家庭的シンギュラリティ2
「おい、スズキ!遅いじゃないか。契約は取れたのか」
「すみません、契約は取れませんでした…」
「全く、お前には営業マンとしての情熱が足りないのだ」
またクソ上司の説教が始まったが今日の俺には上司の言葉もまるで届かない。
俺の頭は新型冷蔵庫のことでいっぱいだった。
今しがたも営業と称して電気屋に今日発売する新型冷蔵庫の下見に行ってきた所だ。くだらない仕事に情熱は注げない。誰も見ていないところではとことんサボる事にしている。その分効率的に趣味に情熱を注ぐことができる。
俺はいわゆる家電マニアだった。
家電は日々進化し続ける。
何年か前に自動お掃除ロボットが流行ったと思ったら今度は炊飯器が米を研ぐようになって洗濯機が洗濯物を畳み始めた。
そして今日、自律思考AI内蔵の最新冷蔵庫が家に届くのだ。
俺は定時になったことを確認すると上司の目を盗み高速炊飯モードの電気ジャーが如く素早く退勤し、帰路についた。
家で冷蔵庫を受け取り、早速設置して使ってみるとする。
新しい家電を買った際は説明書もしっかり読み込むのが俺流の楽しみ方だ。
「どれどれ、『センサーによる検知システムとAIによる自律思考によって常に最適で効率的な温度を保ちます』か。早速試してみよう」
私は適当に買ってきた食材を冷蔵庫に入れ始めた。アイスクリームに野菜に鮮魚にヨーグルト、ものは試しと次々と詰め込む。
「冷凍庫や野菜室に分別しなくて済むのは便利だな。センサーで食材ごとに集中して温度を分けてくれるとは」
「それにAIの自立思考で時間帯によっての調整もしてくれて電気代も抑えられそうだ」
それから、その日は飲み物を取り出すために度々冷蔵庫を開けてみたが問題なく冷やしているようで初期不良の心配もなさそうだった。
しかし翌朝、冷蔵庫を開けるとアイスは溶けて鮮魚はいたんでしまっていた。
「や、これはどうしたことか。AIが勝手に調節してくれるどころかまるで冷やしていないじゃないか」
すると俺の声に気づいたのか慌てて冷蔵庫が冷え始めた。
「なるほど、サボっていやがったのか。自立思考による効率化とはよく言ったモノだな。」
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