できることからはじめよう。転職会計士のはじめのIPO(vol.3)
今回は転職して2年目から行った「反社会的勢力との取引防止」と「内部監査」に関わる業務を紹介していきたいと思います。
監査法人で勤務していた時はIPOに向かうためには必要なことは認識していても、実際に「何を」「どの様なツールで」「どのくらいのレベル感で」行うかがわからず、「どうすれば良いのか…」ということを思案したり、調べることに時間を掛けてしまったと感じています。
対応した内容などを紹介させていただくことでお読みいただいた方が少しでも調べる時間や、実務上のラインの理解の一助になりましたら幸いです。
2年目(2015年6月~2016年3月)
反社会的勢力との取引防止体制の構築
反社会的勢力との取引防止はIPOして社会の公器となるためには非常に重要なガバナンス体制の整備になります。
しかし、日常的には反社会的勢力と接することがないからこそ実感がわかず、「何をしたら反社チェックしている」と言えるのかを整理してルールにするのが難しかったです。
最たる例としては、前職は不動産業者でしたが、証券会社から「『産廃業者』『清掃業者』『不動産業者』はその他の業種よりもルールを厳しくして調査する必要がある」という指導を受けましたが今までで反社チェックをやったことないので「他の業種より厳しくと言われても何をすればいいのやら…」という状態でした。
結論的には「取引する前に全ての業者・個人をチェックする」ということになりました。
実際にやった内容について以下にて紹介します。
【ルール化とマインドセット】
①反社会的勢力との取引防止規程と反社会的勢力との取引防止のためのガイドラインの作成
→テンプレートとなる規程を入手しカスタマイズした規程の作成と反社会的勢力がオフィスに来てしまった場合の応対方法などのガイドラインを作成しました。
②契約書の見直し
→契約書に反社会的勢力との取引防止に関わる条項が入っていることを確認しました。
(住宅の売買契約書は宅建業界のひな型に入っているので、その他の取引業者との契約書は一度全て見返しました)
→同時に新規の契約を締結する前にはコンプラチェックを入れることをルール化しました。
③定期的なコンプラテスト
→反社会的勢力との取引に限りませんが、定期的にコンプライアンスに関わるテストを行い、反社会的勢力との取引防止についても啓蒙を行っています。
※テストが必須ではないです。しかし「全ての社員が反社会的勢力との取引を防止するためにどの様な周知活動をしていますか?」という質問に答えるためにもgoogleフォームを使ってテストを行うと楽だと思います。
④オフィスにポスターを掲示
→反社会的勢力との取引をしない旨が記載されているポスターを入口付近に掲示しました。宅建業者の標準的なポスターがあったためそちらを利用しました。
※こちらは必須ではないです。たまたまあったので使おうという発想でした。
【取引前のチェック体制の構築】※こちらの方がパワーが掛かります。
①仕入前の個人、販売時の個人、会社への入社前の内定者も全て反社チェックの対象としました。
②取引先の業者は、不動産仲介業者、リフォーム業者、司法書士、測量士等も全て調査の対象にしました。
③取引先が法人の場合、「会社」「代表者」「役員」まで調査対象にしました。
→「役員」まで調査するのは不動産業界だからという理解の元で調査していました。
④過去の取引先(さすがに住宅を購入した個人は遡れないので業者のみ)も遡って調査しました。
→ここが辛かったです…。将来的にIPOを目指す意向がある場合は、ここが辛いので早めに反社チェックの体制を整えることをお勧めいたします。
【調査するためのツールと調査方法】
①日経テレコン、帝国データバンクを契約
→日経テレコンはやみくもに調査すると結構な金額になるので、「新聞の見出しを表示する」ための調査する新聞の範囲は一定に制限を行いました。
(なお、月額は日経テレコンと帝国データバンクは交渉しても下がりませんでした。時短のためにも素直に契約した方が良いと思います)
②上記の役員も調査するために法務局の電子謄本を取得
→最初は「取引先調査表」というフォーマットを作成し、営業に協力を依頼して取引先に記入いただく際にそこに役員名を書いてもらうようにしました。
しかし、営業現場からも、取引先からも大不評だったので、コストは掛かりますがオンラインで謄本を取得する方法にしました。
③初回契約締結時には「反社会的勢力に該当しないことの誓約書」を取得
→こちらも過去分を遡るのが非常に大変でした。
取引先から「数年間も取引がないのに『取引先調査表』『反社会的勢力に該当しないことの誓約書』を送り返せとは失礼だ」という感じで数回怒られました。
④取得状況を管理するための取引先マスターの作成
→当時は取引先を管理するためのマスター管理ができていなかったので「ココナラ」でaccessの機能を使った取引先マスターを作ってもらいました。(1万円以下で作ってくれました)
その後は、CRMサービスを導入したのでそちらに移管しました。
※最近、反社チェックを楽にするためのツールが沢山出ています。
RoboRobo、RoboticCrowd、SimpleForm 等。
RoboticCrowdは、HPでも紹介していますがNewPicksがSalesforceと連携して効率的に調査しているようです。(Salesforce社のセミナーに登壇して紹介していました)
内部監査の実施
監査法人の時は内部監査の担当者は「J-SOX」の対応をする部署と思っていましたが、実際には「業務監査」の方がパワーが掛かっていると知りました。
【内部監査の事例紹介】
前職は当時、全国に15店舗に営業エリアで20チーム程度あり、間接部門は課単位で行くと10課程度ありました。
営業部の監査をする場合は一定に標準化できますが、間接部門の監査は管掌していない部門の内部監査は大変でした。
間接部門は業務が多岐に渡り、それぞれが分業されているので監査対象の部署が「何をやっているのか」「肝となる業務は何か」「不正リスク等の業務リスクがあるとすればどこか」というのを理解すること自体が大変でした。
しかし、こちらも第1回で紹介しました「フローチャートの作成」が奏功しました。
フローチャートの作成時に全体の業務の流れを把握することが出来ていたので、ある程度の業務内容を把握できていたことや、キーコントロールがあるのかないのかということも一つの指標になりました。
※キーコントロールは「決算」に関わる内容なのでコンプライアンス遵守等の観点は弱いので注意が必要だと感じています。
全国の店舗・エリアの監査の際には、
・販売している物件の確認
・宅建業者としての掲載物の管理、契約書等のサンプルチェック等の業法遵守しているか
・個人情報が漏洩しないように書類管理できているか
・勤怠管理が適切に行われているかをPCログとの照合
等を行っていました。
なお、個人的には販売している物件の確認が一番重要だと感じています。
内部監査部門は「社長の直轄部署として、社長が一番見たいけど手が回らないのでできないことをやる」という部門なので、販売中の物件の管理状況や長期化している在庫があればその原因を探るのが重要だと感じています。
やみくもに監査するよりも「社長は分身がいて現場をチェックするなら何を調べたいですか?」というのを社長に確認してから行くと効果的な内部監査ができるのではないかと感じています。
【内部監査のために作成した資料】
①営業現場用のチェックリスト
→標準化することは難しく各社各様だと思います。
しかし、上述の「最前線の現場」「業法遵守」「コンプライアンス順守」「書類・PCの確認」という目線で考えると良いと思っております。
→また、社長だけでなく間接部門にも事前にヒアリングを行い、「今度、現場行ってくるんだけど何か確認して欲しいことある?」ということを確認してから内部監査に行くようにしていました。
(もしくは「抜け道」や「楽をする」という観点から「自分が営業なら」という思考ができると良いと思いました)
②間接部門用のチェックリスト
→初年度から完璧な内部監査は難しいと思います。そのため、1年目は業務理解のためにヒアリングを中心に行いました(ヒアリングした内容が内部監査議事録になる)。
その際に「一番良く使う資料は?」「一番気を付けてミスしないようにする方法は?」というのをヒアリングし、2年目から内部監査の項目や資料依頼にしました。
→間接部門で一番怖いリスクは「お金」「書類」だと思っています。
財務等の出納部門に限らず意外と小口の現金同等物(定額小為替や印紙、商品券等)があったり、アスクルやコーポレートカードで備品を買えたりするのでお金の管理が適切に行われていることを確認しました。
また、書類はキャビネットだけでなく嫌らしいですがデスクの中も確認するようにしました。
事前に内部監査に行くよと通知するので、その際に整理してくれればいいという想いで行っていました。
(意外と整理しないでいる人もいるので、その時は「内部監査甘く見てる?」と優しくも圧を掛ける感じで指摘していました)
※チェックリストを細かくし過ぎると、チェックリスト自体が形骸化する恐れもあると思います。
内部監査も監査論で言う「リスクアプローチ」の考え方が重要だと感じています。
【IPO準備における内部監査への関係者からの指導】
内部監査が適切に行われているかということは、証券会社が報告書を見ても詳細に把握することは難しいです。
そのため、証券会社が気にすることは「ホウレンソウ」が適切に行われていかという観点で確認していると感じました。
①(年1回)内部監査の年間計画の作成
②(都度)内部監査対象部門への通知 →内部監査の実施 →指摘事項の連絡 →改善状況の報告
③(毎月)社長への内部監査結果の報告 →社長の了解(承認印) ※前職の場合はコンプライアンス委員会でも報告。
④(年1回)内部監査の実施結果のまとめと報告
なお、前職では、全てメール・Word・Excel・紙で行っていました。(唯一の工夫は電子押印)
内部監査の対象部門が多い場合、上述の「②(都度)」の部分は現場とのやり取りも多いのでワークフロー等の導入もご検討の余地があると感じています。
まとめ
結果的に、文書に落とし込んで振り返ってみると反社チェックも内部監査も結構しっかりルールの整備と、その運用を行ったと感じています。
特に反社チェックについてはガチガチに整備した印象です。
住宅の売買になるので一般個人の方も入ってくるのでどこまで本当に防止できているかはわかりませんが、大事なのは「絶対に取引をしないためのルール作り」だと理解して整備しました。
内部監査については監査だけではなく「現場の声を聞く」ということも意識して行っていました。
より良い成果を出すためにサポートするよ、そしてダメなものはダメと言うよ、というスタンスで営業現場とコミュニケーションを取りました。
そして、現場からの声は、吸い上げたら具体的に対応策を経営会議で相談して実際に改善する、ということまでできたので営業現場と信頼関係が築けました。
この内部監査の経験が将来のIRの際にも実は活きていて、現場を思い浮かべながら投資家に説明できるようになりました。
(現場のことを分からず、数字だけ話すIRオフィサーの話は投資家もあまり耳を傾けてくれませんので)
以上、第3回は反社会的勢力との取引防止体制の整備と内部監査についてご紹介させていただきました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
過去のアーカイブはこちらからご確認できます。
↓その他の投稿も是非ご覧ください+スキしていただけると幸いです
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?