電池売りの少女
クリスマスの夜、その日はひどく寒く雪も降っていました。この身を刺すような冷たい大気の中を一人の哀れな少女が道を歩いておりました。
「電池はいらんかねー、電池はいらんかねー」
手袋も頭巾も被らず、電池がいっぱいに入った籠を手に下げ、道をゆく人々に声をかけています。
「そこのお父さん!プレゼントのおもちゃに電池は入っていますか?封を開けてラジコンが動かなかったらお子様も興醒めですよ!」
「奥さん!クリスマス飾りの電源は足りていますか!」
しかし、一向に売れる様子はありません。
「そこのカップルさん!携帯の充電は大丈夫ですか?モバイルバッテリーもありますよ!」
それでも少女は必死に声をかけ続けます。しだいに寒さのせいか少女の頬は赤く、指先は青白くなっていきました。声もだんだんと小さくなり、少女の生気は失われていきました。
少女はトボトボと歩き続けついには家と家の間の路地にしゃがみこんでしまいました。
すると、もたれかかった壁の向こうから賑やかで楽しそうな声が聞こえます。少女が窓から覗き込むと幸せそうな家族がクリスマスのごちそうを囲んで暖かい部屋で団欒を楽しんでいます。
「私も暖かで明るい部屋で過ごしたかった・・・でももうダメ、とても疲れてしまったわ」
少女は力が抜けたのか倒れ込んでしまいました。
「ああ星が綺麗だわ・・・もう寒さも感じない。一つだけ私ために使ってしまいましょう」
そう言うと少女は最後の力を振り絞るように売り物の電池の封を切り、うなじのカートリッジのカバーを開けて古い電池を取り出します。
震える手で新しい電池をカートリッジにおさめると少女はすっくと立ち上がり再び雪のふりしきる街道へ飛び出しました。
「電池はいらんかねー!電池はいらんかねー!」
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