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『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』を読んで。台湾の事例も交えて。

なぜスウェーデンの人々は、若いうちからそれほど高い主権者意識をもっているのでしょうか。その謎を探るべく、私はスウェーデンの小学校でもちいられている社会科の教科書を手に取ってみました。そこに書かれている内容は、私にとって驚くべきものでした。

『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』より

このスウェーデンの社会科の教科書は、スウェーデン教育界における第一人者であるゴーラン・スバネリッド氏によって書かれたものです。

それを明治大学教授の鈴木賢治氏が翻訳し、更に鈴木教授のゼミ生(大学生)たちにそれを読ませ、彼らが自分たちが受けてきた日本の教育と比較ししていく内容になっています。



先ず、本書の冒頭に興味深い箇所がありました。

鈴木教授は毎年ゼミ生をスウェーデンに連れていき、現地の学生と交流の場を設けているそうです。

ある年、印象的なシーンがあったと。

日本人学生「スウェーデン人はなぜ選挙に行くの?」
スウェーデン人学生「え、政策や法律が変わったら、将来にわたってその影響を長く受けるのは若者じゃないか。むしろ何で日本の若者は選挙に行かないの?」

『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』より

日本人学生が質問したところ、スウェーデン人学生に逆に質問されたそうです。

これは私が15年間住んでいて、第二の故郷である台湾でも同じようなことが言えます。

歴史においても、また現在の隣国との関係や状況においても、『自由はいつもそこに自然に流れているものではなく、自分たちの手で守っていくもの』という意識が、台湾の特に若者から強く感じられます。


本書でも投票率について触れられていました。

2014年9月スウェーデン国政選挙 全体投票率 85.8%
               若年層投票率 81.3%
2014年12月日本衆議院議員選挙 全体投票率 52.7%
               若年層投票率 32.6%

『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』より

ちなみに、台湾で2020年1月に行われた大統領選挙は、投票率75.9%。


数字だけを見ると、「日本の若者は政治に関心がない」と結論付けられそうなのですが、本書では他の調査結果を出して「日本人が政治に関心が薄い」とは言えないと言っています。

では、この投票率や上で引用した選挙に対する意識の違いは、どこから来るのでしょうか。

鈴木教授によると、

このような意識の差は、目先の政治に対する関心などというレベルではなく、政治とは何か、社会とは何か、それは自分とどのようなかかわりをもつのかという、より根本的なレベルの認識が、日本とスウェーデンでは大きく異なることを示しています。極端に言ってしまえば、スウェーデンでは、とくに政治に関心をもっていなくても選挙には行くということです。

『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 日本の大学生は何を感じたのか』より


では、その根本的なレベルの認識の違いがどこで生じるのか。

鈴木教授はスウェーデンの小学校の社会科の教科書に目をつけたということなんですね。おもしろい!



本書で扱われているおもしろい項目を挙げてみます。

第一章社会
・私たちはお互いを必要としています

第二章メディア
・大ニュースとは何でしょうか
・なぜ、広告があるのでしょうか?
・隠れた広告
・批判的に資料を読むー何が正しいことなのでしょうか。

第三章個人と集団
・なぜ、私たちは一緒に暮らしているのでしょうか
・離婚すると、どうなるのでしょうか?
・いろいろな方法によるイジメ
・グループが機能しないとき

第四章経済
・お金が十分になかったときは
・私たちが買ったモノは環境に影響を与えます

第五章政治
・民主的なクラス旅行
・スウェーデンの政党は協力します

第六章法律と権利
・犯罪の結果
・一五歳未満の場合は、何が起こるのでしょうか?
・あなたの、そしてほかの子どもたちの権利



娘たちの小学校の社会の教科書と比べてみると、
日本の社会科は『仕組み』についての内容が多いような気がします。つまり答えがあるものです。

それに対し、スウェーデンの社会の教科書は、必ずしもはっきりとした答えがなくてもそれについて問い、考えさせている内容が多いです。

例えば、第四章経済のところで、このような問いがあります。

・本当にお金持ちの人は、まだ何か夢をもっているのでしょうか?
・本当に貧しい人は、どんな夢をもっていると思いますか?

これには明確な答えなんて存在しません。しかし、これらの問いが『経済』について深く考える入り口になりそうだと思いました。


上で挙げた教科書の項目の中には、日本の場合小学校では避けるべきものだと考えられるものも幾つかありそうです。

例えば、
・隠れた広告
・離婚すると、どうなるのでしょうか?
・お金が十分になかったときは
・一五歳未満の場合は、何が起こるのでしょうか?

本書の最後にこのようなことが書かれています。

日本では「現実的なもの、望ましくないものにはなるべく触れさせない」ということが保護であるのに対して、スウェーデンではそういったことを直視させながら、自分で自分の身を守る方法を身に着けさせることに主眼が置かれているように思います。その根底にあるのは、子どもを大人と同じ一つの人格として信頼しているという姿勢です。

うーん、なるほど。唸ってしまいます。

この辺りは、学校の社会の教科書というレベルの問題ではないですよね。それは、社会・家庭・学校が連携してこそなせること。

日本であれ台湾であれ、受験を意識している教育が家庭や学校で続く限り、かなり難しく思えます。

いやー、他人を知ることは自分を知ることですね。とても学びが多く、考えさせられました。

小6の長女が塾に行きたいと言って、先週、今週と体験授業に行っています。理想と現実とを行ったり来たりしている母(わたし)は、どのように娘の背中を押すべきか。


もう一晩寝てから考えます。

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