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温泉ライターが本気で推す温泉本#7『温泉批評』

温泉の沼にハマり、湯めぐりを始めてから20年。その間、数多くの先人たちの書籍から温泉について学んできた。

そこで、私がこれまで読んできた温泉関連書籍の中から、特に影響を受けてきた本を紹介していきたい。

第7回は、温泉専門雑誌『温泉批評』(双葉社)

2013年、私は雑誌『温泉批評』が刊行されたことを知り、書店に走った。当時、日本一周3016湯の旅を終え、どっぷり温泉の世界にのめり込んでいた私は、読後に「こんな雑誌を待っていた!」と愉悦に酔いしれた。

その特集や記事の数々は、私のような温泉マニアの好奇心をかき立てるものばかりだった。創刊号は、「混浴は絶滅するのか?」という骨太の特集に始まり、「なぜ富士山麓にはかけ流し温泉が少ないのか?」「ケロリン桶の秘密」「全国『温泉資格』徹底比較」「一人で行きたい温泉覆面宿泊記」といった記事が並んでいた。

執筆陣も超豪華である。野口冬人氏、石川理夫氏、松田忠徳氏、郡司勇氏、岩佐十良氏、飯塚玲児氏、大黒敬太氏、竹村節子氏、飯出敏夫氏などなど、当時の温泉専門家のオールスターともいえるメンバーだった。

2013年10月に発売された創刊号の巻頭で、編集長は次のように雑誌の‶自己紹介″をしている。少し長いが、引用しておこう。

秋、温泉雑誌は花盛りです。かけ流しに極上露天、瀟洒な庭や建築、美肌に美食。ほっこり夢気分のオンパレード。                でもそこに、温泉好きのあなたを本当に満足させる情報は載っているでしょうか?                               美麗な写真と流暢な言葉にほだされて出掛けてみると、イメージとずいぶん違っていた、なんてことも少なくないはずです。            この雑誌は、これまでになかった、温泉好きによる、温泉好きのための一冊です。美しいグラビア写真こそ少ないですが、正直に温泉と向き合っています。                                素朴な疑問に耳を澄ませ、現場を歩き、生の声を聞き、必要であれば書きにくいことにもズバッと斬り込んでいきます。そして、第一線で活躍中の温泉の目利きのみなさんに、こぞってペンを執っていただいています。     この雑誌が、日本の素晴らしい温泉文化をあらためてみなさんと考える機会になれば、これ以上の喜びはありません。                   『温泉批評』編集長 二之宮隆

当時、私が信頼を置いていた雑誌は硬派なセレクトが趣味に合っていた『男の隠れ家』や源泉そのものの質に焦点を当てていた『自遊人』あたりだったが、あくまでもよい旅館や温泉の紹介が主であった。『温泉批評』のように多角的な視点から温泉ファンの知的好奇心を満たす雑誌は皆無だったと言っても過言ではない。

二之宮編集長が述べているように、まさに「これまでになかった、温泉好きによる、温泉好きのための一冊」であった。

本書は知的好奇心を満たしてくれただけではない。個人的に大きかったのは、多角的な視点から温泉を知るきっかけを与えてくれたことである。

温泉に関する著書が100冊を超える野口冬人氏も、創刊号に寄稿されている。まさに私にとって雲の上の存在であるが、同氏はこんな一文を寄せている。

現在の風潮は源泉100%でさえあればよしとする傾向にあるように思える。湯治温泉での源泉主義はそうであるべきことと認めるが、そうではない温泉地や温泉宿にまで源泉主義を押し付ける事は、日本の入浴文化を否定されている様で危機感は大きい。

長年、日本の温泉文化とともに生きてきた重鎮の言葉は重い。その言葉に応えるように、『温泉批評2014秋冬号』では、「かけ流しの真実」という68ページにもわたる大特集を組み、温泉の本当の気持ちよさについて、さまざまな角度から論じている。

当時、「源泉かけ流しこそ正義」と信じていた私にとって、この特集は温泉と向き合う上でのターニングポイントとなった。「源泉かけ流し」という一面のみにこだわることの危うさに、遅まきながら気づかされ、もっと広く大きな視点で温泉を捉えるよう努力するようになった。おかげで温泉にまつわるさまざまなテーマに興味をもてるようになり、私の温泉ライフは、より充実していった。

今も全巻、自宅の本棚に保管しているが、たまに読み返すと、必ず新しい発見がある。私にとって頼りになる「知恵袋」といえる存在である。

そんな私が2016年に編集部から声をかけていただき、「にごり湯の誘惑」「日帰り温泉ランキング」の特集で2度座談会に参加させていただいた。2019年には「絶景温泉番付」で行司役を務めるという大役を仰せつかることとなった。温泉に関してさまざまな依頼を受けてきたが、自分が愛読している媒体から声がかかることほどうれしいことはない。

だが、雑誌の売上はどこも厳しい。ご多分にもれず、『温泉批評』も2021年から電子書籍のみの発売となってしまった。それでも、これからも温泉業界にとって欠かせない媒体であるのは間違いない。細々とでも刊行が続くことを期待したい。

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