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#15 ソロツーリングのためのバイク選び(後編ー相棒的要素)

ソロツーリングエッセイ #6
旅の相棒として

前回からの続きです

美しいコックピットビュー

コックピットビュー――それは、ひとたび走り出せば、常に視界の何割かを占める風景の一部だ。360度を取り囲む自然や街並みの景色の中で、計器類はその物理的な事実をライダーに伝える役割を果たす。速度、エンジン回転数、燃料の残量。それらはすべて、この自由な乗り物を操るための重要な情報だ。行き先をコントロールするハンドルバー、そして身を預けるフューエルタンク。これらが織り成す視界によって、自分がこのバイクという生き物の「パイロット」であるという事実が突きつけられる。

筆者の愛機のコックピットビュー必要な情報が豊富に
かつシンプルに配置される。
古の銘車 R100 アナログ時計がたまらない


だが、その視界が語りかけてくるのは、ただの物理的な情報だけではない。そこには物理的な利便性と、情緒的な親密性が同時に求められる。計器類が整然と配置され、必要な情報が直感的に把握できるデザインは、走りのリズムを妨げない。そして、フューエルタンクの曲線やハンドルの握り心地が「しっくりくる」ものであるなら、それはライダーとバイクとの間に生まれる一種の絆を感じさせてくれる。


タンクに流れる雲もオツなものだ

コックピットビューは、バイクに乗ることの感覚そのものを象徴していると言っても過言ではない。視界の中にあるその造形が美しく調和しているかどうかで、ライダーは「このバイクと共に走りたい」と思えるかどうかを決めるのだ。そしてその瞬間、ただの移動手段であったバイクは、旅の相棒へと姿を変える。
旅の相棒を選ぶ際には、積載などの実用性だけでなく「美しさ」にも目を向けたい。コックピットビュー――ハンドル越しに見える風景、タンクのライン、メーターの配置。これらが整然としていて、かつ視覚的な満足感を与えてくれるバイクは、それだけで乗る喜びを増幅させてくれる。

バイクの「音」という存在


音もまた、バイク選びの重要な要素の一つだ。バイクのエンジン音、吸排気音、そしてトランスミッションからのメカノイズ――これらは旅の中でずっと耳にする「伴奏」のようなものだ。もしその音が耳障りだったり、不快な振動を伴うものであれば、それは疲労を誘うと同時に旅の楽しさから醒めてしまう事にもなりうる。

音には感情を揺さぶる力がある。例えば、低回転で轟くエンジン音には安定感や力強さを感じるし、高回転で響く甲高い音には疾走感や自由を感じる。これらの音がどれだけ「自分にしっくりくるか」は、意外と重要な判断基準だ。

長く一人で走る時によく使う回転数で走ってて心地よいと感じれられると、親密度はぐっと上がる気がする。

さらに音は、バイクの調子を知るためのシグナルでもある。普段の音と違えば、何かが違うというサインかもしれない。音の変化に気づくことは、ライダーとバイクとのコミュニケーションの一部だ。そして、その「音の違い」に気づけるかどうかは、そのバイクとどれだけ深く付き合っているかを物語っている。

音が旅の風景に溶け込み、自分自身も音に包まれその一部になるような感覚――それが得られるバイクは、間違いなく「相棒」と呼ぶに値する。

魂を感じるバイク


バイクに魂を感じる瞬間というのは、一言では説明しがたい。エンジンの振動や排気音、ハンドリングの感触、そして旅の途中でふとした瞬間に感じる「何か」。それらが合わさったときに、バイクが単なる機械ではなく、共に旅をする存在だと思えるようになる。

魂を持つバイクとは、ライダーの心に語りかける力を持つバイクだ。それは完璧さではない。むしろ少しの癖や不完全さが、ライダーに「付き合ってみたい」と思わせる。それは、バイクがライダーに対して「これが私だ」と全身で主張してくるようなものだ。その声に耳を傾け、走る中でバイクのリズムに身を任せられる瞬間。そこに魂の存在を感じる。

過去一度だけ試乗したGuzziのカリフォルニア
ただ乗るだけで慈愛に満ちた赦しを受けたような気分にさせられる。こんなバイクは後にも先にもこれだけだった。


魂を感じるバイクとは、ライダーにとっていつまでも語り続けたくなる物語を持っているバイクだ。乗るたびに新しい表情を見せ、また時には懐かしい感覚を呼び覚ます。そんなバイクとの出会いが、ソロツーリングという孤独で豊かな旅を特別なものに変えてくれる。魂のあるバイク。それはライダーにとって、旅の相棒以上の存在だ。
「魂を感じられるか」という表現は、少し感傷的すぎるかもしれない。だが、これが相棒選びの最後の基準となる。

相棒選びから旅は始まる


最終的に、バイク選びはライダーの「旅のイメージ」に帰結する。自分がどんな旅をしたいのか。そのイメージとバイクが一致するかどうかが、選択の鍵だ。だが、この「旅のイメージ」は往々にして曖昧で、具体的な形を取ることがない。だからこそ、ライダー側の想像力が試される。バイクと共に走る未来を思い描き、その中で自分がどんな表情をしているのかを想像する。それができれば、自然と答えは見えてくる。

ソロツーリングに合うバイク選びは、単なる機械の選択ではない。それは、自分自身との対話であり、自分が求める旅の本質を見つけ出すプロセスだ。その過程には迷いも失敗もあるだろう。だが、その迷いや失敗すらも楽しむことができるなら、バイク選びは旅そのものと同じくらい豊かな経験となる。

僕たちは皆、旅に出る理由をどこかで求め続けている。そして、その答えを見つけるための最初の一歩が、このバイク選びなのだ。

ソロツーリングは孤独な旅だ。だが、その孤独の中には、自分だけのペースで走る自由があり、自分だけの景色を見つける喜びがある。バイクという相棒と共に、どこまでも続く道を走り抜ける時間は、何にも代えがたい贅沢だ。

しっくりくる相棒に出会えるかどうか。
最初の一台と添い遂げる、そんなことができたらラッキーだと思った方がいい。実生活では最初の妻と今も連れ添っているが、バイクに関してはバツがいくつついたことか。


では、あなたにとってソロツーリングとは何だろう?
その旅の中で、あなたが本当に求めているものは何だろう?

その答えを探す旅に出る準備はできているだろうか?
そして、あなたの隣に寄り添い、その答えを一緒に見つけてくれるバイクは、もう決まっているだろうか。
真冬でバイクに乗れない日々、そんな事を考えつつ春を待つのも悪くない。それはライダーに赦された一つの楽しみなのだから

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