RSIの定義に関する覚え書き
RSI(Relative Strength Index:相対力指数)はオシレーター系の超絶人気インジケータである.定義もシンプルだし意味も分かり易いが,勉強している途中で何度か誤った定義を用いている動画・文献に遭遇したので,以下で整理しておく.
定義1(正しい定義)
まずは正しい定義から.
$$
\begin{align*}{}
RS&:=\frac{S_1}{S_2},\\
RSI&:=\frac{S_1}{S_1+S_2}=1-\frac{1}{RS+1}.
\end{align*}
$$
$${RS}$$はRelative Strength(相対力)と呼ばれる.$${S_1}$$と$${S_2}$$はそれぞれ考えている期間$${N}$$日(簡単のため日足で考えよう)における終値ベースで測った「上昇価格の合計」と「下落価格の合計」である.また,実際にソフトウェアなどで用いられるRSIは上式を100倍して百分率(パーセンテージ)表示したものである.
上の定義で理解している人は,以下を読む必要はない.
定義2(平均を用いるけど定義1と同値な定義)
次に,「平均上昇価格」と「平均下落価格」の比を用いて定義する流儀を紹介する.
$$
\begin{align*}{}
\widehat{RS}&:=\frac{\hat{S_1}}{\hat{S_2}},\\
\widehat{RSI}&:=\frac{\hat{S_1}}{\hat{S_1}+\hat{S_2}}=1-\frac{1}{\widehat{RS}+1}.
\end{align*}
$$
$${\hat{S}_1:=\frac{S_1}{N}, \; \hat{S}_2:=\frac{S_2}{N}}$$は考えている期間における「平均上昇価格」と「平均下落価格」である.ただし,ここでいう平均は,上昇価格の合計$${S_1}$$や下落価格の合計$${S_2}$$を期間全体の日数$${N}$$で割ったものとして定義されている.それゆえ,$${\hat{S}_1, \; \hat{S}_2}$$の定義を$${\widehat{RS}, \widehat{RSI}}$$の定義へ代入すれば,至るところに現れる$${N}$$はすべて約分されて,$${\widehat{RS}, \widehat{RSI}}$$が定義1における$${RS, RSI}$$に等しいことが直ちに了解される.
定義3(定義2と似ているけど誤った定義)
最後に,「平均上昇価格」と「平均下落価格」の比を用いて定義するもう一つの誤った流儀を紹介する.
$$
\begin{align*}{}
\overline{RS}&:=\frac{\bar{S_1}}{\bar{S_2}},\\
\overline{RSI}&:=\frac{\bar{S_1}}{\bar{S_1}+\bar{S_2}}=1-\frac{1}{\overline{RS}+1}.
\end{align*}
$$
再び,$${\bar{S}_1:=\frac{S_1}{N_1}, \; \bar{S}_2:=\frac{S_2}{N_2}}$$は考えている期間$${N=N_1+N_2}$$における「平均上昇価格」と「平均下落価格」であるが,定義2のときとは大きく違う.つまり,平均上昇価格が,$${S_1}$$を価格が上昇した日の合計日数$${N_1}$$で割られたものとして定義され,平均下落価格が,$${S_2}$$を価格が下落した日の合計日数$${N_2}$$で割られたものとして定義されているのである.
残念ながら,これら$${\overline{RS}, \overline{RSI}}$$を定義として採用したままRSIに関する解説をしている動画・文献が世の中には一定数出回っているようである[ChatGPT(モデルo4)に質問したら定義3が返ってきたこともあった].それでも解説自体に大きな影響はないのが普通だが,定量的には大きな違いが出得る(後述)ので,間違った定義がこれ以上普及しないよう願うばかりである.
おまけ:定義3のRSIを定義1のRSIと「サイコロジカルパラメータ」で表す
売買の過熱感を表す指標として,次のパラメータを定義しよう.
$$
\begin{align*}{}
p&:=\frac{N_1}{N_1+N_2}.
\end{align*}
$$
これを百分率表示したインジケータがサイコロジカルライン(psychological line)である.したがって,ここでは$${p}$$をサイコロジカルパラメータと呼ぼう.確かに,サイコロジカルパラメータは買われ過ぎ(例えば$${p>0.75}$$)や売られ過ぎ(例えば$${p < 0.25}$$)を表してはいるが,少なくとも価格の上昇幅や下落幅を考慮していない点が不十分であり,その点を改良するためにワイルダーがRSIを考案したというのは有名な話である.
実は,定義3の誤ったRSやRSIは,サイコロジカルパラメータと定義1の正しいRSやRSIの関数として書くことができる.計算の詳細は省くが,結果だけ書くと次のようになる.
$$
\begin{align*}{}
\overline{RS}&=\frac{1-p}{p}RS,\\
\overline{RSI}&=\frac{(1-p)RSI}{p+(1-2p)RSI}.
\end{align*}
$$
何かの役に立つかは知らないが,とにかく定義3が定義1と大きく違うことだけは分かる.
RSIの30%や70%がなぜ注目されるのかについては次の記事をどうぞ.