いま改めてグラスパーを聴く楽しさに迫る!
J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。
3月1日(火)のオンエアでは、「『ブラック・レディオ』シリーズから読み解く! ロバート・グラスパー」をテーマにお届け。ゲストには、およそ10年もの間、ロバート・グラスパーの来日公演は欠かさず体験!本人へのインタビュー経験もある、音楽評論家の柳樂光隆さんとキーボーディストの江﨑文武が登場。
■グラスパーは違うジャンルを繋いでくれる存在
現代で最も重要なジャズミュージシャンの1人とされる、ロバート・グラスパー。そんなグラスパーが世界的な評価を獲得したのが、『ブラック・レディオ』シリーズ。ジャズとR&Bやヒップホップを融合させ、その1作目はグラミー賞ベストR&Bアルバムを獲得。さらに、4つの異なるジャンルのビルボードチャートで、同時にトップ10入りした最初のアルバムとして歴史を刻んだ。
そんな名盤の10周年を記念し、シリーズ最新作となる『ブラック・レディオ3』をリリース。革命児とも評されるグラスパーは、いかにして音楽シーンのスーパーヒーローとなったのか。番組では、ロバート・グラスパーを特集。
ゲストの柳樂さんは、21世紀以降のシーンを網羅した人気ジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズの監修を務めるなど、現在進行形のジャズをとらえ続けている。
あっこゴリラ:柳樂さん、そもそも『ブラック・レディオ』シリーズとは、他のグラスパーの作品とはどう違うのでしょうか?
柳樂:最初の頃は、楽器も全部アコースティックで、いわゆるアコースティックのピアノトリオのジャズだったんです。それが、そのあとに出した『ダブル・ブックド』というアルバムでは、エレクトリックピアノを使ったり、ベースもエレクトリックになって、サックスもエフェクターをかけたりして。
あっこゴリラ:おお~! それ自体もジャズ界では革新的なことだったんですか?
柳樂:そうですね。リズムもちょっとヒップホップっぽいものが入ってきたりして。そして、少しずつヒップホップとかR&Bに寄せていって、ゲストにラッパーとかR&Bのアーティストを呼んで、最後に思いっきり寄せたのがこの『ブラック・レディオ』です。
新たなジャズの形を提示したと評価される2012年の1作目『ブラック・レディオ』。グラスパーの存在をジャズシーン以外にも広く知らしめた作品となったが、『ブラック・レディオ』リリース以前、グラスパーはどのような評価をされていたのだろうか。
柳樂:リリース以前は、ジャズシーンではすごく高く評価されていたピアニストで、いわゆるアイドルというかカリスマですね。そんな人が、実はヒップホップのシーンでもQティップだったり、エリカ・バドゥだったり、いろんな人と仕事していて、ジャズを聴いてた人は知らない人も多かったと思います。でも実は、両方で活躍していた人だったという感じですね。
あっこゴリラ:江﨑さんは『ブラック・レディオ』リリース当時、どんな印象を受けましたか?
江﨑:僕が高校生くらいだったんですけど、なんだかすごいジャズピアニストが出てきたなって、同世代のジャズミュージシャンたちが盛り上がっていましたね。『ブラック・レディオ』がリリースされたタイミングが大学入学と重なっていたんですけど、大学の音楽サークルで様々ジャンルの仲間と出会うんですよね。ジャズを突き詰めてる人、ヒップホップを突き詰めてる人、ソウルを突き詰めてる人、みんなが最高だよねって言っていました。グラスパーは、違うジャンルの橋渡しというか、繋いでくれる存在ですね。
あっこゴリラ:同じピアニストとして、グラスパーはどんなピアニストだと思いますか?
江﨑:特に初期の作品でピアニストとしてのスキルの高さを強く感じていたんですけど、僕は何よりトータルプロデュース力がすごいと思っていて。ピアノという部分だけではなく、例えばあえてピアノを抑え目にするとか、他を引き立たせるための音楽の作り方が出来るという点が他のピアニストと全然違うすごいところだなと思います。
あっこゴリラ:それではここで、名盤とされる1作目『ブラック・レディオ』から1曲聴いてみたいのですが、柳樂さん、特に重要だと思う曲を教えてください。
柳樂:このアルバムがリリースされる前に先行で発表されたシングルで、エリカ・バドゥが歌う『Afro Blue』という曲です。この曲が出たときは衝撃でした。
現在、最新作を記念してユニバーサルミュージックのHPで、柳樂さんが監修されたロバート・グラスパー相関図が見られる。これがもう圧巻である。ユニバーサルミュージックジャパン内のロバート・グラスパーのHPで見られるので、気になった人はぜひチェックしてみてほしい。
■世代も地域もジャンルも広げた『ブラック・レディオ2』
世界的な評価を確実なものとした2012年のシリーズ1作目『ブラック・レディオ』。革命を起こしたと言われるこの名盤以降、グラスパー、そしてジャズシーンはどのように変わったのだろうか。
柳樂:ロバート・グラスパーがヒップホップやR&Bっぽいアルバムを出したっていま普通に喋ってますけど、出してるレーベルはジャズの名門「BLUE NOTE」で、思いっきりジャズレーベルなんですよね。そういうジャズのレーベルで、ジャズミュージシャンがちょっと変わったことやるハードルってすごく高かったとグラスパーより上の世代の人たちはよく言うんです。
あっこゴリラ:うんうん。
柳樂:マーク・キャリー曰く、「ジャズミュージシャンは、ジャズっぽいものじゃないとなかなかリリースさせてもらえなかった」と言っているし、縛りもすごく多かったそうです。ホセ・ジェイムズは、「ロバート・グラスパーが扉を開けた」とはっきり言っていますね。
あっこゴリラ:おお~。そもそもピアニストとして高く評価されているロバート・グラスパーだったからこそ実現できたことなのかなって感じもしますね。
柳樂:そうですね。
あっこゴリラ:そして、1年後となる2013年にシリーズ2作目の『ブラック・レディオ2』が登場しましたが、こちらはどんな作品となっているのでしょうか?
柳樂:ファーストはどちらかというとNYとソウルクエリアンズの人たちが多く、グラスパーに本当に近い人たちで手堅く勝ちにいったアルバムだったんですよね。
あっこゴリラ:確かに。
柳樂:セカンドでは、LAのヒップホップのレジェンド、スヌープ・ドッグやノラ・ジョーンズ、ジル・スコットなどいろんな人を使っているし、ちょっと上の世代で90年代の前半にヒット曲を飛ばしているブランディーとかフェイス・エヴァンスとか、年上のR&Bシンガーを起用したりして、世代も地域もジャンルもいろんなところに広げたアルバムって感じですね。
■9年ぶりのシリーズ最新作『ブラック・レディオ3』
『ブラック・レディオ』『ブラック・レディオ2』以降、ディアンジェロの『Black Mesiah』やケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』など、ヒップホップやR&Bサイドからジャズに接近した作品が増えたように感じられる。
ラストのブロックでは、最新アルバム『ブラック・レディオ3』について掘り下げた。
あっこゴリラ:9年ぶりのシリーズ最新作となりましたが、どのようなコンセプトがあると感じましたか?
柳樂:まず、コロナ禍で人が集まれなかったようで、一部は一緒に演奏したそうなんですけど、大半はリモートでやったみたいです。ロバート・グラスパーは、『ブラック・レディオ2』のライナーのところに、「このアルバムでは、プログラミングによるループは一切使ってなくて生演奏です」と太字で書いてるんです。
あっこゴリラ:へえ~!
柳樂:それくらいのことを書いていた人がリモートでやったんですけど、それでも今までと変わらない感じで作れているのはすごくおもしろいなっていうのが一つと、やっぱりコロナ禍でブラック・ライブズ・マターっていうのが大きかったと思います。それに対してすごく明確なメッセージのある曲がたくさん入っているのが、今までのグラスパーの作品との違いだと思います。
あっこゴリラ:SNSの発展とともに人権差別問題に関する事件がこれまで以上に世界同時に問題化されるようになりましたし、未だ根深い問題が横たわっているように感じますよね。最新アルバムで、柳樂さんが特に気になった曲は何ですか?
柳樂:『Black Superhero』という曲です。
あっこゴリラ:まさに今作を象徴するようなタイトルですね。
柳樂:そうですね。タイトルやラッパーのKiller Mikeなど参加しているゲストを見ると、それが今のグラスパーがやりたいことなのかなって思ったりします。
あっこゴリラ:続いて、江﨑さんが特に気になった曲を教えてください!
江﨑:YEBBA(イエバ)が客演している『Over』という曲です。
あっこゴリラ:YEBBAって、どんなアーティストなんですか?
江﨑:アメリカの女性シンガーなんですが、僕が初めて彼女の存在を知ったのがPJモートンの作品に参加していたときで。僕と同世代ということで、彼女の作品をいろいろ掘り下げていったんですけど、とにかく歌唱力がとんでもないんですよ! 素晴らしいです。
PC・スマホアプリ『radiko.jpプレミアム』(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は『radiko.jpタイムフリー』機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 22時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/
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