ももものがたり
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこっこと流れてきました。おばあさんは桃を見つけると手を伸ばし捕まえようとしました。すると、
ばっちゃーん!
桃が重すぎた為におばあさんはバランスを崩し川に落ちてしまいました。
夜になりました。
夕暮れ時に家に帰って来たおじいさんはおばあさんがまだ帰ってこないことに不安になりました。
「うちのばあはどうしたんじゃろ。なんで帰ってこんのじゃ?」
おじいさんはとりあえずお腹が空いたので、芋を蒸かして食べました。でも、一人で食べるお芋は美味しくありません。なんせ中まで火が通ってないんですから。
おじいさんはしばらくすると家の周りも見に行きました。さすがに月もない真っ暗な夜なので、川の方まで探しには行けません。なので、寝ることにしました。
次の日の朝もおばあさんは帰って来ません。おじいさんは心配で心配で胸が締め付けられる思いでした。
そして、おじいさんは決めました。おばあさんを探しに行こうと。
おじいさんは身支度を済ませると急ぎ足で川の方へと歩いて行きました。しばらくすると白い犬がおじいさんの所にやって来ました。
「おい、じいさん。急いでどこに行くんだ?」
犬が北大路欣也風に喋りました。
「わ! 犬が喋った!」
おじいさんは驚きました。
「犬じゃない、人間だ! 俺が質問をしているのだから答えろ!」
「わ、わしは昨日から帰って来ないばあさんを探しに行く所じゃ」
「なんだ家出か」
「いや、朝洗濯に出かけて行ってそれから帰ってこんのじゃ」
「口答えするな! まあいい、人探しなら手伝おう」
犬が仲間になった。
しばらくすると猿が現れました。
「おい、じいさん。どこ行くんだい?」
「だまれ!」
犬が喋りました。
「わ、犬が喋った!」
猿は驚きました。
「お前も喋ってるだろうが! そして、じじいも喋れ!」
「わ、わしは帰って来ないばあ……」
「よし、俺も手伝うぞ」
猿も仲間になった。
しばらくすると、女の子が後ろからついて来るのに気が付きました。
女の子も仲間になった。
一行はおばあさんがいつも洗濯をしている川に着きました。
「あ、あれは!」
おじいさんはおばあさんが洗っていた服を見つけました。
「これは臭うな」
犬が言いました。
「生乾きってやつだな」
猿が言いました。
「……」
女の子は無言でした。
「きっと、洗濯をしていた時に何かあったんじゃ!」
おじいさんは大きな声で言いました。
「うるさい! そんなことは誰にでもわかる!」
犬が一喝しました。
そして、気が付くと全員の目の前に船に乗った若い男がいました。
「何者だ!」
犬がまた喋りました。
「あっしは船方、そこで洗濯をしていたばあさんの事なら知ってるぜ」
「それは本当かい? いったいどこにいるんだい?」
おじいさんは目を輝かせ尋ねました。
「それなら船に乗りな、連れてってやるよ」
おじいさんと犬と猿と女の子は船に乗りました。
「おばあさんは無事かい?」
おじいさんはおばあさんの事が気になって仕方がありません。
「あぁ」
「怪我とかはしてないかい?」
「あぁ。それより、あんた達は自分達のことを理解しているのかい?」
船方は意味深に何か言って来ました。
「それはどういうことだ!」
また犬が出しゃばりました。
「まず、あんたはさっさと21世紀に帰りな!」
「わー!」
バシャーン!
犬は船方に川に落とされてしまいました。
「何すんだ!」
怒った猿が船方の腕に飛びかかりました。
「君は自分の罪を償わないのかい?」
また意味深なことを言う船頭。
「何の話だ! お前の方がよっぽど悪い奴だぞ!」
「君は昔、蟹の子を殺したね。そして、その後自分がどうなったのか忘れてしまったのかい?」
「なんだと?」
猿は一瞬考えた。
「そういえば俺は家の中で何者かに襲われて、外に出た途端に何かが上から落ちて来て……」
「そう、君は仇討ちで臼の下敷きになった」
「う、嘘だ! 俺はまだ生きて……うわー!」
バシャン!
猿は自分から川に飛び込んでしまいました。
「お嬢ちゃんもわかってるかい?」
「お、おら……」
女の子は口を開きました。
「おらが手毬唄を歌わなけりゃ。おとうは死なずにすんだんだ……」
「そうだね」
頷く船方。
「いや、もうやめなさい。辛いことがあったのはわかるが……」
なだめようとするおじいさん。
「ちがう! おらが全部悪かったんだ~!」
バッシャーン!
とうとう女の子も自分から川に飛び込んでしまいました。
「こ、これは一体どういうことじゃ!」
混乱するおじいさん。
「人は誰でも罪を犯す。だが、中には決して許されないような罪があるのさ」
「わしも何かしたとでもいうのか?」
頷く船方。
「あぁ。あんたは昨日、山で大きな桃の木を切った」
バッシャーン!
しばらくして、おじいさんは川底でおばあさんと再会できたんだとさ。
めでたし、めでたし