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小説あれこれ

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2020年7月の記事一覧

篠田一士「二十世紀の十大小説」

篠田一士は丸谷才一とも親交のあった評論家で、小説はもちろん、詩歌から批評に至る文学全般に広くて深い知識をもっていました。本書は1988年に刊行された長編評論で、質・量とも読み応えある一冊です。

世界文学のなかから10冊を選ぶという試みはモームの「世界の十大小説」が有名ですが、篠田のこの評論の主眼は、彼自らが生きた「二十世紀」の小説の独自性とはなにか、それまでの小説とはなにが異なるのかをつまびらか

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金井美恵子「柔らかい土をふんで、」

本作は金井美恵子さんの数ある作品の中でも、ひとつの極点に位置するものだと思います。冒頭の一文を途中まで引用します。

<柔らかい土をふんで、そうでなくてももともと柔らかいあしのうらは音など滅多にたてずごく柔らかなふっくらとして丸みをおびた肉質のものが何かに触れる微かな音をたてるだけなのだが、固いコンクリートや煉瓦の上や、建物の一階分だけ正面の壁と床にチェス盤のようにだんだらに張った灰色と黒の大理石

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