心臓バクバクの前と後
自分の年齢を過信する、というのは、何歳くらいから上のことを言うのだろう?自分より若い人が多い職環境にいて、比較的その若い世代よりに見られてきた私は、身体の変化に鈍感だったし、曲がりなりにも不調が加齢のせいだなんて思ってもみなかった。
2〜3ヶ月仕事から離れて専業主婦をした後、運良く採用された週5日勤務のパートに出た時だった。朝から自分や子どもの昼食を準備、それとは別の朝食を準備、急いで食べてから身支度と、慌ただしく動いていると、時々、心臓がバクバクした。駅へ向かう坂を、未だに電動の付いていない自転車を押しながら上る間も心臓はバクバクいったが、少し安静にすれば治まるのであまり気にしていなかった。
老親に付き合って病院を訪れた際、通路に設置された血圧計で血圧を測ると、183/95とでた。高血圧で通院している老親に付き添っていたから、183が高血圧だということはわかっていた。血圧いくつだった?という何気ない老親の問いに、正直には答えられず、大丈夫だったよ、と抽象的な返事をするしかなかった。
心臓がバクバクするのも血圧のせいだろうか?このまま放っておくとどうなるのだろう?高血圧で通院する老親のように、私も通院してなんらかの薬を服薬すくことになるのだろうか?今から持病で通院?この歳で?この歳って、私は‥‥‥
49歳だ。
49歳だ。49歳って何歳?いやいや、え?49歳?
毎年自分で自分の誕生日をしっかり祝ってきたし、親しい仲間同士お祝いのメッセージの交換もしている。49歳であることは承知していたはずだ。
しかし心はついていっていなかったらしい。42歳で働き始め約7年働いた職場ではいつまで経っても気持ちは42歳、辞める時にも究極が、「寿退社?」なんて言ってくれる人もいて(一生自慢します)、加齢は気から、とも言わんばかりにあまり年齢を意識しないようにしてきたのである。
それが急に49歳だということを突きつけられてしまった。バクバクの心臓をもって自覚させられてしまった。
これには中々の喪失感があった。私の40代、どこへ行った?仕事と子どもの進学と毎日の生活で手一杯で、健康以外にも何かを置いてけぼりにしてきてしまったものがあるのでは?アホのようにいつまでも(実は)38、9歳のような気で生きてしまって、40代には40代なりのやるべきことがあったはず。それをせずに、何より、それ相応の思慮もなく過ごしてしまったのは、もしや人生最大の失敗かも。
それからしばらくの間は、失われた10年を彷徨うように、数分間ボーッとしてしまうことがあった。
そんな落胆を尻目に、心臓バクバクは止んでくれなかった。高血圧対策にまずは生活習慣の見直しをするべき、と、38、9歳の気分で飲んでいたお酒を減らし、無駄に摂取していた糖分、脂肪分を減らした。
夕食時にビールを飲まない私に、上の子が、今日は飲まないの?と目ざとく言った。少し減らそうと思って、いい歳だし、と自重気味に言うと、そうだね、その方がいいんじゃん、と返ってきた。じゃあ代わりに、とビールをグラスに注ぐ上の子は社会人一年生、ソファに寝そべる下の子は大学一年生になった。ふと、私の40代の痕跡は、この子たちの中にあるかもしれない、と思った。いや、あるといいな。
ひとまず目標に、健康診断異常なしを目指して食生活をかえ、血圧を意識した生活(意識することが大事かと)をして2ヶ月後に生活習慣病健診へ。血圧は150後半くらいではあったものの、問診した女医はさらりと問題なしと言ってくださった。高血圧は気になるようなら受診したら、くらいのスタンス。この、あなた次第、みたいのが1番やる気にさせられる。心臓バクバクもあまり出なくなった。
これからは1年も失うことなく、地に足をつけ、実年齢よりちょっとだけマイナス相応でいられたらいいな、と(まだ)思っている。