【用語】#2 えだそだ

え、だぁ? そ、だぁ? なんだぁ?

なんて、言いたくなるくらい、聞きなれない言葉。

枝粗朶。

『土中環境』の著者の高田宏臣さんがよく使われる言葉。

おそらく意味としては「枝・粗朶」という意味だと思う。なぜなら粗朶という言葉がそもそも「細い木の枝、また、それらを集めて束にしたもの」という意味があるので、枝粗朶という言葉は重複している。ただ、「えだそだ」という言葉は語呂が好きなので、僕も使っている。

枝粗朶を用意するのは地道な作業。

粗朶は日本の土木の中では重要な存在だ。特に護岸工事や川の治水に用いられてきた。(「護岸」というのは、洪水による侵食から川岸などを守る構造のこと。護岸の構造自体は、最古のもので弥生時代にまで遡るという。日本人が農業文化を育むとともに、利水・治水と向き合ってきたことが窺い知れる。)その中でも、明治時代にオランダの治水技術者とともに出来上がってきた粗朶を利用した治水技術が「粗朶沈床」だ。

オランダでは川底に粗朶を用いて水の流れを緩やかにし、水の流れで川底が抉られるのを防いでいた。日本の古来の工法は、松の杭などで水の流れを真っ向から弱めるような方法が取られていた。「西欧は自然環境を征服コントロールする」「日本は自然と対峙せずに調和する」という意識的刷り込みがある僕らには、粗朶の利用に関してはむしろその関係性が逆だったことに少し驚くかもしれない。

一本の枝ではどうにもならないが、それが複雑に絡み合うことで出来上がってくる軽やかだが堅牢な構造はとても美しい。

粗朶沈床の構造から学べることは多く、陸地で使えば粗朶柵になる。粗朶柵は、太い枝や杭を柱として土に打ち込み、その間に粗朶を編み込んでいく。竹で作る柵も似ている。

これは竹を割らずに無理やり絡ませてみた。曲げるのが大仕事。

粗朶を編む名人が自然界にいる。鳥だ。鳥の巣は見事に粗朶(というには細いか)が編み込まれており、大事な卵と雛を優しく包みながらも、空気と水分が循環する仕組みになっている。

そんな構造から、着想を得て、鳥の巣をアートとして作っている芸術家もいる。彼女の作品から多くのことが学べる。

「粗朶を編む」と考えると、枝や粗朶を触るときの解像度が上がる。枝は硬いけれど、その中でも感じる柔らかさやしなりに注目できるようになる。

こういう枝葉も絡ませていくと強い。

大きな丸太がない時も、石が手に入らない時も、枝粗朶を編み上げていけば必要な構造を作っていくことができる。

それが、えだそだ。