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三文の得。

「音楽にまつわるグラフィックデザイン」という今の仕事をしていて「正直、これは得してるなぁ」と思うことはいくつかある。

まだ世に出ていないカッコいい音楽をいち早く聴かせてもらえること。そして、そういったカッコいい音楽を奏でるミュージシャンたちのライブに招待してもらえること。加えて、そのミュージシャンたちと親しく交流させてもらって作品以外の側面を垣間見られる機会があること。

これらの恩恵は音楽という創造物に色んな面で影響を受けた思春期の自分に向けて「どうだ、羨ましいだろ?」と、秒速30メートル級の先輩風を吹かせたい気持ちだ。

同様に「ファッションにまつわるグラフィックデザイン」という仕事もしている身として「これは役得だよなぁ」と思えることがままあるのも事実。最新のアイテムを送ってもらったり、展示会でいち早く情報や商品を得る機会があったりすること。

これらの恩恵はファッションという文化に色んな面で影響を受け、生涯「オシャレさん」に憧れ続ける事になる思春期の自分に向けて「どうなの?ホントのオシャレさんって何なの?」と、氷点下の北風を浴びせて「オシャレ」の本質を勘違いしている自分の目を覚まさせてやりたい気持ちだ。

はたまた「映画にまつわるグラフィックデザイン」という分野にも少なからず関わる仕事をしてきたことで「え?いいんですか?」と眼福というのか心福というのか、要は至福の時と呼べるような機会に恵まれてきたこと。色んな作品の試写会に呼んでもらえるのもそうだし、好きな監督の新作映画のポスターやパンフレットのデザイン依頼を受けることなんてのは、何ならセックス以上にボクを興奮させる出来事だ。

これらの恩恵は映画という表現方法に色んな面で影響を受けて学ばせてもらった思春期の自分(ポルノ映画館に父親のジャケットを着て年齢詐称して通ったり、初デートで観る映画に「エレファントマン」を選んでフラれたりした)に「ウディ・アレンの新作映画のポスターデザインするんだぞ。覚悟はいいか?」と、ベッドの下にこっそりコレクションしているエロ本を全てデザインの参考書に置き換えてやりたい気持ちだ。

とはいえ、そのエロ本コレクションは後に自分のデザイン仕事や個人的創作活動の重要な資料やアイデアの源となって大活躍するんだから「捨てずに保管しときなさい」とアドバイスもしてやりたい気持ちだ。

そして今、「夢眠ねむにまつわるグラフィックデザイン」という文学的にも情緒的にもカルチャー的にも大いに共鳴できる仕事をしている立場として「これこそ『三文の得』だわ」と思える機会が多々ある。

夢眠河原往復書簡」という、ボクが言い出した「ねむちゃん人気に乗っかり企画」を快諾してくれたこと。そこで繰り広げられる夢眠ねむというキャラクターが紡ぐ本音を、時には広げ、時には深め、時には諫めることができる立場ということ。それに「まろやかな狂気」「まろやかな狂気2」、そして只今、著者が絶賛執筆中である「まろやかな狂気3」の「まろ狂」シリーズ全ての装丁一式を任せてもらっているというのはグラフィックデザイナーとしてこの上ない歓びであると断言しよう。

これらの恩恵は夢眠ねむというアイドルに興奮してきたアキバのオタクに限らず、シブヤ系を代表するような90年代以降のサブカル好きや、はたまた一部の特異な文学青年からも羨ましがられるような立ち位置なのではなかろうか?と、まさか数年後に先輩だったボーちゃんとアニのCDジャケットをデザインすることになるとは思ってもいなかった自分に、はたまた普通にチケットを買ってライブに行っていたフリッパーズギターの小沢健二の真性王子ぶりを真横で傍観することになるとは思ってもいなかった専門学校生時代の自分に「何でもいいから好きなことだけやっとけ。絶対に楽しいことになるから」と、桑沢洋子先生の銅像前で説いてやりたい気持ちだ。

その夢眠ねむにまつわる恩恵を改めて噛み締める出来事が今朝あった。

出社して開いたメールボックスの中に「差出人:夢眠ねむ」という一通があった。書き上がったばかりの「まろ狂3」の原稿が添付されていたのですぐに読んでみた。

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感じたことは、ただ一つ。

この人はなんて真っ直ぐなのだろう。

ボクは「自分に対して真っ直ぐ」であることに「ただ真っ直ぐなだけの人」が苦手である。何というか、眩しすぎる。

眩しいし、そしてどこか痛々しく感じてしまう、自分でも嫌になるくらいそういう心底ヒネくれた性格だ。


でも、この人の書く文章は「自分に真っ直ぐであるために乗り越えなきゃいけない壁があるなら、場合によってはユンボで壁くらい壊しますよ、そりゃ」という真っ直ぐさだ。

ジェンダーがどうのこうの云う今の時代には言いづらいが、要するに「男前」なのである。

この真っ直ぐさは一夜漬けじゃないな、と思わせる男前っぷりなのである。


この「真っ直ぐさ」は来年早々発売される(予定)の「まろやかな狂気3」で、是が非でも確認していただきたい。


こんな人と往復書簡でやり取りしていることがちょっと怖くなった。

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SOMETHING WRONG MAGAZINE (The Seventh Ghost Records) / TLGF
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