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#43 バイク雑誌世代
バイク雑誌への想い
最初にバイク雑誌を手にしたのは、まだ中学生の頃だった。40年近く前のことになる。
家の近所にあったバイク屋の店主が「これ、持っていきなよ」と渡してくれたのが『モーターサイクリスト』誌だった。今にして思えば、何かの販促用に余ったものだったのかもしれない。けれど、当時の僕にはそんなことは関係なかった。表紙に描かれた最新のバイク、その周りを埋め尽くすカラフルな文字、そして何より、雑誌を開いた瞬間に立ち上るようなガソリンとオイルの匂い(もちろん、実際にそんな匂いがするはずはないのだけれど)。
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毎年各メーカーもニューモデル死ぬほど出してた時代があった
その頃の『モーターサイクリスト』は分厚くて、広告が半分くらいを占めていた。でも、まだバイクのことを何も知らなかった僕には、すべてが新鮮で刺激的だった。ページをめくるたびに、新しい世界が広がるような気がした。3大誌と言われる『オートバイ』『ヤングマシン』は当時からあったが、最初にバイク屋さんに貰った縁もあってか、僕は当時はモーターサイクリスト誌を買い続けた。
けれど、3年もすると気づいてしまった。ニューモデル情報は確かに面白いのだけれど、それ以外の企画は、1年単位で似たようなものが繰り返されていることに。それ以来、バイク雑誌を買う頻度は減っていった。
そして免許を取り、実際にバイクに乗り始めた。2000年前後、僕はオフロードに夢中になっていた。すると、自然と手に取る雑誌も変わった。『ダートスポーツ』や『バックオフ』など、当時はオフロード専門誌が4〜5誌もあった。僕はそれらを時々買い、泥まみれのページをめくりながら、自分のバイクライフと照らし合わせて楽しんだ。
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その後、モタードバイクやSRXに乗るようになり、出会ったのが『Clubman』という雑誌だった。
月刊誌とは思えないほどの濃密な内容。写真やイラストのクオリティは高く、何より記事が素晴らしかった。ありきたりの紋切型なレビューではなく、バイクという乗り物の奥深い世界を掘り下げる内容に、僕は夢中になった。何も知らなかった少年時代とは違う形で、「まだまだ知らない、ワクワクすることが世の中にはたくさんあるんだ」という感覚が、強烈に刷り込まれた。
2000年代後半、ウェブメディアが徐々に充実し始めた。リーマンショック後のYouTubeの普及、SNSの台頭、口コミサイトの隆盛。紙の雑誌にとって、これらの変化がもたらしたインパクトは強烈だった。
次々と雑誌が廃刊していった。
そして、僕が大好きだった『Clubman』も2009年に廃刊となった。特に好きだったのは、後藤さんや伊丹さんというエディター&ライターの方々が編集に関わっていた時代だ。あの頃の『Clubman』には、バイクという文化を丁寧に紡ぎ、ただのスペック表ではない物語があった。
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しかし、最近また『Clubman』がクオリティペーパーとして復活したらしい。後藤さんや伊丹さんの名前は見当たらないが、それでも僕は応援したいと思っている。
思えば、僕がこうしてnoteで文章を書いているのは、あの『Clubman』の影響なのかもしれない。文章というものの面白さ、読ませる力、ワクワクを生み出す表現。それを僕はあの雑誌から得たような気がしている。
今では情報収集のメインはウェブやYouTubeになった。しかし、かつて『Clubman』が与えてくれたような「妄想とワクワクが膨らむコンテンツ」というのは、紙でもウェブでも動画でも、そう簡単には見つからない。(僕が歳をとったせいかもしれないけど)
そもそも、趣味性の高いメディアはこれからどうなっていくのだろうか。
日本における紙メディアの衰退は、数字としてもはっきりしている。2000年代初頭には100万部を超えていた雑誌も、今では数万部に落ち込んでいる。出版業界全体の売上は右肩下がりで、紙の書籍や雑誌を支える構造は年々厳しさを増している。
一方で、情報そのものの流通量は増えている。YouTubeには新しいバイクのレビュー動画が溢れ、SNSでは個人が発信する試乗レポートが日々更新される。しかし、それらは「深く掘り下げられたコンテンツ」とは言い難い。浅く、速く消費される情報が、圧倒的なスピードで流れていく。
そのなかで、紙の雑誌や、深く語るメディアがどんな価値を持ち続けられるのか。それは、単なる情報提供ではなく、「世界観」を提示できるかどうかにかかっているのかもしれない。
かつて『Clubman』がそうであったように。
いつかまた、あの頃のように夢中になれる媒体が現れることを、密かに期待している。
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