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9-06「思い出のお肉」

連想ゲームふう作文企画「杣道(そまみち)」。 週替わりのリレー形式で文章を執筆します。

9周目の執筆ルールは以下のものです。

[1] 前の人の原稿からうけたインスピレーションで、[2]Loneliness,Solitude,Alone,Isolatedなどをキーワード・ヒントワードとして書く

また、レギュラーメンバーではない方にも、ゲストとして積極的にご参加いただくようになりました!(その場合のルールは「前の人からのインスピレーション」のみとなります)

【杣道に関して】https://note.com/somamichi_center
【前回までの杣道】

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今回のゲスト執筆者:まる

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今朝、大手美容整形外科のコールセンターの営業時間が始まったと同時に、東京の脂肪吸引で有名な先生のカウンセリング枠を予約した。「脂肪吸引をご希望ですね。ご希望のおひにちはございますか?」「いつでもいいので、なるべく早くで、予約とれる日っていつですか?」はやくこの醜態をどうにかしたい。
私は腰から太ももにかけてのラインがすごく太い。それが嫌でしょうがなかった。風俗のお客さんの「なにかスポーツやってた?」の質問も飽き飽きするほど聞いてきた。店で人気の女の子はみんな細くてかわいい。見た目を評価され続ける生活を続けていたから、昼の世界で出会った「その人」に太い脚が魅力的だと言われた時は、私の身体にも意味があったんだなあと思えて、本当にうれしかった。それまで私の身体を肯定的に見てくれていたのは、夜 の世界のお客さんだけだと思っていたから。
「その人」好みの私の太い脚には大きな価値があった。「その人」が私の脚に触るたびに、中に出すたびに、私は私の身体をあげることができていると、喜びを奥歯でかみしめていた。大好きだった。中に出したいって何回も言われた。職業柄ピルは飲んでたし、そうしたいと思われることが嬉しくて拒まなかった。セックスワーカーは仕事のセックスとプライベートのそれを分けるために、プライベートでは避妊具をつけないことはよくあることらしい。私も例に漏れない。
セックスした翌朝に、ふと「その人」との未来を想像したくなって聞いてみた。「でも、ピル飲んでるけど、もし妊娠したらどうする?」「僕の人生が終わるからやめて。僕は歴史に名を遺す職人になるんだ。だからここで君を妊娠させたら、全てを捨てて四国の方に行って漁師か畑仕事をするしかなくなる。ここで終わるわけにはいかない」こういうことを、スッと言うような人だった。正直引いた。今の仕事を辞めたら、畑仕事以外に道がないと思える想像力のなさにも引いた。
「妊娠しても僕ってことにしないで。お客さんのせいにして。お客さんからお金もらって」結局、自分の夢と私の健康を天秤にかけた時、自分の夢を優先するような男だった。
 「その人」とこのまま関係を続けても、私を愛してくれるわけではないということ、自分は性欲処理の道具でしかないということに気づく。しかも仕事とは違って「その人」のために「その人」と寝ても無料。安く買いたたかれていると感じる。ムカついてきた。大切にされている感覚がない。
だから、「その人」を忘れるために彼氏を作ることにした。
ただ「可愛い」とだけ言って、その場限りの時間しか買ってくれないお客さんと彼氏は違った。お金をたくさん使って愛を示してくれた。「私がお金目当てで付き合ってるよ。嫌じゃないの?」「好きな人ならどんな手を使ってでも手に入れたいと思うじゃん」そうやって言ってくれる誠実な彼氏を見ていたからかな。いつからか、お金だけが目当てじゃなくなっていった。
彼氏は私を大切にしてくれた。太ることが怖くて、過食嘔吐をしようとした時は、「太らないから大丈夫」となだめてとめてくれた。
売れるための整形をしようした時は、「必要ない」と言い切ってくれた。 「できれば風俗で働かないでほしい」とも言ってくれた。悩んだ末、整形した。それでも「可愛くなったね」と受け止めてくれた。
そうやって優しくされるのは不思議な感覚だった。不思議と言いつつも、なんだか照れくさくて、本当はすごくうれしかった。無責任に、私の外見だけを褒めて、「ゴムとっていい?」 て聞いてくるお客さんとか「その人」とかとは違った。
なにより、彼氏と付き合ってから、他人による見た目の評価をいちいち気にするはもうやめようと思えた。他人がどう思うかじゃなくて、自分がどうありたいかが大切なんだ、と。私は私。誰のものでもない。
私の身体は私のもの。そう思ったら、「その人」に肯定される必要のなくなった私の脚は、また醜悪なものへと変化した。自分の肉をそぎ落としたい。邪魔。ワンピースを着てもラインがきれいに出ない。ショートパンツをきれいに着こなせない。かつて愛でられていたことが逆に気持ちが悪い。
「俺は太ってないと思うけど。細くなりたいなら、自分がそうしたいならしたらいいよ。」
彼氏は、自分や他人がどう思うかではなくて、私がどう思うかを尊重してくれた。
だから、思い切って、私は私のための脂肪吸引の手術を受けることにした。手術台に乗ったら、多分「その人」が愛でてくれた脂肪はカニューレで吸われて、医療廃棄物として捨てられる。ごみとして。ごみだったんだ。ごみをとりのぞいてきれいになる。だから、さよなら、私のお肉。こんにちは、きれいになったわたし。

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