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前世2023

はじまり

2023年2月8日水曜日。ヨルシカのライブ「前世」に行ってきた。約2時間半、とても特別な時間だった。この日観たもの、聴いたものは絶対に忘れないし、絶対に忘れたくない。


ヨルシカ LIVE 2023「前世」セットリスト

開演前、ステージには百日紅と思われる木、ベンチ、小さな丸いテーブルとイスがあった。小鳥のさえずり、波の音が聞こえる。会場内は霧で満たされていた。ヨルシカのライブであることを実感した。
午前中の学校から急いで家に帰宅し、軽くパンを食べてまた急いで家を出たため私のおなかは限界を迎えていた。会場の外には売店。そんな丁度よさそうなお店を見つけてしまったのなら食べるという選択肢しかなかった。チーズカレーパンか牛まんの二択で迷った挙句に選んだのは牛まん。とても美味しかった。食べたり話したりしているうちに気づけば開演時間になる。

朗読 緑道

19時すぎ、会場の照明が消えた。ここから終演まで私の肩はすくんだままなのだが、それぐらいに緊張していた。赤い靴を履いたn-bunaさんがステージに入る。そしてベンチに座る。朗読が始まる。声が優しい、優しすぎる。聞き始めは気づかなかったが、ライブ終盤どんどん引き込まれている自分がいた。朗読の中で男性のセリフと女性のセリフがあるのだが、声色やら話し方を変えて使い分けているのもかなり好きだ。日常感があり、今までのポエトリーリーディングとはまた少し違っていてまさしく〝朗読〟だった。そしてバンドメンバーがステージに入る。壮大な音楽と共に赤い服を身に纏ったsuisさんがステージに入った。

1.負け犬にアンコールはいらない

開演前、一曲目は何を歌うかをお友達と話していた。そのなかで、「負け犬が一曲目だったらマラソンの走り出しで50m走してるようなもんだよ~!飛ばしすぎ~」なんて呑気に話していたら、なんと一曲目は負け犬にアンコールはいらないだった。マラソンの走り出しで50m走をしていた!ポップで明るい映像とともに犬の遠吠えが聞こえ、楽器がにぎやかに鳴る。一曲目が負け犬だったことの驚きと嬉しさで、私の心臓も走った後のような鼓動を打っていた。サビでの力強いsuisさんの歌声は一曲目にとてもふさわしいものだったように感じる。数年前のヨルシカの曲を今のヨルシカで聴けることが本当に嬉しかった。あとこんなにアップテンポな曲を客席の全員が静かに座って見ている光景がすこし可笑しかった(いい意味で)。

2.言って。

言って。のsuisさんはとにかくかわいい。歌声もリズムの取り方も全部かわいい。こんなにかわいいのに「もっとちゃんと言ってよ」から悲しそうに、苦しそうに歌うのがずるい。生で聴くと歌詞の言葉の重さがダイレクトに伝わってしまうから大変だった。ギターがよく聞こえて楽しかった。

朗読 夜鷹

n-bunaさんの朗読。口から出る言葉一つ一つが美しい。綺麗。映像とともに情景がすっと頭に入ってくる。

3.靴の花火

朗読で「よだか」という単語を聞いてしまったのでもう靴の花火しかないと思った。靴の花火も聴けてしまうなんて。サビでの壮大な音に対して、映像はかわいらしい感じで、綺麗な夕日を鳥が飛んでいたものだった気がする。壮大さと可愛さが絶妙に合っていてステージに吸い込まれそうでぞっとした。

4.ヒッチコック

なぜかはわからないけど「詭弁」という言葉が強く頭に残っている。ヒッチコックの最後のアレンジがとても好き。みんな楽しそうで私まで楽しくなった。

5.ただ君に晴れ

映像は実写だった。女性が緑の中にいる映像。ただ君に晴れMVの制服を着たあの子が大人になったのかもしれないと、靴を足で投げるシーンを見て感じた。この曲の爽やかさが映像にも出ていて本当に良かった。手拍子をsuisさんがやっていて可愛いかった。

朗読 虫、花

朗読。「リードは出来ないけど。」なんてそんなことも言うのか!と驚いた。映像が綺麗だった。

6.ブレーメン

さあ次は何を歌うか心待ちにしていたら聴いたことのあるインストが流れる。雰囲気はブレーメン。でも私は、最近の曲をこのライブで歌うことはないと思っていたのでなんだろう?と思っていた。そしたら本当にブレーメンだった。ただ君に晴れの後にブレーメンが聴ける世界線が存在するのかと驚いた。suisさんの歌い出しが愉快で可愛い。suisさんを先頭に私たちがどこかへ歩いていけるようなテンポ感が良い。suisさんの「あっはっはっは」を生で聴いてしまった。あとパドゥコーラスをn-bunaさんだけでなく下鶴さんやキタニと3人でやっていたのは驚いた。とても印象的だった。あと確かブレーメンだったと思うが、サビ前で下鶴さんとn-bunaさんが目を合わせて楽しそうに演奏していたのが最高だった。嬉しくて口角が上がってしまった。

7.雨とカプチーノ

そして流れるようなマサックさんのドラムで雨とカプチーノが演奏される。本当にこの曲はベース、ギターが最高である。あまりにも好きすぎる。特に2番Aメロのベース。私はスーパーキタニタツヤタイムと名付けているのだが、おしゃれでよく映える。キタニの弾き方も魅力的だ。そしてラスサビ前の「さぁ揺蕩うように雨流れ 僕らに嵐す花に溺れ」のギターもかなり良い。CDで聴くとあんまり目立たないのだが、ライブで聴くとよく聴こえるから嬉しい。雨とカプチーノはぜひ毎回のライブでやってほしい。

8.チノカテ

はっちゃんさんの綺麗なピアノソロからのチノカテ。この曲の雰囲気にぴったりな、シンプルで生活感あふれる映像が流れる。ギターがおしゃれ。ピアノやsuisさんの歌い方が孤独をまとっていてすこし寂しい。キタニと下鶴さんのコーラスにまた驚いてしまった。良かった。

照明が消え、ステージにカーテンが下りる。今まではステージ後ろに映し出されていた映像がそのカーテンに映る。私が座っていた席がステージの横だったため、カーテンの隙間からステージの模様替えをしている様子がわかった。

朗読 魚

朗読。雨が降っていた。仄暗い。二人は一つの傘を共有する。「私」に傘を向ける「彼」の優しさが心にしみる。そして二人は家へ帰る。カーテンが上がった。

9.嘘月

模様替えされたステージは「彼」の家になっていた。嘘月を歌うsuisさん。しかもストリングスも加わっていた。泣いてしまった。嘘月を歌うなんてずるいと思った。「彼」と「私」は別れてしまったけど同じ家に帰れたのに。なんでこんなに切ないのかわからなかった。

10.花に亡霊

嘘月の衝撃で記憶がおぼろげすぎる花に亡霊。照明が花になっていてとても綺麗だった。ギターソロとピアノソロが好き。

朗読 桜

狂い咲きの話。レジャー気分で狂い咲き見に行くの最高に可愛い。

11.思想犯

まさかここで思想犯が来るとは思わなかった。私はオンラインライブ前世の思想犯(strings ver.)が大好きなので、生で聴ける日が来るなんてもう嬉しくて仕方なかった。オンラインライブでははっちゃんさんのピアノから入っていたが、今回は下鶴さんのアコギからだった。とてもおしゃれな入りだった。suisさんのライブでの「茜」の歌い方がかなり好き。CDとも少し違う感じなんだけどどう伝えればいいのかな。悲壮感があると言ったらいいかな。あともうひとつ好きなのがラスサビでストリングスとハモるところ。ハモるという表現はきっと正しくはないのだが、寂しさを加速させている感じがしてとても好き。「君の言葉が呑みたい~その時を待ちながら」はオンラインライブではスローテンポになっていたが、今回はテンポを落とさずに演奏された。

12.冬眠

そして私の大好きな、大好きなインストが流れる。それを初めて聴いたのはオンラインライブ。下鶴さんのアコギから始まり楽器がどんどん増えてsuisさんのコーラスも入るインスト。
思想犯の後、そのギターの1音目を聞いた瞬間冬眠がくるとわかった。座っていなかったら膝から崩れ落ちていたと思う。DVDで何度も何度も再生した冬眠を今聴くことができるとわかって涙が止まらなかった。
オンラインライブではアコギのみで何節か弾いていたが、今回は割と最初のほうからドラムやギター、ピアニカが加わった。suisさんのコーラスと2番サビ前のn-bunaさんのギターが入るオンラインライブのアレンジはなかった。すこし聴きたかったなんて贅沢なことを考えてしまった。
この曲は音が美しい。ストリングスが加わるとその美しさが際立つから好き。こんなにも冬の空気感をまとった曲があるだろうか。ドラムが特に好きだ。シンバルがなるたびに雪の情景が脳内で一気に広がる。歌詞も綺麗で好きだ。「雲に乗って 風に乗って」「水になって 花になって」今ならこの歌詞の意味がよく理解できる。本当にきれいな歌。ここにsuisさんのあの透明感のある声がのるわけだから、本当に最高だった。最後「the end」の文字に、もう終わり!?とそわそわさせられてしまった。冬眠を聴くことができて本当によかった。ありがとう。

朗読 青年

月光を連想せずにはいられない朗読だった。スウェーデン!それだよそれ!と思ったのは私だけではないはず。

13.詩書きとコーヒー

ここで詩書きとコーヒー。選曲に驚かされてばっかり。suisさんの「わかんないよ」がまだ耳に残ってる。n-bunaさんのハモリも良かった。はっちゃんさんのヘドバンは気持ちがよかった。負け犬でもヘドバンをやってくれたけど、私の盛り上がる気持ちを代弁してくれているようでありがたい。

14.声

このライブで声を聴いて歌詞の意味がやっと分かった気がした。下鶴さんとキタニの高音ハモリにまたまた驚いた。温かくてよかった。前回の月光再演でもあった、suisさんが天井から照らされる演出も良かった。ラスサビ前の「わからないから~眠っている」のところで天井から円錐状のライトでsuisさんが照らされ、ステージにはスモークが。まるで雲に乗っているようで、とても幻想的だった。

15.だから僕は音楽を辞めた

suisさんの力強い歌声、n-bunaさんのハモリに毎度圧倒されてしまう。照明の演出が印象的だった。ラスサビ直前のピアノが低音で大きく鳴るところ、ここで赤いライトが「お前たちのせいだ」と言わんばかりに客席を照らす。そのあとの「間違ってるんだよ わかってるんだ あんたら人間も」という言葉に心臓をぐっとつかまれた。

朗読 前世

「おかわりいる?」なんて可愛い会話だなあと思う反面、「彼」が吐くため息が怖くて、私は落ち着かなかった。なんだか「彼」と「私」の会話が嚙み合っていないような気がして胸がざわめいた。そうして「彼」はこう言った。
「俺は犬相手に何を言ってるんだろうな。」
この言葉を聞いた瞬間訳が分からなくて放心状態になってしまった。「私」は犬だった。死んで犬に生まれ変わった。その事実がわかったとき全ての点と点が線でつながった。なんて切ないんだろうと思った。嘘月で感じた切なさはきっとこれだったのかもしれない。こんなに近くにいるのに「私」はもういない存在で、どんなに言葉をかけても人間の言葉として「彼」に届くことはもうない。大事だったのに。幸せだったのに。悲しい。苦しい。

16.左右盲

そんな情緒で始まる左右盲。「彼」もこうやって「私」のことを思い出していたのかななんて浸っていたらサビのハモリがn-bunaさんではなくキタニであることに気が付いた。驚きすぎて今までの記憶を失うかと思った。ちゃんと確認したくてn-bunaさんを見る。ハモっているはずのところで時折下を向いたりしながらギターを弾いていた。キタ二は常にマイクに向いている角度でベースを弾いていたからもう間違いなかった。suisさんとキタニが一緒に歌っているという事実にいろんな感情が渦巻いて、この瞬間だけは前世という物語からすこし離れたところにいたと思う。ちゃんと集中して。

17.春泥棒

狂い咲きの話をしていたからとにかく苦しかった。この文章を書いている今、盗作おじさんの生まれ変わりがこの「彼」なのかどうかは考えられていないが、「彼」にも「私」にも前世があり、生まれ変わって今があるというこの物語の大きさを改めて実感した。「今日も会いに行く」から、各楽器ソロがそれぞれアレンジをして演奏していて、とても素敵だった。最後、「愛を歌えば言葉足らず」で照明が消えた。暗い会場内に天井から何かが降り注いでいるのがわかった。そしてサビと同時に花が舞う。一階席から見ていたのでその時は桜が舞っていると思っていたが、どうやら百日紅らしい。なんて素敵な演出なんだと感動した。本当に綺麗だった。この曲を最後にサポートメンバーのマサックさん、下鶴さん、キタニ、はっちゃんさんはステージから降りる。n-bunaさんはベンチへ、suisさんはイスへ座り朗読が始まった。

朗読 ベランダ

「リードじゃなくてリードか。」のくだり面白くてすこし笑うことができたのにそんなのは一瞬で、切なさが私を襲う。「私」の考えていること、思っていることが全部「彼」に伝わればいいのに。「一緒に暮らそうか。」と言うn-bunaさんの声が優しくて泣いてしまった。

そうして朗読が終わり、n-bunaさんとsuisさんは立ち上がり客席へお辞儀をした。そしてそれぞれ反対の方向へステージを後にしていった。

まとめ

今回のライブは小説を読んでいるような感覚に近かった。ポエトリーではなく朗読。朗読の中にセリフがたくさん散りばめられていてn-bunaさんの読み方が男女で使い分けられていたので情景が流れるように頭に入った。「前世。前世。前世。」が特に好き。何回も言うがn-bunaさんの読み方がずっと優しくて、「彼」や「私」に感情移入してしまいとても切なくなった。
suisさんの歌声は特別だ。CDでもかなり良いのにライブで聴くとsuisさんが歌う言葉がダイレクトに伝わる。歌詞の意味がよくわかる。
そして映像。今回席がステージの横だったのでスクリーンの半分ぐらいしかみることができなかった。だからひたすらステージ集中型で観ていたのだが、それでもやっぱりまだ記憶に残っている映像もある。最初の可愛いらしいポップなアニメーションから、女性が緑の中で舞う実写映像とどれも素敵だった。その中で特に私は朗読の映像が一番好きだ。「私」が「彼」に会いに行くところや「彼」の家で過ごす二人の時間をそのまま写していて、この物語に入り込めた。「彼」と「私」の気持ちをとても近くで感じられた気がする。情景がずっと頭に入ったのはこの素敵な映像のおかげでもある。ありがとう。
suisさんはとにかく可愛かった。今回は青い髪でバレッタのようなものがついていた。そして赤いワンピースを着ていた。あと白いブーツ。嘘月から、靴はそのまま、洋服は白いワンピースに変わっていた。n-bunaさんは赤い靴を履いていた。
一番印象的だったのはコーラスやハモリ。特に左右盲のハモリをキタニがやっていたこと。終演後一緒にライブに行ったお友達に一番に話したし、一番にツイートした。初めて左右盲を聴いたときいつもよりハモリが太いし強いしで新しいな!と思っていたがまさかキタニがsuisさんの後ろで歌っていたなんて。ありがとうキタニタツヤ。これだけで生きていける。他にもチノカテや声のコーラスも最高だった。ありがとう。
最初は男女の別れの話だと思っていたこの物語。まさか「私」が犬だとは思わなかった。犬だったとわかってから全部が悲しかった。「彼」の、大切な人を失ってしまった喪失感やもう会うことができない絶望感、「私」の、言葉で彼に思いを伝えることができないもどかしさ、全部苦しいし辛かった。「私」はもういなくなってしまったが犬に生まれ変わり二人はまた同じ家で暮らすことになる。生まれ変わりの記憶がある「彼」が、「私」の生まれ変わりを想像してくれたらいいななんて思ったり。
セットリストを見て改めて私はとんでもないものを観たんだと実感する。私がずっと聴きたかった、「夏草が邪魔をする」「負け犬にアンコールはいらない」のアルバムの曲を歌ってくれてとても嬉しかった。
前世ライブに行けて本当に良かった。特別な、素敵な時間をありがとうございました。

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