見出し画像

エレガンス考察

ここ数年で思い切った断捨離を決行し
洋服や靴、バッグ、雑貨類に至っては
数年かけて量をかなり減らした結果
衣替えの必要が無くなり
クローゼットの風通しがとても良くなった

若い頃のように多くを所有するより
少数精鋭で気に入ったものだけに囲まれて
日々軽やかに暮らしたいという思いは
歳を重ねるごとに強くなる

試行錯誤を繰り返しながら
自分なりに把握出来る心地良い量まで
物を減らしていくことを
数年かけて心掛けてきて
最近ようやく理想の形に近づいたかなと
いうところだ


昔から所謂ハイブランドには
ほとんど興味が無かったのだけれど
好きな作家さんが 
10年前にパリで購入された
エルメスのバッグ・ピコタンを
使うことなくずっと眠らせていたけれど
「美しい」と感じて手放せず
今の年齢になって手にしてみると
しっくり馴染んで愛用している
という記事を目にして
素敵なお話だなぁ…と感じた

バッグは好きでたくさん持っていだけれど
中でも革製品は今の自分には重く
少し負担に感じ始めて
大切に使っていたものも
自分にとっては高価だったものも
ほとんど手放してしまった

唯一手元に残ったのが
vasicのbond miniのブラック
大きさと軽さとデザインが
今の自分のニーズに
ぴったり合っているように感じて
ここ数年愛用している

けれど 
ややカジュアルな雰囲気のあるバッグで
最近の物選びの基準である
「おばあちゃんになっても使えるか?」
という問いには、正直自信は無い

実はエルメスのピコタンに限っては
ここ最近、雑誌やメディアで
なぜか目にする機会が多く
気にはなっていたものの
とても自分には身の丈に合わない
高額なお品だとスルーして来た

けれど その作家さんの記事を読み
シンプルで上質な黒の上下のパンツスタイルに
ピコタンをさらりと持っておられる姿が
なんとも素敵で…

断捨離をしてからは
ベーシックな色のニットやブラウスに
パンツという
すべてお気に入りだけれど
周りからは毎日同じ格好に
見えるようなものだけが
クローゼットに残ったので
自分勝手な親近感を抱き
心惹かれて気になりだした

エルメスの歴史や
ピコタンについて少しばかり知りたくなり
調べてみると
フランスのエルメス本店でも品薄で
新品で手に入れることは
至難の技であることや
色やモデル、大きさも数種類あることを
知った

けれどいちばん驚いたのは
最も気になっていたM Mというモデルが
今手元に唯一残っている
vasicのサイズ感とほぼ変わらないことだった

心惹かれていたのは
大きさが今の自分にしっくり来ることを
直感的に感じていたからかも知れない 


大手リユースサイトで
比較的状態の良いクレマンスのノアール
しかも希望だったロックのない
シンプルな旧モデルに出会ったのは
それから数日経ってからのこと

カデナ付きのものの方が今は人気で
リユースであることで
価格的にもなんとか手の届くものだった

それでもけして安くはない買い物
数日迷いに迷って
売れてしまったら諦めよう…
そう思って
何度もサイトを訪問していた
キャンペーン割引クーポンまで
表示されていたにも関わらず
不思議と誰の手にも渡らず…

しかも刻印から年代を調べると
その作家さんがお持ちのものと
同じ年に作られたものだった

大袈裟だけれど
なんとなく運命的なものを感じて
意を決してお迎えし
手元に届いて持った瞬間の感動は
おそらく一生忘れないと感じた

驚くほど軽い 
しなやか 
しっとりと柔らかい
品のある形と艶感…
多少の型崩れは用意していたインナーバッグを
入れると呆気なく消え去り
まるでずっと持っていた愛用品のように
私に寄り添ってくれた気がした

ハイブランドのバッグなのに
気取りがまったく無い
しかも10年も前に作られた物なのに
古びた佇まいはまるで感じさせない

おばあちゃんになっても
大切に持っている自分が
容易に想像出来た

エレガンスというイメージだった
ハイブランドのバッグ
けれど、私の中でのエレガンスの意味が
少なからず変わってしまった瞬間だった

その作家さんが書いておられた中に

 欲しいなと思ったものには
 いつか出会えたらいい
 そんな気持ちで居ると
 必要なものは
 きっと自分のタイミングでやってくる

そういったニュアンスの素敵な言葉があり
大人の余裕とゆとり
執着せず追いかけない
軽やかな時間軸の余韻のようなものを
感じた

そして

 自分に本当に必要なものに
 出会えるためには
 余白が必要 

いつかどこかで聞いた言葉が
ふわりと蘇った

エレガンスとは
大人だけが持つゆとりや余白

そう教えられた気がした

それはきっと物に限らず
人間関係や生き方に至るまで
すべてのことに言えるのかもしれない

ここ数年の断捨離も
心ときめくものや
欲しいものがなくなった一抹の寂しさも
好きと似合うが微妙にずれ始めた
空虚感も
エルメスのバッグとの
出会いへの道に繋がっていたなら
私には必要なプロセスだったのだ

断捨離の効能は
数々あると言われてるけれど
ただ単に物を減らすだけではなく
空いた余白に
こんな豊かさを迎えることが出来た
私にとって嬉しい出来事だった

物や人との出会いも
追いかけることなく
こんなふうに自分だけの
ベストなタイミングで
空いた余白にふわりと舞い降りるようなものを
大切にしながら
自分なりのエレガンスを極めて行けたならと
思う