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#42 クルコンの美味しい使い方

 クルーズコントロール、略してクルコン。名前からしてまるで豪華客船の甲板でモヒートでも飲んでいるかのような響きがあるが、実際のところ、それは単なる一定速巡航機能に過ぎない。要するに、「ずっと同じ速度で走るの、やっておきますね」とバイクが一定速を維持してくれる機能だ。
ヒコーキにかぶれたい筆者としては「オートパイロット」と呼びたいところだけど、伝わらないので以下、クルコンと呼ぶ。

 確かに便利だ。特に長距離を走る時にはその恩恵がじわじわと効いてくる。右手の前腕にかかる負担が軽くなるし、微妙なアクセルワークを気にしなくて済む。とはいえ、使いこなせているかというと、そうでもない。多くのライダーが「やっぱり手動のほうがいいや」と結論づけて、そっとスイッチをオフにする。なぜか。

 答えは単純だ。世の中のクルマのスピードが一定じゃないからだ。そもそも車のクルコンは勾配変化などでスピードが落ちた時の回復までのラグが多いように感じるし、下りで設定速度以上に出てしまう事が多かったりもする。それ以上に一定速を維持しようなんて慎ましいドライバーは土日にはあまり多くは望めない。
周りを見てないドライバーがちょっといるだけで高速道路はいとも簡単に流れが澱む。

 高速道路を走ってみればわかる。設定速度で巡航していると、ちょっとした上り勾配に差し掛かると途端に前のクルマがじわじわと減速する、下りに差し掛かれば車間が離れていく。仕方ないからクルコンを解除する。ようやくクリアになったので再びセット。でもしばらくするとまた前のクルマに追いついてしまう。これの繰り返し。結局、手動でアクセルを操作するのと何が違うのか? 「使えないじゃないか」となって、またそっとスイッチをオフにする。

FJRのオートパイロット(クルコン)スイッチ

 でもね、ここでちょっとしたコツがある。「車間」だ。

 クルコンを快適に使いたいなら、まずしっかりと車間を取ることが肝心だ。多くのライダーは「詰める」ことに無意識のうちに慣れている。特に、前走車のペースが少し不安定でも、無理に詰めて走るクセがある。でも、ここで大きく距離を取ることで、前のクルマが多少の速度変動をしても慌てずに済む。じわじわと詰まっていく分には、しばらく放っておけばいい。前走車が大きく減速しない限り、わざわざクルコンを切らなくてもいいのだ。

 さらに、前走車の速度がどうにも一定しない場合は、低い方に合わせてしまうのが得策だ。多少遅くても、そのほうがリズムが崩れないし、不要な操作が減る。車間が開きすぎたときだけ、ほんの少しアクセルを開ければいい。そのくらいのメリハリで済むなら、ずいぶん楽になる。

 さて、このクルコン、高速道路だけのものかというと、そうでもない。意外に一般道でも役に立つ。

 例えば、気持ちよくワインディングを流しているときは要らない。でも、延々と前のクルマについていかなければならない場面ではどうだろう。ダラダラとした流れの中で、アクセルワークに気を使い続けるのは面倒だ。そんなときも、しっかり車間を取ってクルコンをセットすれば、前のクルマの挙動に翻弄されることなく、もっと周囲に気を配る余裕が生まれる。景色を眺めるくらいの余裕さえ出てくる。結果的に危険予知に余裕が出来る。

 クルコンの真価は、「細かな操作から解放されること」にある。使いこなせば、運転に対する精神的な負担を軽くし、余裕をもたらす。レーダークルコンのような賢いシステムも徐々に普及しつつあるが、まだまだ主流ではない。だからこそ、いまあるクルコンをうまく使いこなすことが大切だ。

 結局のところ、クルコンはただの道具だ。使い方次第で、それは便利にもなり、不便にもなる。スイッチひとつで「自動運転だ!」とはいかないけれど、少し工夫すれば「ちょっとだけ楽に運転できるシステム」にはなる。アクセル操作に縛られないことで、視界も広がる。肩の力を抜いて、もう少し遠くの景色を楽しむくらいの余裕を持てる。

 僕らは時に、何でも手動でやらなければならないという強迫観念に囚われる。でも、本当にそうだろうか? ちょっとしたツールをうまく使いこなすことで、もっと自由になれることもある。クルコンも、その一つだ。

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