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『HIBIKILLA / KillerTune』公式ライナーノーツ

ベテラン・レゲエアーティスト『HIBIKILLA』さん6枚目のアルバムとなる『KillerTune』がリリースされました。「今回ライナーノーツはネットで誰でも読めるようにしたい!」という本人の意向があり、僭越ながらライターの更新しているnoteにて全文掲載させていただきます。皆さまの音楽体験の一助になれば幸いです。




HIBIKILLAの12年ぶりのNEWアルバムの解説文執筆を依頼されたのだが正直困り果てている。
何てたってアーティストは業界きっての知性派として知られる人物。20年以上のキャリアを誇り、今もって孤高の存在感を放つ大ベテランだ。
久々のアルバムでもあるしこりゃヘタなものは出せない。出来栄えがあまり良くなかったら“お前はもう死んでいるぅ!”と、某・昭和の漫画の如く「百裂拳」を叩き込まれるんじゃないか? そう思うと何とも筆が進まなくなってしまう。

けれどそんな悠長に構えてるわけにも行かない。うかうかしてたらもう〆切は明日だ。俺はなんでいつもこうなんだ。こりゃとっと書き切ってしまわないと、マジで百裂拳を叩き込まれてしまう。そんな「最悪ノ事態」だけは何としてでも避けねば。
よし、やるぞ。

しかし……あーだーこーだ言い訳から入ったがこう考えると嬉しいものである。何せ“HIBIKILLA”といえば俺たちの世代では知らぬ人はいない人物。彼と初めて会ったのはいつになるだろうか? あれは確かぼくが22か3の頃。都内まで遊びに行ったときHIGH LIGHTサウンドのSUGAR SHINの車に彼が乗り込んできて“やべぇヒビキラーだ! ヒビキラーが来た!”と興奮したのを今も思い出す。後部座席に座った彼には緊張して何ひとつ喋れなかったし、本人も覚えてはいないだろうがまさかそれから20年近い月日が流れて、今こうして彼の作品に寄せる解説を書いているとは何とも不思議な気分である。片隅ではあるが永年「この世界」に居ると面白いこともあるものだ。
よし、やるぞ! やるぞ!

本アルバムの主人公HIBIKILLAは1980年北海道生まれ。立教大学進学を機に上京し、以来都内を拠点に音楽活動を継続。
上京して間もなく池袋マダムカラスにて伝説のダンス『JEEP』を主催(ちなみにJEEPはあのKEN-Uが初めてマイクを握ったイベントでもある)。発砲事件(!!)など様々なトラブルに見舞われながらも約三年に渡り継続し、同世代のラガマフィンたちと「朝5時の太陽」に照らされながら地下シーンで徐々にその名を広めていく。
2002年にはcutting edgeよりリリースされたコンピレーション・アルバム『RODEO CAAN DONE』にTONTO MANとの『LOVING』で参加、自身初のメジャー仕事となる。
時を同じくしてMIGHTY CROWNが発行していた伝説のフリーペーパー『Strive』に寄稿をはじめ、当初は単発で終わるはずが内容の面白さが評判を呼び、最終的には『ヒビキラーのゲンキデスカー!』として連載枠も獲得。理知的でありながらけして長いものには巻かれないその唯一無二のキャラクターが広く認知されるきっかけとなった(筆者もこの連載でHIBIKILLAを知ったクチである)。

2006年にはポニーキャニオンより待望のメジャーデビューアルバム『No Problem』をリリース。

その後も勢いはとどまることを知らず、日本語レゲエの名門レーベル・ドクプロでの活動や、Triga Finga(親指Head)との伝説のクラッシュなどを経て00年代末にはシーンにおける地位を不動のものに。
2011年には独立レーベルI-Note Recordsを設立、同年発売のアルバム『FREEDOM_BLUES』が『ミュージック・マガジン』誌年間ベストアルバム・日本レゲエ部門1位に選出される。

その後、自身の結婚・育児によりしばらくシーンから離れていた時期もあったものの、今もなおマイクを握り、レーベルを切り盛りし、このゲームを継続し続けている!!

……以上、なんだか“伝説”という形容詞がやたら多くなってしまったが、それもこれもアーティストが(このハードなゲームの中で)どれだけ“成し得てきたもの”が多いかの証左なので、ご理解願いたい。
彼は他ジャンルのアーティストとの共作も多く過去にタッグを組んできたアーティストの中には、あの「ZEEBRA」や「ダースレイダー」などLEGEND的なラッパーも。本アルバムには「DABO」との楽曲も収録されている。
本物は本物を知る。
そんなLEGENDたちがHIBIKILLAのあの“声”を必要としたということは彼もまた「レゲエのLEGEND」として認められている、ということではないだろうか。
「ヤーマン」!!

以上がアーティストの簡単な紹介である。
それでは楽曲紹介へと移ろう。

1. Neuromancer
タイトルになっている『Neuromancer』はウィリアム・ギブスンが書いたサイバーパンクSF小説。AIの世界を予見している。歌詞では“死んでも生き返る=再生と曲を再生する”を掛けている。Reverse(巻き戻し)とRebirth(生まれ変わる)で、英語でもダブルミーニング。ちなみにリリックに登場する“Bambu”とはHIBIKILLAの盟友であり、10年ほど前に帰らぬ人となった(※前作『FREEDOM_BLUES』では『Inna Height』に客演している)。

2. Risin' To The Top (feat. Laya)
R&BシンガーLayaをfeat.し、男女の情熱的な駆け引きを描写した一曲。Afrobeats調のRiddim Trackを制作したのはレゲエ・アーティスト“MION”としても活動する仙台のYOUNG BEATS INSTRUMENTAL。

3. Jump
2分ほどで短く感じるがいかにもレゲエらしいBOAST TUNE。リリックに数々の名作漫画のタイトルや名フレーズを入れ込むあたりがいかにも彼らしい。

4. WAGMI
2022年に発表された楽曲だが、ナイジェリアのプロデューサー・Eastbirdが制作したこの曲のRiddim Trackは翌23年に『Byron Messia / Talibans』のトラックにも使用され(※ダンスホール・レゲエには同じトラックを使用して複数のアーティストが曲を制作する、というカルチャーが存在する)、『Talibans』はこの年一、二を争うヒット曲に。公式Remixも制作され、現在アフロスイングの世界的スター・Burna Boyもこのオケに乗って歌っている(!!)。げに恐ろしき先見の妙。HIBIKILLAというアーティストの嗅覚がいかに鋭いかという紛れもない証左だ。

5. Yohaku & Sentence(feat. kota)
タイトル通り“間”を生かした浮遊感あふれるTUNE。feat.されてるkotaのソウルフルな歌唱がクールな楽曲を一層際立てている。本アルバムからの先行シングルでもある(※9/29リリース予定)。

6. Wha Gwaan Midnight(feat. Tach-B and Zukie)
2020年度Audiusレゲエ部門1位獲得曲。客演で参加しているのは長野出身の実力派DeeJay・Tach-B。重ねられているクラップ音は近年『Nicki Minaj / Red Ruby Da Sleeze』などへのサンプリングでリバイバルした00年代の大名作リディム『Diwali』からの引用。

7. End of Summer Interlude
本作では三作品を手がけている大阪の気鋭のトラックメイカー・Toyopita Whichが制作。氏は自身制作の「7.」「9.」のマスタリングエンジニアでもある(※それ以外はすべてHiroshi Shiota)。ちなみにこちらも上物は『Diwali』からのサンプリング。

8. Luna(Space Opera Remix)
前曲に続き、こちらもToyopita Whichが制作。“原曲を超えた!”と噂の流麗なRemixバージョン。油断すLUNA!

9. Slo Down (CHILLOUT Remix)
Lo-Fi HIP HOP調の一曲は本アルバムにおけるToyopita Which三部作の最終曲。ちなみに原曲は現在大阪で精力的な活動を繰り広げているレゲエバンド・Medical Tempoが制作。

10. Progress
コロナ禍の中でリリースされた、HIBIKILLA節が炸裂した一曲。“フェス行けなくともこの六畳間も極上”というパンチラインは悪夢のような自粛期間に灯された一筋の光。

11. この世界(feat. Dabo)
HIBIKILLAとDABO。レゲエとヒップホップ、両ジャンルを代表するレジェンドであり、同時期に父となった二人が紡ぎ出す次世代へのメッセージ。iTunes Storeレゲエチャートで1位も獲得。

12. そして人生が始まる
ラストを飾るのは美しさと哀しさが同居したような垂涎の名曲。実は一曲目である『Neuromancer』と同じコード進行であり、最後の曲が終わって2周目に入るとまた“Reverse=Rebirth=再生”が始まるという仕掛けになっている。「このシングル単位で聴くことが当たり前になった時代に、アルバムとして聴かせるということにこだわった点です」とは本人弁。
ちなみに「1.」と「12.」に関してはともにONODUBがトラックメイキングを手がけており、氏は前述の二曲含む「4.」と「5.」のエンジニアでもある。

以上、かなり濃厚な『KillerTune』ばかりが収録されたアルバムである。全体を通して聴くと音色はProtoje以降のRunkus、Tesselatedあたりの世界観で統一されており、ものの見事に“イマ”の音。あれだけのキャリアがあるアーティストでありながら、今もってこれだけ現行系のビートを乗りこなしていることに驚かせされる……!
多少なりとも新譜のダンスホールやヒップホップを追っている人であれば、あの『Talibans』のイントロが流れ出した瞬間きっとビックリするだろう(しかもあのトラックを使用して楽曲を発表していたのはHIBIKILLAの方が先だという恐るべき事実!)。

大ベテランアーティストが12年ぶりに出した自身6枚目となるこのアルバム。それは“伝説”がいまだ“現在進行形”であるということをまざまざと教えてくれる。

ソロバンタン


Twitter(x):@hibikilla30
Instagram:@hibikilla30

Hibikillaは北海道江別市出身のreggae/dancehallアーティスト。Papa-Bや三木道三の日本語DeeJayスタイル、さらにBounty KillerやCapletonの強烈な個性に影響を受け音楽活動を開始すると、2004年にリリースした「百烈拳」はサウンドクラッシュシーンのアンセムとなり、7インチ・シングルチャート1位を獲得。 2006年から2009年にかけて「No Problem」、「濃厚民族」、「LIFE」、「BE FREE」の4枚のアルバムをコンスタントにリリース。 2011年には日本語レベルミュージックの新たな代表作と評された「最悪ノ事態」収録の4thアルバム「FREEDOM_BLUES」を発表し、ミュージック・マガジン誌ベストアルバム賞を受賞するなどY2Kレゲエシーンを牽引。その後育児のため活動休止期間を経たものの、2020年「この世界 feat. Dabo」でiTunes Storeレゲエチャート1位獲得、さらに「Wha Gwaan Midnight feat. Tach-B and Zukie」ではweb3音楽プラットフォームAudiusで年間再生数レゲエ部門世界一に輝くなどブランクをものともせずシーンに帰還。そして2023年11月、12年ぶりのフルアルバム「KillerTune」をリリース。まさに完全復活を果たしたHibikillaから今後も目が離せない。

Hibikilla is a Japanese reggae/dancehall artist from Hokkaido, Japan. Influenced by Japanese DeeJay styles like Papa-B and Miki-Dozan, as well as the formidable performance of Bounty Killer and Capleton, he embarked on his music career. In 2004, he dropped "Hyaku-Retsu-Ken," (Fist of North Star) which quickly became a sound clash scene anthem and soared to the top spot on the 7-inch single charts. From 2006 to 2009, he consistently released four albums: "No Problem," "Noukou-Minzoku" (Intense Ethnicity), "LIFE," and "BE FREE."
In 2011, his fourth album, "FREEDOM_BLUES," featuring the track "Saiaku-No-Jitai" (The Worst Situation) which was praised as a new masterpiece of Japanese rebel music, earned him the Best Album Award from Music Magazine, establishing his influence in the Y2K scene. Despite a hiatus from his career due to children-care responsibilities, he made a remarkable return to the scene. In 2020, he reached the top spot on the iTunes Store reggae charts with "Kono-Sekai feat. Dabo"(In this world) and further claimed the title of the most-streamed track in the world in the reggae category on the web3 music platform Audius with "Wha Gwaan Midnight feat. Tach-B"
In November 2023, He has released his new full album, "KillerTune." It's clear that Hibikilla has achieved a complete comeback, and his future endeavors are something to keep a close eye on.

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