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小説あれこれ

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2021年5月の記事一覧

石川淳『荒魂』

石川淳『荒魂』

佐太がうまれたときはすなわち殺されたときであった。そして、これに非情の手を下したものは父親であった。ただし、このおやじ、もともと気の小さいやつで、コロシなんぞというすさまじい気合はみじんも見られず、またそれがとくに人情に反する行為にようにおもうわけもなかった。山国の村は風あらく、家の中は吹きさらし同然、そうでなくても、やぶれ畳の上に余計なガキがすでに五個もころがっているところに、また一個ふえたとす

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ピエール・ド・マンディアルグ『黒い美術館』

ピエール・ド・マンディアルグ『黒い美術館』

ようこそ黒い美術館へ。血とエロスに溢れたマンディアルグの美の世界を体験してもらうべく、本館の誇るキュレーター、生田耕作が自信を持って選び抜いた5篇を味わっていただきます。

自傷する18歳の女性の白い肌、白い陶器の浴槽と鮮血の赤の対比が印象的な「サビーヌ」、満潮の高まりと主人公が16歳の従妹の口内へ“至福をぶちまける”瞬間が同期する「満潮」、珍しくファルス調の「ビアズレーの墓」もそれぞれ読み応えが

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