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なぞなぞ星人

なぞなぞ星人が乗ったUFOは東京上空を亜光速で旋回した後、スカイツリーの真上でぴたりと止まった。

なぜ彼がなぞなぞ星人と呼ばれているかいうと至極単純な事であり、ただ彼がそう名乗ったからであった。亜光速で飛び回るのだから日本語で話そうと何ら不思議ではない。

また、彼は名乗ると同時に一つの要求を我々に突き付けた。

「私はなぞなぞ星人だ。これより毎日一題、君たちになぞなぞを与える。その日のうちに答えることが出来なければ、あるいは不正解となればニッポンはなぞなぞ星の植民地にしてしまうぞ」

人々は青ざめてんやわんやの大騒ぎ。だけどなぞなぞ星人は待ってくれない。

「では第一問、下は大火事、上は洪水なーんだ?」

人々に慌てている暇などなかった。ただちに政府緊急の用命により各分野の専門家や高名な学者たちが集められ、なぞなぞ対策チームが結成された。チームは額を突っつき合わせて議論を交わした。

「これはマントルと海を表していて地球を指すのではないか」

「比喩を用いた宇宙人の宣戦布告とも取れます」

「彼らの星の文化かもしれない」

「いやいやこれは暗号に違いない」

チームの意見はぶつかりあい、まとまらず、とうとう日は沈もうとしていた。

そんな折、厳格な警備体制が取られたスカイツリーにて、1人の男の子がマスコミと野次馬の群れから飛び出した。

警備員が男の子を取り押さえようとした刹那。

「なぞなぞ星人さん。答えはお風呂だよ!」

男の子のが叫んだ。

あまりにも突然のことであり人々は呆気にとられ時が止まったかのように思えた。

テレビ中継を眺めていた対策チームの連中もコーヒーカップに書類に手に持っていた物を床に落として口をあんぐりと開けてマネキンのように静止した。

誰もがもうお終いだと思い。なぞなぞ星人の乗るなぞなぞUFOに目を移した。

なにゆえその乗り物がなぞなぞUFOと看破できたのかというと至極単純な事であり、ただUFOにそう書いてあったのだ。しかし、今はそれどころではない。

なぞなぞ星人が口を開くのを人々は息を呑んで見守った。

「…」

「…」

「正解…!」

「ではまた明日!」

人々は呆気に取られた。本日2度目である。対策チームでは淹れ直したコーヒーと拾い上げた書類が床に散らばった。

この状況を救ったのは子供の柔軟な発想だったのだ。

翌日もなぞなぞ星人が現れ第二問を出していった。

「ひっくり返ると軽くなる動物ってなーんだ」

政府はすぐに緊急の用命を下した。しかし、昨日とは異なり集められたのは様々な年代の子供たちだった。

子供たちは額を寄せて相談事を始めた。そして、答えがまとまると代表の女の子が一人スカイツリーの前に歩み出た。

「答えはイルカさんだよ!」

「…正解だ!」

かくして、三日目も四日目もその方法が取られることとなった。

そして、一週間が、さらに一ヶ月が経った。子供たちはもはやなぞなぞ星人のなぞなぞを毎日の楽しみとしていた。しかし、大人たちは面白くない。子どもだけに任せるのは毎回不安なことこの上ないし、何より世界の危機に瀕しているこの状況にまるで大人の立つ瀬がない。

そこで大人たちはより多くの子供がなぞなぞに挑戦し、なおかつさらなる知識を身に付けることができるよう教育の見直しを開始した。

すべての家庭に教育の経済的支援が行われることとなり、子供たちがより一層勉強に取り組むように小学校、中学校も全て受験による入学に変更した。

また、上位の学校の生徒を持つ家庭には様々な特権が与えられることとなり、英才教育の時代が到来した。

日本のGDPはメキメキと上がり若い世代に次々と誕生するエリート達。

そしてとうとうなぞなぞに答えることのできる自由奔放な子供はいなくなった。

「では第1800問、冷蔵庫のなかにいる動物なーんだ?」

「冷蔵庫の中には約1万3千種の雑菌がいると言われており、よって答えは…」

「現在、世界最大の冷蔵庫はイギリス王立研究所にあり、そこには古代恐竜の冷凍個体が…」

エリート達が我先にとそれぞれの見解をなぞなぞ星人に提案する。

「残念、ハズレだ!正解はゾウ。今日よりニッポンはなぞなぞ星の植民地だ!」

瞬く間になぞなぞ星のなぞなぞ兵器によって日本は制圧。

「なぞなぞを出すだけで勝手に競争を生き抜いた根性のあるエリートが育ってそれを奴隷にできるんだ。なんて効率的な植民計画だろう。ニッポンを足がかりに次は救急で119に電話する時に出てくる場所を植民地にしてやるぞ、どーこだ?」

だが、そのなぞなぞを解明し次なる標的を看破できる者はもはや誰もいなかった。



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