす。
さらに重要なのは、そのペースを外れた時のバイクの感触だ。急加速した時にバイクが暴れないか。ゆっくり走る時にエンジンがライダーを急かしてこないか。どちらの状況でもバイクが自然に対応してくれるなら、それは「懐が深い」と言える。懐の深さは、ライダーに自由を与えてくれる。それはまるで、旅先で自由に進む道を選べる地図を手にしたような安心感だ。
※後半に続く