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奇術レッドリスト

奇術師フーディーニは悩んでいた。

俺を知らない?

これだから無知な東洋人は困る。

後世には“アメリカ歴代最高の奇術師”で通ってるんだぞ。本当に知らないなら今お前がこれを読んでるその板で調べればいい。俺からしたらその板の方が奇術だがね。

そんなことはさておき、俺は今悩んでいるのだ。

奇術師として各地のサーカスや劇場を巡って十数年、今や俺は”脱出王“の異名を持つスーパースターだ。

だが今はそのビッグネームが重荷なっている。

それはなぜか。

俺の芸歴ももう随分になりもう若くない。

青年の頃はミステリアスな雰囲気のスマートな麗人なんていかにもなマジシャンで若い女にも人気があった。

もう少し年老いてシワと貫禄が出てこようものなら熟練の奇術を操る隠遁者なんて雰囲気も出せるだろう。

だが今の中年の俺はどうだシルクハットからハトを出したとてユニークな紳士としか映らない。

脱出王の名を期待して訪れた人々はガッカリして帰ってしまうだろう。

何か秘策は、革新的な芸はないだろうか。

悩みに悩み抜いた俺はある日とうとう最高の奇術を思いついたのだ。

──そうだ、ハトを消そう。

ハトを出すのが陳腐になったのであればその逆をすれば良い。消すならなるべく沢山が良いだろう俺はアメリカのスーパースターだ落ちぶれてたまるものか。

かくして、その日からハト消し奇術の仕込みが始まった。

俺は何年もかけて興行の合間にアメリカを駆け回り大陸中にタネを仕掛けて回った。

気がつけば俺は老人になっていた。だがハト消し奇術だけはなんとしても成功させて見せるという意地があった。この前代未聞の手品を成功させることが俺の使命なのだ。

そして数年の後それは達成された。

フーディーニが巧妙に張り巡らせた仕掛けは長い時間をかけて少しずつ動いていていたのだ。

しかし、その奇術がフーディーニのものであると誰一人気がつかなかった。

だが、フーディーニもそれで良かった。誰もタネに気がつかないからこそ奇術なのだ。

かくして、アメリカに50億羽いたリョコウバトは絶滅し、老齢のフーディーニはその後満足そうに息を引き取った。
















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