鏡のない世界で 0.
僕は声が出ない。
おそらく先天的なものだろう。記憶のある限り自分の声を聞いたことはない。
耳に異常はないので言葉の理解はできているが、会話はできないのだ。
だが不思議と、それを苦痛に思ったことも、相手に伝わらず悲しかったり、歯痒いと思ったこともない。
そして僕は、外に出たこともない。
12帖ほどの広さである直方体の中が、僕が存在する世界だ。
僕にとって、向こう側の世界は窓に映るものがすべてで、世界が広いというのはもはや漠然とした概念でしかない。
やはりこれも、外に出たいとか、辛いと感じたことはない。
だって僕は、1人じゃない。
次話:1.1 https://note.com/sona_06/n/nbc5c5d68a39e
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