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#3B Corp取得に関して
本記事では、社会的インパクトに関連して、社会性が高い企業への認証制度であるB Corpの日本での現状を確認し、さらにB Corpの取得を検討する際の留意点についてお伝えします。
1.そもそもB Corpとは?
B Corpの認証を実施している米国の非営利団体B LabのHPでは、
“B Corp Certification is a designation that a business is meeting high standards of verified performance, accountability, and transparency on factors from employee benefits and charitable giving to supply chain practices and input materials”
とあり、「従業員の福利厚生、慈善活動、サプライチェーンや原材料の仕入にいたるまで高い基準でのパフォーマンスや説明責任、透明性を企業に高い基準で求める認証である」とされています。
出典:https://www.bcorporation.net/en-us/certification/
社会や環境に良い影響を及ぼしている営利企業に与えられる認証なので、認証企業に顧客やコミュニティ、サプライヤー、従業員、投資家との良好な関係を継続的に築くこと、世界的なムーブメントのリーダーとして振舞うことを求めている点で、取得して終わりの認証とは異なります。また、更新時には前回のスコアを上回る必要があり継続した改革が求められることも特徴の一つです。
ちなみにB CorpのBは単なる“Benefit”ではなく、“Benefit for all”を意味するのだそうです。
2.日本におけるB Corpの現状
日本においてもB Corpを取得する企業が増えています。
2016年に日本で初めてのB Corp認証企業が誕生し、その年の認証企業数は3社でした。その後、2022年ごろから認証企業数が急増し、2025年2月現在で52社の企業がB Corpを取得しています。
出典:Find a B-Corp
2024年3月には日本でのB Corpムーブメントを推進する組織であるB Market Builder Japanが始動し、日本におけるB Corpの存在感は高まっています。
出典:B Market Builder Japan始動に関する記事(IDEAS FOR GOOD)
また、これまでは中小規模の企業がB Corpを取得することが多かったのですが、近年は従業員数が1,000人を超える規模の企業が取得していたり、大手のシンクタンクである株式会社日本総合研究所がB Corp取得を目指すなど、今後は、大企業のB Corp取得も増えていく可能性があります。
出典:日本総研が認証取得に舵を切った理由。大企業がB Corpになる3つのメリット
3.B Corp取得は財務に悪影響を及ぼす?
「B Corpが流行っているからうちも取得しよう!」、「B Corpで企業価値を高めたい!」と考える方もいるかもしれません。また、B Corpのメリットについて触れた関連記事が多くみつかります。
一方、留意すべき点について触れている記事は少ないので、本記事ではB Corp取得に際して考慮すべき留意点について書こうと思います。
先に結論から述べてしまうと、B Corpを取得することで短期的なROA(Return On Asset:純資産利益率)が悪化するという論文があります。
出典:B-CORP certification and financial performance: A panel data analysis
著者:Violeta Bringas-Fernández, Carlos López-Gutiérrez, Andrea Pérez
スペインのサンタンデール金融研究所 (SANFI)とカンタブリア大学の研究によれば、同じ国・規模・業種でB Corpを取得した企業とB Corpを取得していない企業のROAを比較すると、B Corp取得後2年間において、B Corpを取得した企業のROAはB Corpを取得していない企業よりも低くなることが分かりました。
原因について、この論文では
B Corp取得にかかる社内の改革プロセスに大きなコストがかかること(働き方の改革、サプライチェーンの見直し、生産プロセスの見直し、社員への啓蒙活動など)
エシカルな消費者を優先したサプライチェーンや生産プロセスの見直しにより価格競争力が落ちること
などが挙げられており、企業がある側面にリソースを割くとその他の側面に悪影響が出るというトレードオフ仮説が支持されています。
ちなみに、B Corp取得以前の企業の財務パフォーマンスには有意な差は見られず、もともと財務パフォーマンスが他社と比べて良いまたは悪い企業がB Corpを取得したという仮説は否定されています。
今まさにB Corpのアセスメントを受けるボタンをクリックしようとしていた企業の皆さんは、これを読んで落ち込んでいるかもしれません。
正直に言うと、私もこの論文の冒頭に“Certifying as a B-Corp affects financial performance negatively in the short-term.“(B Corp として認証されると、短期的には財務実績に悪影響が及びます。)と書いてあるのを見て少しショックを受けました。
しかし、論文はこれで終わりではありません。前述の文章をよく見ると。“in the short-term”(短期的には)とあります。
実はこの調査は2013年から2020年の7年間においてB Corp取得企業と非取得企業の差を分析しているのですが、取得から2年が経過すると財務的にネガティブな影響は低減していき、中長期的には財務的への影響が薄くなっていくことも分かっています。
つまり、B Corpの取得によって短期的にはROAが悪化するが、中長期的にはROAへの影響は消失するということです。
ただし、影響が消失すると書いてあるだけでB Corpの取得によってROAが成長するとは一言も書いていません。
ここまで調査内容を紹介しましたが、結局B Corpの取得には財務的にメリットがあるのか?という疑問が残ると思います。
この疑問に関しては、論文でも“これまでのところ、B Corp認証と財務実績の関係を実証的に調査した定量的な論文はごくわずかであり、残念ながら、その結果は完全に決定的なものではない。”とあるように、学術分野でも評価が分かれるようです。
すっきりしない結論ではありますが、少なくともB Corpを取得すれば社会的な価値も経済的な価値も両立が出来るといった単純なものではなく、場合によっては財務パフォーマンスの低下を招く可能性があることを論文は示唆しています。
4.最後に
まとめとして、B Corp取得時に留意すべき点をお伝えして結びとします。
B Corpの取得を判断する際は、社会や環境的に良い企業だと対外的にアピールできるといった利点だけではなく、認証に伴って発生する様々な改革のコストがかかることや価格競争力が落ちて短期的な収益が落ち込む可能性に留意すべき。
B Corpを取得しただけで企業の財務状況を直接改善することはできない可能性が高い。むしろ取得する過程で社内の制度をサステナブルに変革するためのドライバーとして捉え、ブランド価値の向上、エシカルな消費者層へのアクセス、インパクト投資家とのコネクションなどの非財務的価値向上を通じて、中長期的に財務にポジティブな影響を与えることを目的と置いたほうが良い。
B Corpの考え方自体は素晴らしいものですし、B Corpを取得する日本企業が増えることを切に願っています。ただ、認証というのは取得して終わりではないですし、取得したからと言って会社の状況がすぐに良くなるわけではありません。
社内の改革を含めた中長期的な目線を持って認証取得を判断することをお勧めします。
長文をお読みいただきありがとうございました。少しでも共感するところがあればスキ/フォローをお願いします!