桜木花道なら分かる:ピボット・ポイントの本当の意味
ピボット・ポイント(pivot point)はテクニカル分析の第一人者J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニアが考案した,FXや株のデイトレードで人気のインジケータである.前日の安値・終値・高値から,七つの値$${P,S_i, R_i \; (i=1,2,3)}$$が計算され,それらに対応する7本の水平線が今日のチャート上に描かれるだけのシンプルなものである.そして,それらが支持線(support line),抵抗線(resistance line),ブレークアウトポイント(break out point)として働く.
七つの値$${P,S_i, R_i \; (i=1,2,3)}$$が前日の安値$${L}$$・高値$${H}$$・終値$${C}$$のどのような関数なのかは,ある程度ちゃんとした本やウェブサイトを見れば必ず書いてある.しかし問題は,どのような理屈でそのような式が出てくるのか説明している本やウェブサイトが皆無に等しい点である.例外は小次郎講師だけだ.
実はピボットポイントを理解する鍵は,バスケットボールにおけるピボットという動きと深い関係がある.バスケにはボールを保持している人がドリブルせずに三歩以上歩いてはならないというルールがあり,三歩以上歩くとトラベリングという反則になることはご存知だろう.したがって,ボールを手にした後は一歩目の足を(床から浮かすことなく)軸にして二歩目の足を円を描くように動かしながらパスする相手を探したりする.この動作をピボットという(図1).
どこにでも書いてあること:P, Si, Riの定義
まず,前日の安値(low price)を$${L}$$,高値(high price)を$${H}$$,終値(closing price)を$${C}$$として,上述の七つの値は次のように定義される.
$$
\begin{align*}{}
P&:=\frac{1}{3}(L+C+H),\\
S_1&:=2P-H,\\
S_2&:=P-H+L,\\
S_3&:=2P-2H+L,\\
R_1&:=2P-L,\\
R_2&:=P+H-L,\\
R_3&:=2P-2L+H.
\end{align*}
$$
これらの定義は大抵どこにでも書いてあるが,ここから分かるのは,$${P}$$が$${L,C,H}$$の平均(数学的には重心)であるということだけで,それ以外の量の意味はよく分からない.
同値な定義:D1, D2, D3を経由する
しかし,$${S_i,R_i\; (i=1,2,3)}$$を上のように天下り的に定義するのではなく,下記の$${D_1,D_2,D_3}$$という量を定義して,それらを用いて定義すると,グッと真実に近づくことができる.
$$
\begin{align*}{}
D_1&:=H-P,\\
D_2&:=P-L,\\
D_3&:=H-L,\\
S_1&:=P-D_1,\\
S_2&:=P-D_3,\\
S_3&:=S_1-D_3,\\
R_1&:=P+D_2,\\
R_2&:=P+D_3,\\
R_3&:=R_1+D_3.
\end{align*}
$$
こうして定義した$${S_i,R_i\; (i=1,2,3)}$$が,先ほどの定義と同値であることは直ぐに確かめられる.
上の定義を図示したのが図2である.まず,左側に前日の安値$${L}$$,高値$${H}$$,ピボット・ポイント$${P}$$を描き,それらの差から計算される$${D_1,D_2,D_3}$$を描いてある.
図2の右側がピボット・ポイントの全体図である.まず,$${P}$$を中心に半径$${D_1,D_2,D_3}$$の円を描く.図ではそれぞれ内側が緑・水色・ピンクに塗ってある円である.そして,縦線と緑色の円の交点の下の方を$${S_1}$$,縦線と水色の円の交点の上の方を$${R_1}$$,縦線とピンク色の円の交点の下の方を$${S_2}$$,上の方を$${R_2}$$とする.次に,このように作図された$${S_1,R_1}$$を中心に再び半径$${D_3}$$の円を描く.図ではピンクの点線で描かれた円である.そして,図のように$${S_3,R_3}$$を定義する.
なぜピボットなのか.そして,なぜ支持線・抵抗線・BOPとして働くのか
2次元的に円を描いて作図したが,それにどんな意味があるのか,どこがバスケのピボットと関係あるのか.それらの点を見ていこう.
図2の左側から分かるように,$${D_1}$$は前日の高値と$${P}$$の値幅なのに,図2の右側のように,$${S_1}$$は$${P}$$より$${D_1}$$だけ下の点として定義されているのがポイントである.点$${P}$$を軸足にして前日から今日にかけて反転(ピボット)しているのである.そして,点$${S_1}$$は名前が示すようにサポートライン(下値支持線)としての役割を果たすが,これは「今日,(昨日の中心の値$${P}$$から)値が下がるとしたら,それは昨日の上がり分$${D_1}$$だけ」という意味を持っているのだ.同様に,$${D_2}$$は前日の安値と$${P}$$の値幅なのに,$${R_1}$$は$${P}$$より$${D_2}$$だけ上の点として定義されている.これには,「今日,(昨日の中心の値$${P}$$から)値が上がるとしたら,それは昨日の下がり分$${D_2}$$だけ」という意味があるのだ.
そして,$${S_2,R_2}$$もそれぞれサポート,レジスタンスとして働くが,それは,「今日,($${S_1,R_1}$$を抜いた後も)値が動くとしたら,それは昨日動いた全値幅$${D_3}$$だけ」という意味がある.最後に,$${S_3,R_3}$$がブレークアウトポイント(BOP:Break Out Point)として働くのは,「$${S_1,R_1}$$から更に前日の全値幅$${D_3}$$より大きく動いてしまったら,その後は際限なく動いてしまう」という意味である.
補足
「Pivot Point」でググったり,ChatGPTで調べても,本稿のような説明は見当たらない.小次郎講師はどうしこんな深いことを知っているのであろうか.テクニカルに関するその手の本があるなら教えてもらいたいものだ.小次郎講師のプロフィールにトレーダー集団「タートルズ」の手法を基礎としているとある.それらの手法をまとめた書籍などが存在し,そこには書いてあるのだろうか.調べてみたいところである.