#25 【バイク選び】しくじりに次ぐしくじりの先に居たもの
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重たいバイクに挫けた頃、それまでの僕のバイクライフは、言うなれば「なんとなく」だった。週末に風を切る程度の趣味。だけど、あのバイクの重さに膝をついて以来、僕は反動的にオフロード遊びに熱を上げるようになった。これがまた、泥と土埃の中で僕に一つの救いを与えた。
そして出会ったのが、オフロード経験豊かな、地元ではちょっとした名店だった。その店は小さなコースを郊外に持っていて、店に集う仲間とクラブ活動的に運営されていた。僕はそこに毎週通うようになった。走るたびに店に顔を出し、整備を教わったり、「あのコーナーでの挙動がね」なんて話をしたりする時間が楽しくて仕方なかった。
バイクの乗り味を言葉にする難しさ、そして言葉にした時に分かり合えた瞬間の高揚感――それは、なんというか、自分が一段深い層に足を踏み入れたような感覚だった。
その頃、僕は公道を走るバイクを持っていなかった。でもある日、店の前にとある試乗車が止まっていた。メーカーの巡回キャンペーンで来たらしい、そのバイクに僕は一目で惹かれた。
見た目は軽快で、少しだけ試乗させてもらうと、その軽さとパンチ力に僕は完全にノックアウトされた。まるで小さな機敏なプロペラ機が風を切ってヒラヒラっと鋭く空気を切り裂くような感覚だった。求めてたのはコレだと思える何かがあった。
ただ、その値段は当時の僕には手が届かないほど高額だった。
ところが、そんな僕に店主が耳元でそっと囁いた。「新車じゃないけど、同じエンジン積んだ中古があるよ」。その声は悪魔の誘いのようだった。そして僕はその誘いに乗ってしまった。初めての外車だった。
そのバイクはというと、セルスターターもバランサーもない徹底した割り切り仕様で、どこかストイックな佇まいがあった。僕のしょーもないプライドをくすぐるには十分すぎる代物だった。ただ一つ問題があった。当時、僕が夢中になっていたオフロードバイクにオンロードタイヤを履かせるというスタイルは、まだ少数派のカスタムだった。僕の持っていたこの個体には、オフロードタイヤしか装着できなかったのだ。
その後、しばらくこのバイクを乗り回していた僕だったが、ある日また別の誘惑が舞い込んできた。別のブランドから、オンロードタイヤを履いたモデルが出たという話だ。それを聞いた僕はすっかり浮かれてしまい、ついに新車で購入してしまった。ここからが不幸の始まりだった。
そのバイクは、新進気鋭のスウェーデンのブランドがレース用モデルに保安部品をつけただけの代物だった。一見すると速そうだし、実際に走るとデタラメに速いと感じる瞬間もあった。けれど、耐久性や信頼性があまりに脆弱で、トラブルが多発した。加えてその頃、僕は転居を余儀なくされ、お世話になったお店にも頼れなくなってしまった。新しい土地には、そのブランドに詳しい店もなく、僕は泣く泣くそのバイクを手放すことにした。
おそらくメカ的な経験値がもっとあればじっくり付き合えたのかもしれないが、出かけるたびに何か問題を抱えて帰宅して、遠方のお店に預けに行ってしばらく乗れない、というループに音をあげたのだ。
追い打ちをかけるように、オフロードでも大きな怪我を立て続けに負い、「もしかしてバイク自体向いてないんじゃないか」と疑念が湧いてきた。それでも、10代の頃に感じたバイクへのトキメキを完全に手放すことはどうしてもできなかった。
そんな僕がすがるように手にしたのは、国産のやや小さなバイクだった。それは、これまで僕が手を出してきた「スパルタン」とは正反対の存在だった。だけど、それが僕にとって大きな転機となった。