元CDショップ店員がM3のポップについて考えた

M3でのポップについての感想

2024年、M3は春と秋、両方行きました。
(M3は音楽、音系メディアの同人即売会です)
10年くらい前にも行ったことがあるのですが、その時に比べて遥かにジャケットのクオリティが上がっていると感じました。
音楽を制作する人とイラストを描く人がコンタクトを取りやすい環境になればいいなと思っていたので、そこが良くなったのはとても喜ばしいことと感じております。

しかし、その素敵なジャケットやポスターで溢れかえる会場を見て私が感じたことは

「何売ってるかわからん」でした。

「試聴コーナーがあるのでそちらで情報収集してください」ではあるのですが、すべての人が時間をかけて好みの音楽を厳選するわけではないでしょう。
目的のサークルの品を買う以外でお金を遣うとなると財布の紐はガチガチです。
目を合わせたら買わなければならないけれども、好みの音楽があったら欲しいという気持ちで会場を回っている方もいらっしゃると考えます(私です)。
そんな方に足を止めてもらうための情報が少なすぎると感じました。
大手のサークルさんならそのようなことを気にする必要なく人は集まりますが、そうでない方々は工夫をしなければならないと考えます。

参加料を払って、交通費を遣ってブースを出しているから、ある程度は売りたい。
自身の音楽を知ってもらいたい。
このジャンル面白いんだから聴いてほしい。
M3に参加される方々はそのような気持ちが多かれ少なかれあると思います(無ければ参加しないでしょうと考えております)。

そこで元CDショップ店員が売場でやっていたことをお伝えして、通りすがりの方が足を止めてくれる確立を少しでも上げられればと思い、記事を書こうと思い立ちました。
売上の一助になれば幸いです。

『売場』を作ろう!

「ブースに商品を並べる」ではなく「売場を作る」という意識で臨みましょう。
あなたのブースはただの机ではありません。
『売場』です。
M3以外の場所で知っている方々が作品を買ってくださるとは思いますが、その方々以外にも自身の作品を知ってもらいたいのであれば、「如何に足を止めてもらえるか」が命題になります。

物は勝手に売れません。
品質が良ければ売れるというのは幻想です。
良くても売れないし、良くなくても売れます。
小売業は品質、デザイン、情報を与えるメディアの選別などなど、あらゆる努力をして商売をしているのです。
店舗では、棚の位置や商品の置き方、お客様の導線、値札の文字の大きさや場所、あらゆることに気を配って売場を作っているのです。

「良い売場」は「遠くからでも一瞬で具体的な情報が伝わる」と私は考えております。
どうしたら情報が伝わるのか。
そこを考えていきましょう。

絵よりも『文字』

「遠くから一瞬で具体的に情報を伝える」ことが大事なんです。
そのために有効なのが『文字情報』です。

先のM3ではかわいらしい、かっこいいジャケットに溢れており、素敵なイラストがそこかしこで拝見できました。
ブースが華やかなのは大変喜ばしいことなのですが、音楽の売場において、イラストは花を添えるものであると考えます。
絵が好みなので買うという方もいらしゃいますが、先述したように財布の紐はガチガチです。
それに来場されているのは音楽やASMRなど音系メディアを探しに来ている方々です。
音系メディア即売会では中身の方が重要であると考えます。

私が感じた「何売ってるかわからん」というのを正確に表すなら
「ジャケットの雰囲気で多分こんな感じの音楽だろうけど、雰囲気だけでは好みかどうかわからないなぁ」です。
かわいいイラストですと音楽なのかASMRなのかラジオドラマなのかシチュボなのか、ブースに近寄らないとわからないです。
しかしブースに近付いたら買わなければならぬという強迫観念を持っている財布ガチガチの方々にはなかなか近付いてもらえないでしょう(私です)。

そこで『文字情報』なのです。

文字は視界に入れば一瞬で情報を得ることができます。
絵よりも具体的です。
遠くから見てもわかります。

「睡眠導入ASMR」
「カオティックハードコア」
「2000年代グラムメタルリバイバル」
「ハーディーガーディーで演奏してます」
「ジャミロクワイ好きです」
「男性声優による添い寝シチュボ」

上記のキーワードは分かる方には分かると思います。
ご自身の作品をどのような方が好まれるかを考えて、具体的なキーワードを抽出して大きく文字を見せれば遠くの方も視認ができ、足を止めてもらえる確率は上がると考えております。
シンプル故に有効なのです。

(デスメタルなどのバンドロゴに関してはそれで分かる人には分かるのですが、デザイン化された文字なので、デザインからの情報となります。かなり深く聴いている方でないと判別できないので、そういう方向けなら有効ですが狭いです。)

書く内容としては具体的であることが大事です。
ジャンルが明確であればジャンルを書くのが良いと思います。
ジャンルが明確でない場合はご自身がインプットしてきたもの、このミュージシャンが好きだったら聴くだろうなぁとか、そういうので大丈夫です。
ご自身の使用されている楽器や機材を書けばコアな層が足を止める可能性があります。
ご自身の好きなものを「~好きです!」と書くのもいいでしょう。
(「カレー好きです!」はある意味インパクトがありますが、有効かはわかりませんので、作品に近いものにしましょう)

「ジャケットでわかるだろ」と考えていらっしゃる方もいると思いますが、ジャケットよりも遠くから、一瞬で、具体的に情報を与えられるのは文字です。
この「遠くから、一瞬で、具体的に」というのが肝なのです。

遠くの方に具体的な情報を与えられえばブースの前を通るまでに足を止めるか止めないか考えさせることができます。
一瞬で情報を与えられれば反射的に足を止めてくれる方が出てくる可能性があります。

足を止めてもらうということが作品を販売する第一条件であるので、そこをクリアできたらあとは好みとお財布の問題です。
そこはご自身の作品と足を止めた方との相性なので、買っていただけるかはわかりません。
しかし足を止めてもらわなければ、その可能性も無いのです。
「如何に足を止めてもらえるか」が命題であるのはそこなのです。

どんな文字を書けばいいのか

ここからようやく具体的な手法の話になります。

「シンプルで大きく見やすいキーワード」

短ければ良いわけでもないのですが、長いよりは良いです。
ご自身の作品の色合いとの相性もありますが、私がCDショップで目立たせていたポップは「白地に黒文字(筆ペン)、キーワードは1行、赤い太線でアンダーライン(直線/波線どちらでも)」でした。

サイズはA3か八つ切を縦半分に切ったくらいでした。
文字数によっては端を切ったりしてました。

これだけです。

他にも仕事がある中でポップにだけ時間をかけるわけにはいかないので、これくらいなのです。
内容もシンプルで全く思いつかないときは「~年ぶりの3rdアルバム!」とかでした。

しかしこれをやるとやらないとでは全く違いました。
とりあえず試聴機で聴いてみようとなる率が高くなります。
「~年ぶりの3rdアルバム!」という情報が一瞬でお客様に伝わり、「アルバム出たんだー」とそのバンドを知っている人は思います。
それで時間に余裕のある方は「試聴してみるか」となるのです。
そこからはお客様の好みとお財布との葛藤になるので、そこまでやれれば仕事としては上々です。

試聴されている方向けに「①②④オススメ!」と試聴機に貼っていました。
そして試聴されている間に読める、より具体的なコメントが書いてあるポップ。

昔は全部手書きでした。
手書きの方が熱量が伝わる感覚があるので、その方が良いと感じております(好みや仕事量の問題ですが)。

とりあえず何を用意すればいい?

キーワードが書かれた大き目のポップ
(ポスターを掲示するならそこに貼るのがいいでしょう。その時はマスキングテープで。ポスターが無い場合は先述の用紙よりも大きく、画用紙一枚くらいで2行でキーワードを書くのが有効かと思います。短く具体的に)
ご自身の名前が書いてあるもの(大き目)
(名前だけでも憶えてください、自分のブースここです、という2つの意味で要ると思います)
自身のブースでも試聴できる環境
(百言は一聴にしかず!オススメトラックをかましてください。お客様とのコミュニケーションで好みが分かったらそれに近いのをオススメできればいいですね)
値札(安さ爆発していれば値段を大きく書くのも良いでしょう。少々お高い場合は目立たせなくていいです)
名刺(後で聴いてもらえる可能性がありますので、ご自身のSNSなどのリンクをQRコードにしておきましょう。事前に用意できなければ紙に名前を書いたものでも大丈夫。名前だけでも憶えていただければ上々です。)

平積みより立てて見せられる方がいいので、そういうやつがあると良いと思います(名前がわからない)。
MVがあるならタブレットなどで見せられれば良いですね。

机の前ががら空きだと寂しいのでそれを埋める何か
(地味目な色の布とかいいかも。
ジャケットのコピーとかでもいいでしょう。
そこに先述のキーワードを書いたポップをもう1枚貼ってもいいと思います。キーワードを書いてもいいかも。
寂しくない方は無くても大丈夫ですが、見栄えが違いますので何かしらあった方がいいです)

参加料と交通費がかかっていますので、お金をかけられないのであればテキトーで大丈夫です。
とりあえず足を止めてもらう工夫をして、足を止めてもらえたら作品を聴いてもらうというのが命題です。
作品の販売に至らなくても名前を憶えていただければOK。
SNSのフォローをしていただければ後につながる可能性があります。

そこにお金をかけられればいいのですが、難しいなら命題を如何にこなせるか手作りで工夫してみましょう。
DIYも醍醐味です。

伝えたいこと

とにかく作品を制作してどこかで発表している時点で100点です。
評価をされる土俵に立てているだけで十分立派なのです。
ご自身が制作された作品をM3など即売会で販売されるのであれば、より多く売れてほしいという願いでこの記事を書きました。

この記事の通りにやれば絶対売れるというものでもありません。
絶対売れるなんてものは誰にもわからないです。

私はCDショップで勤務しておりましたので、CDを一枚売るのに様々な業種の方が各々の仕事をして少しでも多く売ろうとしている姿を見てきました。
私自身も一枚でも多く売ることの大変さを体感してきました。

販売って難しいんです。
どんなに工夫をしても見向きもされない時もあります。
素晴らしいと私が感じている作品も試聴機に入れる機会が無く、全く売れないということが何度もありました。
試聴機に入れてもダメな時もありましたし、何で売れた?という時もありました。
なかなか思うようにいかないものです。
音楽だけでなく販売を経験している人が感じていることだと思います。

それを音系メディアを制作されている方がご自身で販売するというのは、ものすごくハードルが高いと考えております。
販売の経験がある方もいらっしゃると思いますが、販売するものが違えばわからないことも当然出てきます。
それでも即売会に参加され、ご自身のブースで販売をされるというのは、並みならぬ情熱を持っているのだと私は考えます。

M3だけでなく、即売会に参加される制作者の方々の作品が少しでも多く販売され、制作のモチベーションを維持できればと願います。
売場を作ることも楽しみましょう!



(本音。販売をなめるなよ!大変なんだぞ!)

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