イタロ・カルヴィーノ「冬の夜ひとりの旅人が」
言葉の魔術師と評された、イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノの最後の長編です。
カルヴィーノの長編は毎回趣向が凝らされているのですが、本作のそれはメタフィクションによる読書論。
こう書くとややこしく感じる方もいるかもしれませんが、彼の魅力的な語り口は難解さを感じさせません。
本作の書き出しはこうです。
<あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている。さあ、くつろいで。精神を集中して。
余計な考えはすっかり遠ざけて。そしてあなたのまわりの世界がおぼろにぼやけるにまかせなさい。>
ところが、「あなた=読者」は、この「冬の夜ひとりの旅人が」を最後まで読むことができません。第1章が終わったところで落丁になっていて、続きが読めなくなっていたのです。そこであなた=読者は続きを読むためにあれこれ手を尽くすのですが、入手した本はまるで別の小説で、これも最初の章しか読めず、その続きを読みたいと思ってやっとたどりついた本はまたしても別の小説で・・・とどんどん横滑りで展開していき、つごう10冊の作者も文体も異なる小説の冒頭を私たちは読むことになります。
そしてその間に「あなた=読者」も「女性読者」と出会って恋に落ちたり、幻の作家の秘密に迫ったりと冒険が続きます。1冊で10度おいしい?お得な実験小説。読み進めていくうちに、私たちも読書の魅力について再認識させられます。