
花に会いに行く
二十四節気・大寒という
一年で最も寒いはずの時期だけれど
ここ数日の気温は二桁の陽気で
麗らかな早春のような暖かさが続いている
地元の植物園でバイカオウレンが
咲き始めたという知らせを聞いて
居ても立ってもいられず
早朝から花に会いに出掛けた
昨年 早春のこと
Instagramのフィードに流れて来た
セリバオウレンの花
そのなんとも言えない愛らしい姿を
忘れられずに一年が過ぎた
私の住む地域では残念ながらその時すでに
花は終わってしまっていて
それからずっと会いたいと
密かに願っていた山野草のひとつだった
今回の目的はバイカオウレンだったけれど
偶然居合わせた園の職員の方に
「バイカオウレンに会いに来ました」
そう伝えたつもりが
口から出た言葉はなぜか
「セリバオウレンに会いに来ました」
すると
「セリバオウレンも咲いているよ」と教えて下さり
突然 一年越しの夢が叶って
ふたつの花の開花に出会うことが出来たのだった
まるで花が導いてくれた小さな奇跡のようで
とても嬉しかった
どちらの花もまだほんの少しの開花だったが
蕾もたくさん上がって来ていて
これからが満開に向かう季節が
とても楽しみだ

『スプリングエフェメラル・春の妖精』
エフェメラルとは儚い・短命といった意味を持ち
そう呼ばれるものは早春に咲き
夏には枯れて休眠する植物の総称で
葉が常緑のバイカオウレンやセリバオウレンは
厳密にはスプリングエフェメラルとは
呼ばないとも言われている
けれども春まだ浅く寒い時期に
地上に小さな花の姿を現す佇まいは
本当に愛らしくてまさに妖精そのものだ
その花のまわりだけ
ひと足早い春の柔らかな空気を纏い
光が溢れているようだった

バイカオウレンやセリバオウレンと言えば
朝の連続ドラマ『らんまん』の中で
牧野富太郎博士がこよなく愛した花として
一躍有名になったけれど
街中ではほとんど出会うことは出来ず
今はこういった植物園や深い森の中に
人知れずひっそりと咲いている
素朴で控えめで慎ましやかなその姿は
人の目に触れることも少なく
今では会いに行って初めて出会える
そんな稀少な植物たち…
華やかさや派手さはけして無いけれど
一度出会うとその姿が忘れられず
その場を離れては後ろ髪を引かれる思いで
何度も引き返してはしゃがみ込んで
長い時間眺めていた

花は季節が巡り来るたび
誰に教えられるでもなくそっと咲いて
その花を知った時のことや
初めての出会いの想い出を
心の中に静かに運んで来てくれる
四季折々の風景の中
そんな優しいシーンの欠片を
そっと掬い上げて心にとどめておく
けして途絶えることのない
花と自分だけの静かな物語
そんな心の中の宝物のひとつひとつが
今はとても愛しく大切に思えて
時折取り出して手のひらに乗せては眺めてみる
「咲いてるよ」と場所を教えてくださり
花に纏わるたくさんの素敵なお話を
してくださった優しい職員の方
そして導くようにその可憐な姿を見せてくれた
小さな可愛い妖精たちに心から感謝を込めて
近いうちにきっとまた会えますように
