少女とぼくとパーラメント・ライト



パーラメント・ライトのロングをください!


6歳ごろの少女が、500円硬貨をレジの受け渡しトレーに乗せて元気良く告げた。片方だけ抜けた前歯を見せてにこにこしながら、やっとレジカウンターと同じ高さくらいにある顔を覗かせている。

フリーターとして地元のコンビニでアルバイトをしていた時のことだ。何年も前のことなのだが、あまりの衝撃でその顔を今でもはっきり思い出せる。細部までは再現できないが、少女との会話もある程度覚えている。

まさかこんな小さい子からタバコを、しかもパーラメントなんて厳つい銘柄を求められるなんて思ってもない。


タバコ欲しいの?

うん。

もしかしておつかい?

ママに頼まれた!

ごめんな、おつかいでもまだ買ったらあかんねんか。お金返すし、今度お母さんと来てな。

あそこで待ってる。


少女は出入口がある右の方を指差した。
そこにはいかにもヤンキー上がりの、30歳中頃のお母さんがタバコを吸いながらこちらの様子を伺っている。

いやそこにおるんかい!

そのお母さんはよく買いにきてくれるので、覚えていた。耳の少し下で切り揃えた金髪のワンレングスショートヘアに日焼けした肌、いつもタイトなパンツにピンヒール。

一旦お金を返して少女をお母さんの元へ帰らせた。二言ほど会話したあと、お母さんはこちらに向かって

ダメ?あかんの?

と少女を指差しながら言っている。お店の外なので声はもちろん聞こえないが、大きく動かした口の形で言葉がわかる。僕はレジカウンターから少し体を乗り出し、腕を胸の前でバツにしてダメだとジェスチャーで伝えた。

タバコを吸い終わって、お母さんと少女が改めてレジの前に来た。


近くにいるんやし、買わせたげてよ~。

財布を鞄の中から出しながらお母さんに話しかけられる。逆ギレのクレームではなく、諦めて残念そうな口調で言っているので少し安心した。よかった、変な絡まれ方をされなくて。


いや、捕まっちゃうんでダメなんすよ。

マジメ過ぎやん。この前やる気なさそうなおっさんは買わせてくれたのに。

めっちゃ白髪のちっさい人ですかね、あとで店長にチクっときますわ。

やる気なさそうなおっさんで伝わるんやな(笑)


みたいな会話をしつつ、パーラメント・ライトのロングを持ってきてお会計を済ませた。文章だけで見ると嫌みっぽくなってしまうが、めちゃくちゃ普通の店員と常連客の会話だった。


帰り際、少女はこちらに手を振ってくれた。それ以降、(僕がシフトの時間帯で知る限りは)少女は見かけなかった。


もう就職もして地元から離れたので、成人になったその時の少女が改めてパーラメント・ライトのロングを、今度は自分のために買いに来た、なんてクソおもんないオチはない。


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