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小説あれこれ

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2022年7月の記事一覧

ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』

ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』

舞台は国民が一度に1人しか住めない極小国家〈内ホーナー国〉とその周りを取り囲む〈外ホーナー国〉。ある日、ただでさえ小さい〈内ホーナー国〉の領土がさらに縮小するという椿事が勃発。これによって不法侵入問題が発生します。

その時、これまで平凡な男と思われていた主人公、フィルが不法侵入者から税金を徴収することを提案し、さらに脳がラックから滑り落ちて地面に落下したとたん、声高にヒステリックに過激な排外主義

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サマセット・モーム『月と六ペンス』

サマセット・モーム『月と六ペンス』

あまりに有名なので、すっかり読んだつもりになっている古典というのがいくつか…いや、かなりあるのですが、本作もその一つでした。最近硬い傾向の読書が続いていたので、息抜きによくできた小説を読みたいと思い手に取ったのですが、期待通りに楽しめました。やはり名作は一度は読んでおかなくてはと改めて思った次第。

40過ぎまで家族と平凡に過ごしていた男、ストリックランドがある日突然それら一切を投げうって、絵に全

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澁澤龍彦『ねむり姫』

澁澤龍彦『ねむり姫』

「珠」と「水」が織りなす6つの怪異譚。

石、鉱物、結晶、卵…かつての澁澤龍彦は硬質なオブジェや観念をコレクションして、エッセイの形式で綴っていました。その〈結晶志向〉の到達点が1974年に刊行された『胡桃の中の世界』。澁澤本人も『私にとっては幸福の星のもとに生まれたと言ってもよいような著書であろう』と述べている著作です。そして、これを境に澁澤は作風を変化させていったのです。

これまでひたすらに

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